デジタル・エコシステムへの変革の中心にあるのは、モノのインターネット(IoT)です。そこでは、コネクテッドのセンサー、スマートメーター、組み込み制御が連携し、都市のエネルギー消費を最適化し、交通を監視し、排出量を削減し、公共の安全を守っています。

これらのシステムの規模と複雑さが拡大するにつれて、それに伴う要求も増大しています。そして今、より大きなものが姿を現しつつあります。それは「IoT 2.0」へのシフトです。この次の波は、単なる接続性を超えて、知能、自律性、リアルタイムの応答性を重視し、広範かつ分散したシステム全体にわたって展開されていきます。データを報告するだけでなく、分析、判断、行動するデバイスについて考えてください。摩擦なく拡張し、途切れることなく稼働するネットワークについて考えてください。

IoTが拡大するにつれて、多くの都市計画担当者や公益事業者は接続性のボトルネックに直面しています。2.4GHz Wi-Fi、LoRaWAN、Wi-SUNのような従来のネットワークは、到達距離、信頼性、スループットの面で限界に達しつつあります。セルラーによる代替手段は速度を提供しますが、コストや電力消費の得失の問題を伴います。現在登場しつつあるのは、電力、通過性および性能のバランスを取る「Wi-Fi HaLow」と呼ばれる無線ソリューションです

IEEE 802.11ahとしても知られるWi-Fi HaLowは、スマートメーター・インフラの基盤となり、次世代スマートシティを実現するための重要な推進力となることが期待されています。それ以上に、Wi-Fi HaLowはIoT 2.0の無線バックボーンとなりえます。そこでは、常時稼働し、低消費電力で、現場に近い場所にエッジインテリジェンスを備えたデバイスが、自律的なノードとして、よりスマートで適応的な都市システムの中で機能します。

スマートメーター:スマートグリッドにおける新たな役割

歴史的に見ると、スマートメーターは料金請求の自動化や検針の簡素化のために導入されました。しかし、その役割は拡大しています。現代の電力網、特に風力や太陽光といった再生可能エネルギー源を支える電力網では、エネルギー供給の状況が劇的に変動することがあります。

スマートメーターは、供給の変動に応じて家電の使用やEV(電気自動車)の充電を調整し、需要をほぼリアルタイムで管理するよう進化しています。

数千軒の住宅が太陽光パネルで電力を得ている都市を想像してください。曇りの日には、発電量が突然低下する可能性があります。このような状況では、スマートメーターは単に電力会社へ通知するだけでなく、EV充電を遅らせたり、HVAC(冷暖房空調設備)を優先したり、バッテリーから電力を取り出したりして、家庭内のエネルギー使用を均衡させる必要があります。

このレベルの制御には、スマートメーターが多くの負荷を担うことが求められます。すなわち、ローカルでの処理、デバイスとのリアルタイム通信、そして高速かつ信頼性の高い基幹回線への接続です。Wi-Fi HaLowは、これらの要求に応える技術です。IoT 2.0の文脈において、スマートメーターはスマートエージェントへと進化します。つまり、他のデバイスと使用量を交渉し、料金変動の場面に参加し、組み込みの知能を活用してローカルで負荷を最適化できるようになるのです。

従来の接続性が不十分な理由

今日の家庭で主流となっている到達距離が短いという無線技術 -2.4GHz Wi-Fi- は、もともとIoT向けに設計されたものではありません。2.4GHzや5GHzといった高周波数帯は、壁や床を通過する際に急速に減衰します。これは、スマートホームにおいて大きな問題となります。なぜならば、信号は屋外に設置されることの多いメーターから、屋内のルーター、ゲートウェイ、あるいはスマート家電へと届かなければならないからです。

これに対して、Wi-Fi HaLowはサブGHzの周波数帯(通常は900MHz)で動作します。この低周波数帯は物理的な障壁をより効果的に透過し、従来のWi-Fiと比べて10倍の到達距離を実現します。さらに、2.4GHzの信号が壁を2枚または3枚通過した後に劣化するのに対し、Wi-Fi HaLowは複数の壁を越えても強く安定した接続性を維持できます。これは、太陽光インバーター、バッテリー、スマートサーモスタットといった家庭内エネルギーシステムとメーターを接続する上で極めて重要です。

このような強靭で到達距離が長いという接続性こそが、IoT 2.0に必要とされる分散型インテリジェンスを可能にします。つまり、意思決定がクラウドだけでなく、端末側/エッジ側で行われるのです。

LANとWANとの比較:スマートシティの視点

計画担当者や公益事業者が認識すべき最も重要な変化のひとつは、Wi-Fi HaLowが広域ネットワーク(WAN)ではなく、ローカルエリアネットワーク(LAN)のソリューションであるという点です。

LTEや5GといったWAN技術が国全体をカバーするよう設計されているのに対し、Wi-Fi HaLowの強みは、従来のWi-Fiの範囲をはるかに超えて拡張する、大規模かつ高性能なLANを構築することにあります。設計上、これはWANではなくLANソリューションです。

なぜこれが重要なのか、いかにまとめてみました。

  • 大規模なLAN:Wi-Fi HaLowは、企業、自治体、産業分野において、工場、キャンパス、農場、さらにはスマートシティ全体にまで広がる大規模なLANの構築を可能にします。
  • ネイティブIPとWi-Fiの相互運用性:Wi-Fiプロトコルであるため、Wi-Fi HaLowデバイスは広範なWi-Fiエコシステムとシームレスに相互運用できます。つまり、デバイス同士が本来の仕組みのまま直接通信できるため、既存のインフラやクラウドプラットフォームとの統合が摩擦なく実現します。
  • スマートシティでの事例:都市全体に広がるLANネットワークが、照明、交通信号、環境センサー、防犯カメラを接続する様子を想像してください。しかも、セルラーWANソリューションのような継続的な利用料金なしで。

要するに、スマートシティにおいては、すべてのセンサーがセルラーWAN経由で接続する必要はありません。その代わりに必要なのは、現場で知的処理を継続的に行い、コストを低く抑え、システム間の相互運用性を維持できる拡張可能なLANです。Wi-Fi HaLowは、従来のWi-Fiと他の多くの代替技術との間のギャップを埋める、これまで不足していた要素を提供します。それは単一の建物に限定されず、数キロメートルにまで拡張可能です。また、数十台のデバイスに制限されることなく、1つのアクセスポイントで数百台まで拡張可能です。そしてWANベースの代替技術とは異なり、それは知能をローカルに保ち、安全で、かつコスト効率に優れています。

メーター裏側のメリット:中継器なしで家全体が受信可能範囲

Wi-Fi HaLowの見過ごされがちな利点のひとつは、延長装置、メッシュ中継器または再配線が不要になることです。単一のWi-Fi HaLowアクセスポイントで、住宅内の壁や干渉を含めても数百メートルをカバーでき、開けた環境では最大1キロメートルにまで届きます。これにより、公益事業者の導入コストが大幅に削減され、OEMや消費者にとっても統合が簡素化されます。

さらに、それは分散型IoTクラスターへのアーキテクチャ的な移行を支えます。そこでは多数のノードが、ローカルな知能のメッシュ内で半自律的に稼働します。そして、1つのアクセスポイントで数百台のデバイスをサポートできるため、公益事業者は1台のWi-Fi HaLowゲートウェイで集合住宅 (MDU) 全体や都市の密集区画を接続し、インフラを効率化できます。

実地試験と世界的な広がり

最近、ワイヤレス・ブロードバンド・アライアンス(WBA)が主導した世界的な実地試験において、Wi-Fi HaLowはスマートメーター、環境センサー、ビルオートメーションなど、複数のスマートシティ用途で検証されました。

この試験では、Wi-Fi HaLowの到達距離が長いという通信能力、高密度環境での安定した信号性能、そしてバッテリー駆動デバイスにおけるエネルギー効率が実証されました。これらの結果は、Wi-Fi HaLowがスマートインフラの統合的な無線レイヤーとなる可能性を強く裏付けています。

オーストラリア、日本、アメリカ合衆国、インドネシアなどの国々では、都市部と農村部の両方で優れた性能を発揮するこの技術を背景に、電力スマートメーターへのWi-Fi HaLow導入が検討されています。

今後の展望:スマートシティスタックにおけるWi-Fi HaLow

近い将来、スマートシティを支配する単一の無線技術は存在しないでしょう。その代わりに、ハイブリッド型のネットワークアーキテクチャが登場します。IoT 2.0では、融通性があり、階層的、かつ相互運用可能なネットワークが求められます。そこでは、ローカルのエッジメッシュネットワークがより広域の都市全体のデータ基盤へと接続されていきます。いくつかの技術は存続すると考えられます。例えば、セルラー(LTEや5G)は高帯域幅のエッジコンピューティング用途を支え続けるでしょう。また、LoRaWANやWi-SUNも、遠隔地や費用を重視する用途で利用され続けます。

しかし、Wi-Fi HaLowは拡大する空白を埋め、従来のWi-Fiでは届かず、セルラーでは過剰となる中間層のIoTアプリケーションにおける主要技術として活躍する可能性が高いです。

Wi-Fi HaLowの今後の展開分野

Wi-Fi HaLowは今後、以下の分野へ拡大していくと予想されます。

  • EV充電器と家庭用エネルギー管理
  • 駐車メーターと交通センサー
  • 商業不動産における建物管理システム
  • スマート農村コミュニティでの農業モニタリング
  • 都市やキャンパスにおけるセキュリティおよび監視システム

スマートメーターからスマートシティへ

接続性はすべてのスマートシティの基盤であり、適切な無線レイヤーを選択することが成功の鍵となります。Wi-Fi HaLowは、性能・拡張性・コスト効率を兼ね備えた魅力的な組み合わせを提供し、堅牢で低消費電力かつ到達距離が長いリンクを必要とするスマートメーターなどの進化するアプリケーションに理想的な技術となるでしょう。

接続性を超えて、IoT 2.0は新たな発想を求めています。つまり、知能・適応性・自律性を大規模に可能にするネットワークです。

都市がよりスマートになり、公益事業がより活動的になり、消費者がよりエネルギー意識を高めるにつれて、Wi-Fi HaLowはそれらすべてをつなぐ準備が整っています。静かに、次の波となる持続可能でコネクテッドのインフラを実現します。

スマートグリッド技術を評価する際に、セキュリティはもう1つの重要な要素です。Wi-Fi HaLowはIEEE 802.11ah規格に準拠しており、WPA3などの堅牢なセキュリティプロトコルを含んでいます。これらのセキュリティ機能は、端末相互間の暗号化と安全な認証を提供し、スマートメーターやその他のIoTの端末をサイバー脅威から保護する上で不可欠です。一方で、一部の従来システムは、今日の拡大するサイバーセキュリティ需要に対応できるようにセキュリティ基盤を拡張する能力を欠いている場合があります。

また、規制や認証の枠組みも、Wi-Fi HaLowの大規模導入を支援する方向へ進化しています。Wi-Fi Allianceによる「Wi-Fi CERTIFIED HaLow」プログラムが確立されたことで、ベンダー間でのデバイスの相互運用性が保証され、公益事業者や自治体はWi-Fi HaLowをスマートシティのインフラに統合する際に、より高い信頼を持つことができるようになっています。この進展は、特に複数のデバイスタイプやメーカーが関わる複雑な環境において、エコシステム全体での採用を加速し、統合を円滑にすることにつながります。

大規模な導入においては、拡張性が不可欠です。1つのアクセスポイントで数百台のデバイスを接続できるWi-Fi HaLowは、高密度なスマートグリッド環境に対応できる点で際立っています。高密度の都市部では、これにより単一のネットワークが、スマートメーターやEV充電、スマート照明、交通システムなど多様なスマートシティ用途をサポートできます。しかも、広範なインフラ整備や複数のゲートウェイを必要としません。

さらに、Wi-Fi HaLowの看過され易い利点のひとつは、免許不要の周波数帯を利用できることです。これにより高額なキャリア契約が不要となり、公益事業者は自らのネットワークインフラを管理できるようになります。LTEや5Gネットワークとは異なり、ライセンス周波数帯で運用され、継続的な料金や第三者との契約を必要とするのに対し、Wi-Fi HaLowネットワークは自営・運用・保守を内部で行うことが可能です。これにより長期的なコストを削減し、より柔軟な導入を実現できます。

エネルギー計測を超えて、Wi-Fi HaLowの低消費電力で到達距離が長いという接続性は、スマートシティサービスのより広範なエコシステムへの扉を開きます。例えば、都市全体に環境モニタリングステーションを設置することが可能となり、電力を大量に消費する技術や到達距離が短いという技術に依存する必要がありません。これらのセンサーは、空気の品質、気温、湿度、騒音公害に関するデータを収集・送信し、自治体が生活の質を向上させるためにデータに基づいた意思決定を行えるようにします。

今後を見据えると、エネルギー管理、都市計画、IoTイノベーションの融合は、柔軟で安全かつ拡張可能な無線ソリューションを必要とするでしょう。Wi-Fi HaLowは、この分野において変革をもたらす技術であることを証明しました。Wi-Fi HaLowは、制約の多い従来システムと、将来のスマートシティが求める要件とのギャップを埋める能力を備えているため、よりコネクテッド、効率的で、持続可能な都市の未来に向けた基盤的な無線プラットフォームとして位置付けられています。

本記事はモースマイクロが「Power Systems Design」に寄稿した記事「How Wi-Fi HaLow Is Shaping the Future of IoT and Smart Cities」を翻訳・改編したものとなります