国立天文台は12月5日、初期宇宙に数多く観測されている「高速度Hα輝線放射天体」は「活動銀河核」の証拠とされ、これにより「初期宇宙には予想以上に多くの活動銀河核が存在し、超巨大ブラックホールが急速に成長していた可能性がある」とする説を強く後押ししていたが、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡と米国航空宇宙局(NASA)のX線宇宙望遠鏡「チャンドラ」を組み合わせた観測により、一般的な活動銀河核では必ず観測されるX線放射がないなど、通常の活動銀河核とは異なる性質を持つことが明らかにされたと発表した。
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(上段)高速度Hα輝線放射天体「GLASS 160133」の、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による近赤外線カラー画像(左)と、チャンドラによるX線光子カウントマップ(右)。JWSTで検出された位置にX線放射は検出されなかった。(下段)2022年11月4日、2023年8月1日、同年12月10日に取得されたJWSTの各赤外線フィルターによる画像と、差分画像。差分画像に天体が写っていないことから、これらの期間に光度変動が生じなかったことが確認された。(出所:国立天文台Webサイト)
同成果は、国立天文台 科学研究部の小久保充特任助教(国立天文台フェロー)と東京大学 宇宙線研究所の播金優一助教の研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。
2つの宇宙望遠鏡を用いて新たな謎に迫る
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の活躍により、宇宙誕生から間もない時代(初期宇宙)に、秒速1000kmを超える高速度成分を持つ強い水素輝線(Hα輝線)を放つ天体「高速度Hα輝線放射天体」が数多く発見されている。これらの多くは赤くて極めて小さいことから、「Little Red Dots(LRD)」とも呼ばれる。近傍宇宙ではほとんど見られない、新しい種類の天体だ。
高速度のHα輝線は、銀河中心の超大質量ブラックホールの周囲に形成される降着円盤において、物質が相対論的な高速度で運動することで生じる活動銀河核からの放射の特徴と一致することがわかっていた。そのため、高速度Hα輝線放射天体の発見は、「初期宇宙には予想以上に多くの活動銀河核が存在し、超大質量ブラックホールが急速に成長していた可能性がある」という説を強く後押しする証拠とされてきた。
しかし、高速度Hα輝線放射天体が本当に活動銀河核であるという証拠は、これまでのところ得られていなかった。そこで研究チームは今回、その真偽を確かめたという。
今回の研究では、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の赤外線カメラによる複数回の撮像観測データと、チャンドラによる極めて深いX線観測データを組み合わせ、5つの高速度Hα輝線放射天体の解析が行われた。もしこれらの5天体が活動銀河核であるのなら、超大質量ブラックホールへと降着する物質によって形成される降着円盤からの紫外~可視光が短時間で明るさを変える様子や、降着円盤内縁部からの強いX線放射など、活動銀河核の特徴が必ず観測されるはずであり、それらが探索された。
しかし解析の結果、対象とした5天体すべての高速度Hα輝線放射天体において、紫外光~可視光に相当する波長域での明るさの変化はまったく検出されなかった。また、一般的な活動銀河核では必ず観測されるはずのX線放射も検出されなかったとした。
これらの結果は、観測された天体が通常の活動銀河核とは大きく異なる性質を持つことを示唆している。そのため、従来の活動銀河核モデルでは説明が難しく、別の物理的な仕組みが働いている可能性が浮かび上がってきたとする。今回の研究では、激しい星形成が生み出す高速ガス流や、星からの紫外線が周囲の水素ガスで散乱されることで見かけ上速度の大きいHα輝線成分が生じる、といった代替シナリオが提案された。
今回の研究成果は、初期宇宙における超大質量ブラックホールと銀河の成長の関係、そして高赤方偏移宇宙における活動銀河核の普遍性について、これまでの理解を根本から見直す必要があることを示唆しているという。今後、より詳細な分光観測、多波長での追観測、理論モデルの高度化などを通じ、謎に包まれた高速度Hα輝線放射天体の正体の解明が進むことが期待されるとしている。