日本IBMは12月16日、材料開発に特化した新サービス「IBM Material DX」の提供を開始した。同サービスは、材料探索から設計・導入までを一気通貫で支援し、開発スピードを数倍に高めるとともに、ESG()対応や規制物質リスクの事前回避を実現するという。企業は新製品投入の高速化、情報活用基盤の構築、研究開発人材の生産性向上を通じてDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速できるとのこと。
日本における材料産業の課題
冒頭、日本IBM 執行役員 研究開発担当 兼 東京基礎研究所長の福田剛志氏は「日本の材料産業は、長年にわたり世界有数の技術力と品質を武器に、半導体から化学、高分子、金属、セラミックスに至るまで、ものづくり国家を支えており、今なお日本経済の競争力の原点の1つだ。しかし同時に、昨今の地政学的なリスクや規制強化、調達難、サプライチェーンの分断といった予測不能な変化が加速し、企業はこれまで以上に迅速で戦略的な材料開発が求められている」と現状を紐解いた。
続いて、日本IBM 東京基礎研究所 プリンシパル・リサーチ・サイエンティストの武田征士氏は「材料産業は日本のあらゆる産業の成長を根本で支える基幹産業であり、日本における製造業のGDPを約30%以上を占めている。しかし、専門家や職人の高度な経験と知識に依存する文化が根強く残っており、こうした属人性が開発期間の長期化やコスト増大を招き、世界の急激な変化に迅速に対応できるR&D(研究開発)体制の構築を困難にしている。結果として法規制対応の遅れや材料供給力の低下、海外市場の縮小によるシェア低下につながり、中長期的に国際競争力を失う危機的状況にある」と指摘。
同氏によると、競争力を維持・成長させるためには、AIや基盤モデル、量子コンピュータ、先進的な数理アルゴリズムをはじめ、進化を続ける技術をR&Dに取り入れることが重要だという。そのため、従来な属人的な開発プロセスから脱却し、DXを推進することであらゆる変化に陣族に対応できるR&D体制を構築する必要があるとのことだ。これらの変革はトップダウンで戦略的に行い、文化を現場の隅々まで浸透させることが肝要とも話す。
「IBM Material DX」の概要
そのような変革を支援するものがIBM Material DXというわけだ。同サービスはIBM Researchの先端技術を中核に、IBMのコンサルティングサービスや高度な技術基盤を融合した、素材開発に特化した伴走型DXサービスとなる。
武田氏は「IBMのリサーチ部門、コンサルティング部門、テクノロジー部門が連携し、顧客の材料開発R&DのDXを加速させるためのソリューション」と位置付けており、「材料開発の高度・高速化」「次世代技術への体制構築」「ESGリスク判定」の3つの価値を提供する。
材料開発の高度・高速化と次世代技術への体制構築では、4つのコンポーネントで構成。顧客の課題やニーズに応じて「データマネジメント」「AI・基盤モデル」「LLM・対話型インタフェース」「柔軟なインフラ環境」の4つの柱を組み合わせて設計・構築している。
データマネジメントでは、IBM Researchが構築した膨大な公開文献データ基盤に、顧客の材料・製品情報を統合し、社内外の情報を横断的に解析して新材料開発を戦略的に支援しする。
AI・基盤モデルは、数十億の化合物データで事前学習した基盤モデルと先端最適化技術で、材料候補のスクリーニング、構造設計、合成経路探索などを効率化し、開発スピードを高めるという。
LLM・対話型インタフェースについては、材料開発に特化したAIエージェントと、材料分野の専門家と会話するような自然なインタフェースで、専門知識がなくても必要な情報やインサイトを素早く取得できるとのこと。
柔軟なインフラ環境は、オンプレミス(IBM Fusion)とIBM Cloudを含むマルチクラウド、ハイブリッドクラウド環境に対応し、機密情報を外部に出さずに運用を可能とし、ニーズに合わせた柔軟な構成を選択できる。
グローバルで数十社が先行導入
さらに、ESGリスク判定では「IBM Safer Material Advisor」のツールでPFAS(Per-and Polyfluoroalkyl Substances:有機フッ素化合物)など規制強化が進む物質のリスクをAIが事前に可視化するほか、量子コンピュータの材料開発への適用に向けた教育・共同開発など、長期視点での支援も提供。
こうした価値を提供するとともに、IBMのメンバーが顧客を伴走支援し、要件定義からデータ収集・キュレーション、モデルの追加学習、UI・エージェントのカスタマイズ、導入、運用支援、メンテナンスまでを一貫してサポートする。
現在、グローバルで数十社が先行導入し、R&D体制の強化に取り組んでいる。たとえば、JSRは半導体材料など多岐にわたる材料開発、SCREENは半導体洗浄装置用の新材料開発、ロレアルは新たな化粧品開発で先行導入している。
武田氏は「材料技術は、半導体や量子コンピュータとも密接に関連しており、これら3つの技術がシナジーを生み出すことで、日本の産業を支える原動力になることを期待している」と述べ、説明を結んだ。





