山梨大学、広島大学、国立遺伝学研究所(遺伝研)、国立科学博物館(科博)の4者は12月12日、日本列島の絶滅大型ほ乳類「ナウマンゾウ」(Palaeoloxodon naumanni)の化石からの古代DNAを解析し、共通先祖から比較的新しい時期に分岐したとする従来説を覆し、約105万年前に分岐したユーラシア最古の系統であることが判明したと共同で発表した。
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ナウマンゾウの生体復元図。今回の研究成果に基づいた復元図である。頭部はオスの頭骨化石、体の骨格は複数個体の化石標本を参考に描かれた。背景には、当時の日本列島に共存していた巨大なシカ(ヤベオオツノジカ)も描かれている。復元画制作:府高航平氏(出所:共同プレスリリースPDF)
同成果は、山梨大 総合分析実験センターの瀬川高弘講師、同・秋好歩美技能補佐員、広島大大学院 統合生命科学研究科の米澤隆弘教授、遺伝研の森宙史准教授、科博 生命史研究部の甲能直樹部長らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、幅広い分野を扱う学術誌「iScience」に掲載された。
従来説を覆す新たな発見とは?
約2万2000年前に絶滅したとされるナウマンゾウが属する「パレオロクソドン属(直牙象)」は、更新世ユーラシアで最も繁栄した大型植物食ほ乳類の1つだ。アフリカで誕生後、遅くとも約78万年前にユーラシアに進出し、欧州から東アジアまで広く分布した。近年の古代DNA研究により、パレオロクソドンは主にアフリカゾウ属を祖先とし、そこにマルミミゾウやマンモスとの交雑が加わって成立したという、複雑な起源を持つことが解明されつつある。
また形態学的な研究から、パレオロクソドンには原始的な「シュトゥットガルト型」(頭骨の隆起が弱い)と、派生的な「ナマディクス型」(頭骨の隆起が強い)という頭骨形態があるが、前者のDNA情報が得られていないために遺伝学的な検証ができず、両者の関係はよくわかっていない。ナウマンゾウはシュトゥットガルト型を示すアジアのパレオロクソドンだが、DNA情報がないために進化系統上の位置づけはこれまで不明だった。そこで研究チームは今回、青森県立郷土館などが所蔵するナウマンゾウ化石4個体を対象に、古代DNAの抽出を試みたという。
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パレオロクソドンの2つの頭骨形態。(左)派生的な「ナマディクス型」(ヨーロッパのP. antiquusに相当)。(右))原始的な「シュトゥットガルト型」(ナウマンゾウ)。頭頂後頭稜の発達の違いが明瞭だ。(出所:共同プレスリリースPDF)
今回の研究では、特に保存の良かった2個体の臼歯の象牙質から、ミトコンドリアDNA配列が検出された。化石の年代は約3万4000年前と約4万9000年前で、特に後者からのDNA抽出は、DNAが残りにくい環境である日本における最古の記録となった。今回は、特定のDNA領域を集中的に増やす最新技術「myBaitsキャプチャ法」が使用され、その結果、両個体のミトコンドリアゲノムのドラフト配列の再構築が達成された。
次に、決定されたドラフト配列を用いて、他のゾウ類との系統的な関係が解析された。その結果、2個体のナウマンゾウは1つのまとまった系統を形成し、さらにドイツや中国のパレオロクソドンと共にユーラシア全域に広がる「ワイマール・エーリングスドルフ(WE)グループ」を形成することが示された。
しかしDNA損傷が激しく、ドラフト配列からの分岐年代の推定は困難だった。このため、今回はまず両個体の共通祖先のDNA配列を再構築し、それを用いて分岐年代推定が行われた。これにより、損傷の激しいDNAからでも信頼性の高い分岐年代推定が可能となったという。そして、ナウマンゾウはWEグループ中で最も早く分岐した系統と判明し、その時期は約105万年前と推定された。これまでナウマンゾウは、パレオロクソドンの中で比較的新しい時期に分岐した系統で、日本列島に隔離された後、島嶼化の影響で小型化したと考えられていたが、それを覆す結果だった。
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パレオロクソドンの系統樹と分岐年代。色は頭骨の形態を示す(赤:原始的なシュトゥットガルト型、青:ナマディクス型、黒:不明)。ナウマンゾウ(赤)はWEグループに属し、約105万年前に分岐した最古の系統と判明した。(出所:共同プレスリリースPDF)
なお今回の研究から、日本列島が古い系統が残る特別な環境である「レフュジア」だったことが実証された。それ故に、今回、大陸集団では検出できない時間軸を伴った生物地理学的な挙動まで解明できたとしている。後期更新世まで(約1万2000年前以前)の日本列島には、さまざまな大型ほ乳類が生息していた。それらは大陸から断続的に渡来した結果、「重層的」に集団の置き換わりが起こった歴史を持つ可能性があり、今後の古代DNA研究の最も重要なテーマの1つになるとしている。
また今回は、ナウマンゾウがユーラシアのパレオロクソドン進化史における重要な位置を占めることが判明したが、解析されたのは母親から受け継がれるミトコンドリアDNAのみである。今後、両親から受け継がれる核ゲノムDNAの解析が実現すれば、以下の重要な疑問に答えを得られる可能性があるとした。
- ユーラシアのパレオロクソドンは一度の交雑で成立したのか、それとも複数回の独立した交雑があったのか
- NNグループとWEグループは核ゲノムレベルでどのような関係にあるのか
- ナウマンゾウはなぜ絶滅したのか、その遺伝学的な要因は何か
研究チームによれば、今後DNA抽出技術の向上や堆積物に含まれるDNAを分析する新技術の発展により、より多くのナウマンゾウ標本や他の日本の更新世ほ乳類からの古代DNA解析が進むことが期待されるとのこと。そしてこれにより、日本列島のほ乳類相の成立史がより詳しく解明されるだろうとしている。