量子科学技術研究開発機構(QST)と三菱電機の両者は12月23日、国際共同によるフュージョン(核融合)エネルギーの実験炉として南フランスで建設が進む「ITER計画」を補完するための日欧共同の「幅広いアプローチ活動」のうち、茨城県那珂市に建設された世界最大のトカマク型超伝導プラズマ実験装置「JT-60SA」において、プラズマの位置を高速かつ精密に制御するための中核技術「高速プラズマ位置制御コイル」(FPPC)を2体完成させたと共同で発表した。
JT-60SAは、超伝導コイルによって磁場のカゴを真空容器内に形成してプラズマを閉じ込める装置だ。出力を高めるには閉じ込め性能を向上させ、プラズマ温度を数億度にする必要がある。それにはプラズマ形状を工夫し、その圧力で粒子の拡散を抑え、粒子が壁に衝突するまでの経路を極力長くすることが求められる。現在では、プラズマ断面が縦長の三角形の形状が、閉じ込め性能の向上に効果的と確認されている。
今回作製されたFPPCは、内部に水を流せるホロー導体を23ターン巻いた直径約8mのコイルであり、QSTが基本設計を担当した。三角形のプラズマを維持するため、JT-60SAの真空容器(内径10m)内の上下2か所に設置される。プラズマが不安定化し、理想形状が崩れそうになった際、FPPCに流す電流を調整して磁場を変化させ、プラズマの位置と形状を精密に制御するのが目的だ。
設置作業では、まず真空容器の壁全面に誤差磁場補正コイル(EFCC)が設置され、その内側でFPPCを製作・固定し、さらに「安定化板」を貼ってプラズマと接しないようにされた。最後に、安定化板にプラズマの熱を除去する冷却配管と炭素タイルが貼られた。FPPC1体には、耐放射性のある樹脂を含浸した絶縁テープを巻いた導体が約600m使用されており、これをコイルケースに収納して蓋を溶接する構造となっている。
基本設計では、プラズマ運転前の200度でのベーキングや、運転中のプラズマ崩壊(ディスラプション)時の強大な電磁力などに耐えうるようコイルケースを補強し、真空容器に強固に固定する構造とされた。一方、プラズマの安定制御に必要な磁場精度の確保のため、直径8mのコイルに対し、中心位置や半径、高さを±2mmという高精度で製作する必要があったとする。
通常、コイルは工場で製作されるが、今回は完成済みの真空容器とほぼ同サイズのため搬入できず、容器内で巻線を行う必要があったという。QSTは容器外から導体を引き込んで巻線機で巻く基本構成を設計し、製作を担当した三菱電機、容器外のアンコイラー(巻線をほどく装置)からガイドローラーを設置したポートを通じて導体を送り出し、ローラー装置が絶縁物を巻きながら容器内のコイルを巻く巻き枠(ターンテーブル)へ導く一連の装置が配置された。
導体を均一に巻くためには、高さを維持したまま引っ張りながら巻く必要がある。しかし、ポートのサイズや位置の制約、容器内のEFCCなどの構造物の存在により、理想的な機器配置ができなかった。そのため、コイル製作にあたっては導体にたわみや歪みが生じたり、絶縁物に撚れが発生したりする課題が懸案されたという。
そこで、たわみ防止のため、容器外のアンコイラーでの導体の送り速度と容器内における巻き取り速度が合うよう、ターンテーブルの回転速度が調整可能とされた。導体の歪みについては、巻き枠を高強度化して半径方向縮みを0.5mm以下となるよう設計。絶縁物の撚れに対しては、絶縁物を巻く装置に導体の位置保持機構を追加し、導体に対して絶縁物が撚れずに巻ける構造が実現された。
ケース装着時の整形では、当初、コイルの一部を押すと他の部位が変形するなどの問題が生じたが、18体の固定座に強化した位置出し治具を設け、ダイヤルゲージで微小な変化をモニターしながらレーザートラッカーで計測、整形と位置出しが同時に進められた。その結果、目標値±2mm以内という技術課題を克服し、真空容器内の狭隘(きょうあい)な環境で巨大コイルを精度良く製作する技術が確立された形だ。
今回製作されたFPPCは、2026年開始のJT-60SAプラズマ加熱実験で、日欧共同開発の制御プログラムを用いて、プラズマの安定的な制御・維持に活用される。JT-60SAを通じて獲得されるFPPCを用いたプラズマ制御技術は、ITERで計画中の制御を事前に検証できるレベルであり、国際競争が激化しているプラズマ制御技術の確立にも貢献するという。またITERの先の将来のフュージョンエネルギー原型炉で期待されるAIを含む自動制御技術の礎となるものであり、今回の完成はフュージョンエネルギーの研究開発を世界的に推進する重要な一歩になるとしている。




