国立天文台、アストロバイオロジーセンター(ABC)の両者は12月4日、すばる望遠鏡を用いた巨大ガス惑星や褐色矮星の直接撮像と性質解明を目的とする国際共同探査計画「OASIS(オアシス)」の初成果として、これまで詳細な調査が行われてこなかった2つの星の周囲に、それぞれ木星より重い「スーパー・ジュピター」と、巨大ガス惑星と星の中間の質量を持つ「褐色矮星」という低質量天体を発見したと共同で発表した。
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矢印で示されているのが、OASISで初の発見となったスーパー・ジュピター「HIP 54515 b」。星マークは主星の位置を示し、点線は主星を遮るためのマスクの輪郭を表す。(c)T. Currie/Subaru Telescope, UTSA(出所:すばる望遠鏡Webサイト)
同成果は、ABC/国立天文台の葛原昌幸特任助教が参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は2本の論文にまとめられ、米国天文学会が刊行する天体物理学を扱う学術誌「The Astrophysical Journal」と、その速報版の学術誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。
すばる望遠鏡の「OASIS」計画による初成果
OASISでは、まず欧州宇宙機関の位置天文学用宇宙望遠鏡「ヒッパルコス」とその後継機「ガイア」が観測した天の川銀河の星々の精密な三次元位置データを活用。未知の伴天体によって動きがわずかに揺らいでいる星を特定する。そしてその伴天体を、すばる望遠鏡の極限補償光学装置「SCExAO(スケックスエーオー)」で直接撮影する流れだ。これにより、これまで観測対象とされてこなかった恒星を公転する巨大ガス惑星や褐色矮星を直接観測すると同時に、その質量や軌道を精密に測定することが可能となる。さらにOASISは、2027年打ち上げ予定の「ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡」の重要戦略的ミッション支援としての役割も担う。
OASIS初の発見は、太陽の約2倍の質量を持つ星「HIP 54515」の周囲を公転する、木星の18倍弱の質量を持つ超巨大ガス惑星「HIP 54515 b」だ。公転距離は約25天文単位(太陽系奈良天王星と海王星の中間に相当)のスーパー・ジュピターである。
この惑星系は地球から約275光年と距離があるため、HIP 54515 bは天球上で主星のすぐ近傍(0.15秒角の位置)に見え、観測は現在の直接撮像技術の限界に迫る挑戦だったという。0.15秒角という見かけの近さは、例えるなら100km離れた場所から野球のボールを見るようなものだ。
HIP 54515 bは、木星より重いスーパー・ジュピターの軌道が、より低質量のガス惑星よりもやや楕円になっている傾向がある、という近年の知見に新たな事例を加える天体となった。このような特徴は、太陽系の巨大ガス惑星とはやや異なる形成過程をたどった可能性を示唆するとした。
一般的に、巨大ガス惑星と褐色矮星の境界は、木星質量の約13倍とされる。しかし、その識別は質量だけでは定まらない。原始惑星系円盤内から誕生した可能性が高ければ惑星となるし、星のように分子雲から誕生した可能性が高いのなら褐色矮星となる。そのため、HIP 54515 bは質量的には褐色矮星の範疇に入るが、原始惑星系円盤内で形成されたと考えられるため、惑星とされたのである。
そして、2つ目の発見である「HIP 71618 B」は、同じく太陽の約2倍の質量を持つ星「HIP 71618」を公転する褐色矮星だ。褐色矮星は、星と似た誕生の仕方をするものの、水素が核融合を起こして自ら輝けるほどの質量が集まらなかった天体である。天体が星となるためには木星の約80倍以上の質量が必要とされるが、HIP 71618 Bは木星の約60倍だ。公転距離は太陽系の土星軌道(約10天文単位)より少し大きく、細長い楕円軌道を描く。なお今回の発見には、すばる望遠鏡と同じくハワイ・マウナケア山にあるW.M.ケック天文台の観測データも活用された。
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矢印で示されているのが、OASISで2例目の発見となる褐色矮星「HIP 71618 B」。星マークは主星の位置を示す(マスクされているため、主星は見えない)。(c)T. Currie/Subaru Telescope, UTSA(出所:すばる望遠鏡Webサイト)
HIP 71618 B自体は惑星ではないものの、将来の地球型惑星探査に重要な役割を果たす可能性を秘めている。というのも、この天体がローマン宇宙望遠鏡が搭載するコロナグラフ装置の技術実証要件を満たすからだ。この実証実験は、主星の光を抑え、その周囲にある1000億分の1の明るさしかない地球型惑星を発見するための観測技術を、宇宙望遠鏡で初実証するものとなる。この技術実証には厳しい対象条件があり、今回のHIP 71618 Bの発見以前には、それを明確に満たす観測対象が見つかっていなかった。
今回の成果により、位置天文学と直接撮像を組み合わせることで、これまで隠されていた巨大ガス惑星や褐色矮星を発見できることが示された。OASISでは数十個の候補天体を調査しており、今後もさらに多くの発見が期待される。これらの成果は、巨大ガス惑星や褐色矮星がどのように形成され、その大気がどのように進化するのかを理解する上でも重要だ。そして将来、生命が存在しうる地球型惑星を探し出すための望遠鏡技術の発展にも寄与することが期待されている。