中国の民間企業・藍箭航天は2025年12月3日、新型ロケット「朱雀三号」の初打ち上げに成功した。朱雀三号はメタンを燃料に使う大型ロケットで、軌道到達を果たしたメタン系ロケットとしては世界で4例目となった。
第1段は垂直着陸によって回収し、再使用する設計だが、今回は着陸シーケンス中に異常が発生し、軟着陸と回収には至らなかった。それでも、軌道投入の成功と回収試験の実施は同社の技術力を示すとともに、中国における再使用ロケットの時代の幕開けを象徴する出来事となった。
北京に拠点を置く宇宙企業・藍箭航天(LandSpace)
北京藍箭空間科技(藍箭航天、英名:LandSpace)は、北京に拠点を置く企業で、2015年に清華大学発のベンチャーとして設立。官民のベンチャー・キャピタルや投資ファンドから多額の資金を調達し、ロケット開発を継続してきた。
同社は当初、「朱雀一号」と呼ばれる小型の固体ロケットを開発したが、2018年の1号機打ち上げに失敗。その後は並行して開発していた新型ロケット「朱雀二号」に、開発の軸足を移した。
朱雀二号は、燃料に液体メタン、酸化剤に液体酸素(液酸)を用いる2段式ロケットで、地球低軌道に最大6tの打ち上げ能力をもつ。2022年12月の初飛行は失敗したが、2023年7月の2回目の打ち上げで軌道到達に成功し、メタン系ロケットとして史上初めて軌道に到達した例となった。
改良型を含む朱雀二号シリーズはこれまでに6回打ち上げられ、4回が成功している。同社は当初、朱雀二号をさらに発展させていく計画を示していたが、ここでも方針を転換し、より大型の新型ロケットの開発に移った。その結果、開発されたのが「朱雀三号」である。
再使用可能な第1段機体を備えたロケット「朱雀三号」
朱雀三号は全長66.1m、直径4.5m(フェアリング直径は5.2m)の2段式ロケットで、朱雀二号と同様に推進薬として液体メタンと液体酸素を用いる。メタンは、ロケットの性能を比較的高くできるうえに、コストが安いため経済性にも優れ、産出地の点から入手性にも優れているなど、次世代のロケット燃料として注目されている。
朱雀三号の最大の特徴は、米スペースXの「ファルコン9」ロケットのように、第1段機体を着陸・回収し、再使用できるところにある。第1段はステンレス製で、ファルコン9と同様に、姿勢制御システム(RCS)と、グリッド(格子状)・フィン、着陸脚を備える。同社によると、設計上の再使用回数は20回以上としている。
また、メタンを使っている点も、燃焼時に生成物が残りにくく、取り扱いも簡単なため、打ち上げ前後の地上作業の手間やコストを削減できることから、再使用しやすいロケットにできるという利点がある。
第1段には、藍箭航天が自主開発した液酸/メタン・エンジン「天鵲12A」エンジンを9基装備する。この9基は大きく3種類に分かれており、外側に並ぶ8基のエンジンのうち4基はノズルが固定されており、再着火もできない。残り4基のうち2基はジンバル機構をもち、ノズルが可動式になっているが、再着火はできない。そして残りの2基と、中央にある1基のエンジンは、ジンバルと再着火機能の両方を備えている。
地球低軌道への打ち上げ能力は、1段目を回収しない場合は11.8t、回収する場合は8.0t。
朱雀三号の打ち上げは、酒泉衛星発射センターに隣接する東風商業航天創新試験区に設けられた、同社の専用射場から行う。また、第1段機体は、発射台から約390km離れたところにある、甘粛省の砂漠に設けられた第1着陸場に着陸する。
藍箭航天は、2022年に朱雀三号の開発計画を公表。2024年には垂直離着陸実験機による、高度数百m、最終的には10kmまで飛行したのち着陸する実験を行った。
同機の開発は順調ではなかったようで、とくにロケット・エンジンの開発が遅れたことで、当初よりスペックダウンしたエンジンを搭載し、打ち上げ能力がやや落ちる暫定使用の朱雀三号「基本型」をまず開発。その後、後述する「改良型」によって、当初目標としていた性能を達成することになった。
朱雀三号1号機は打ち上げ成功、しかし着陸前に機体爆発
朱雀三号の1号機は、日本時間12月3日13時00分(北京時間同日12時00分)、東風商業航天試験場から打ち上げられた。ロケットは順調に飛行し、高度142×402km、軌道傾斜角56.95度の軌道に入り、打ち上げは成功した。なお、ロケットにはダミー・ペイロード(重り)が搭載されており、実際の衛星は搭載されなかった。
一方、第1段は第2段と分離後、回収試験のため再突入に向けた減速燃焼(ブレーキング・バーン)を行い、大気圏へ再突入したのち、回収地点に向けて降下した。しかし、着陸のための燃焼(ランディング・バーン)の開始した直後あたりで何らかの異常が発生し、機体は爆発した。そのまま機体は墜落し、着陸場のすぐ近くに激突した。
藍箭航天は声明で、着陸失敗について「具体的な原因は現在調査中」としたうえで、「今回のミッションでは、事前の試験から打ち上げまで、各システムの検証ができました。また、実際の飛行条件下で重要なデータを取得し、今後の最適化、信頼性の向上、第1段の回収・再利用の実現に向けた重要な基盤を築きました」と述べている。
「このミッションで得られた貴重なデータと経験に基づき、速やかに検証試験と改善を行い、今後のミッションに向けて再使用ロケット技術の開発を進めていきます。さらに、国家戦略のニーズに合致する主力ロケットとなり、強みを活かして宇宙強国の構築と発展に貢献することをめざします」(藍箭航天の声明)
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