千葉大学は12月11日、近年発見された第3の磁性体「交替磁性体(オルターマグネット)」のスピン(磁気)構造の測定が困難だったが、光がらせん状に進む円偏光を用いた「共鳴光電子回折」(RPED)手法を応用することで、その構造を直接検出することに成功し、交替磁性体探索が容易になったと発表した。

同成果は、千葉大大学院 工学研究院のピーター・クリューガー教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。

高速・省エネメモリ実現が期待される“未来型電子材料”へ

すでに磁気メモリデバイスなどで利用されている「強磁性体」、次世代の磁気メモリデバイスなどへ応用するための研究開発が進む「反強磁性体」に続き、近年発見されたのが第3の磁性体である「交替磁性体」だ。この磁性体は、磁気双極子が反平行に並んでいる点は反強磁性体と同じだが、その物性は大きく異なり、実空間と波数空間の両方で磁気の符号が交替している点を特徴としている。

交替磁性体を用いることで、より簡単に磁気メモリデバイスを作れる可能性があることから、スピントロニクス分野で注目を集めているが、その性質を持つ物質の種類が非常に少ないのが現状だ。その主な理由の1つとして、交替磁性体のスピン構造(各原子中の電子のスピンの向き)を測定することが困難であることが挙げられる。

一方で強磁性体の場合、物質の異常散乱因子を活用し、価電子の空間秩序構造を観測するRPEDを用いた実験で、「RPEDにおける磁気円二色性」(MCD-RPED)という現象が先行研究で発見されており、今回の研究でもこの現象を理論的に解析したという。

RPEDでは、試料の表面にX線を照射し、光電荷で放射される電子の方向が測定される。ここでは特に、円二色性(CD)と呼ばれる光の回転方向による吸収の違い(右円偏光と左円偏向のRPED強度の差)が注目された。交替磁性体の代表的な物質である「テルル化マンガン化合物」を対象に、RPED実験を想定して理論的な解析が行われた。その結果、テルル化マンガン化合物でMCD-RPED信号が存在し、MCD-RPED法で交替磁性体の磁気構造を測定できることが証明された。

一般に磁性体でX線吸収を行うと、光の回転方向によって、吸収量が異なる強い局所的な磁気円二色性(XMCD)が生じる。例えば、吸収が最も強いエネルギーでは、上向きスピン原子は左円偏光の吸収が強く、逆に下向きスピン原子は右円偏光の吸収が大きくなっているとされる。

しかし、反強磁性体および交替磁性体の場合、上向きスピン原子と下向きスピン原子は同数のためにXMCD信号はゼロとなり、通常の測定では区別が困難だ。これに対し、交替磁性体の場合、上向きスピン原子と下向きスピン原子の局所構造は互いに回転対称の関係にある。そのため、PREDの角度分布(RPEDパターン)を解析すると、上向きスピンと下向きスピンの原子のXMCD信号を区別でき、結果として局所的な磁気双極子を測定することが可能になる。

  • テルル化マンガン化合物の結晶構造と、交替磁性体の状態におけるスピン構造

    (a)テルル化マンガン化合物(MnTn)の結晶構造(赤・青:Mn、黄:Te)と、交替磁性体の状態におけるスピン構造(矢印)。(b・上)XMCD効果により、左円偏光の場合には、上向き原子(A)は下向きスピン原子(B)より共鳴光電子放射が強く、黄色矢印の方向に強いPEDピークが生じる。(b・下)右円偏光の場合には逆で、B原子の放射が強く、PEDピーク方向が180度で回転する。その結果、CD(右・左の差)は有限となる(出所:千葉大プレスリリースPDF)

テルル化マンガン化合物の場合、磁気双極子を持つマンガン原子の周囲にテルル原子が6個あり、上向きスピンのマンガン(Aサイト)と下向きスピンのマンガン(Bサイト)は互いに180度回転した構造となっている。その結果、双方とも電子の飛び出し角度分布(光電子回折(PED)パターン)も同じく180度で回転した関係になるとする。

通常のPED実験では、A原子とB原子が同じ強度でエネルギーを放射するので、Aサイト・Bサイトまたは上・下向きスピンを区別することができない。ところが、RPEDの場合には、局所的なXMCD効果が加わることで、スピン方向(上・下)と円偏光(右・左)によってRPED強度が変わり、Aサイト・Bサイトまたは上・下向きスピンを区別することができるのである。

今回の研究ではこのRPED理論と数値計算方法が開発され、交替磁性体であるテルル化マンガン化合物のMCD-RPEDパターンが計算された。その結果、交替磁性体にMCD効果が存在し、強度が大きいことが判明した。また、MCD信号の角度分布はA・BサイトのPEDの差と一致し、強度は局所的なXMCD信号とほぼ比例することが証明された。この手法により、対象の物質が交替磁性体かどうかを測定できることが明らかにされたのである。

  • テルル化マンガン化合物の最隣接構造とPEDピーク、および計算結果

    (a)テルル化マンガン化合物の最隣接構造。(b)Aサイト、Bサイトからの主なPEDピーク。(c)計算結果としてのRPED-MCDパターン(出所:千葉大プレスリリースPDF)

今回発見された手法は、あらゆる交替磁性体でも測定可能であるため、研究チームは今後、多くの交替磁性体候補物質の磁気構造を調べていくことを検討しているという。また国内だけでなく、海外のさまざまな研究者との共同研究も始めており、世界中の候補物質を今回の手法で測定する予定としている。