京都大学(京大)は12月1日、ブドウ、レーズン、およびレーズン水(レーズンを水に浸漬したもの)における微生物叢の動態を調べ、またレーズン水の発酵試験での成分変化を解析した結果、レーズン水だけでワインができる仕組みの一端を解明したと発表した。

  • レーズンとワインの自然発酵醸造

    アルコール発酵性酵母に富むレーズンと、それによるワインの自然発酵醸造(出所:京大プレスリリースPDF)

同成果は、京大大学院 農学研究科の日尾守大学院生(研究当時)、同・橋本渉教授らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

レーズンがワイン誕生の歴史解明に一石を投じる?

ブドウ果皮にはアルコール発酵性の酵母がいないため、現代のワイン造りでは、それらの酵母を添加して醸造されている。しかし古代では、ブドウ果皮や道具、大気中に存在する微生物の自然発酵によりワインが造られていたとされ、アルコール発酵性酵母の由来が不明だった。

そこで研究チームは今回、ブドウ、市販および自作のレーズン、さらにはレーズン水における酵母を含む微生物叢解析を実施。これにより、自然発酵によるレーズン水からワインに変化する仕組みの解明を試みたという。

まず、市販のブドウとレーズン(ノンオイルタイプ)を対象に、常在する真核微生物叢が調べられた。その結果、レーズンからのみアルコール発酵性酵母が検出されるなど、ブドウとレーズンでは多様性が有意に異なることが判明した。

  • ブドウとレーズンにおける真核微生物叢

    ブドウとレーズンにおける真核微生物叢(出所:京大プレスリリースPDF)

次に、ブドウとレーズンからそれぞれの酵母を単離し、そのアルコール発酵能が評価された。すると、レーズンから単離された酵母群の方が、ブドウからの単離酵母群よりも高いアルコール発酵能を示すことが確認された。

  • ブドウとレーズンからの単離酵母の各アルコール発酵能

    ブドウとレーズンからの単離酵母の各アルコール発酵能(出所:京大プレスリリースPDF)

続いて、レーズン水の微生物叢動態と成分変化が解析された。レーズン75gを滅菌水225mLに浸漬し、レーズン水を作製。25℃で静置した結果、3日あたりから気泡が発生しレーズンが浮き上がった。その後14日目まで発酵試験を継続し、レーズン水におけるグルコースとエタノールの各濃度を経時的に測定したところ、グルコース濃度の減少に伴ってエタノール濃度の上昇が確認されたとのこと。エタノール濃度の上昇前から、酵母の濃度が約108cells/mLにまで急上昇する一方、原核微生物である細菌の濃度は終始102cells/mL程度で低く抑えられていた。

  • レーズン水における外観と成分変化

    レーズン水における外観と成分変化(一部が輝度修正されている)(出所:京大プレスリリースPDF)

レーズン水における真核微生物叢の動態を解析した結果、浸漬当初はアルコール発酵性酵母以外の糸状菌なども検出されたが、14日目では「Schizosaccharomyces属」と「Zygosaccharomyces属」のアルコール発酵性酵母が独占していた。その際、レーズン水におけるグルコースは完全に消費され、エタノール濃度は8%(80g/L)に達し、ワイン様の酒類が生成されていた。

  • レーズン水における真核微生物叢の動態

    レーズン水における真核微生物叢の動態(出所:京大プレスリリースPDF)

レーズンに常在するアルコール発酵性酵母の由来を解明するため、農園でブドウを採取し、3種類の方法(乾燥機、半天日干し、天日干し)でレーズンが作製された。さらに、それらを3つに分けてそれぞれ滅菌水に浸漬し、発酵試験が行われた。

  • ブドウを乾燥して自作されたレーズン

    ブドウを乾燥して自作されたレーズン(出所:京大プレスリリースPDF)

乾燥機で調製したレーズンでは3本中1本が発泡し、乾燥前ブドウからも検出された「Meyerozyma caribbica」(M.caribbica)が発酵後のレーズン水から単離された。一方、半天日干しレーズンでは3本中2本が発泡。発酵後のレーズン水からはM.caribbicaに加え、乾燥前には検出されなかった「Lachancea fermentati」が単離された。

そして、天日干しレーズンでは3本すべてが発泡し、同じく乾燥前には検出されなかった「Hanseniaspora vineae」と「Starmerella bacillaris」が単離された。これらのアルコール発酵性酵母は、天日干し過程で外部から定着したと推測された。加えて、エタノール生産量は、天日干しで有意に高い結果となった。以上の結果から、天日干し過程で定着したアルコール発酵性酵母が自然発酵を進行させる可能性が示唆された。

  • 自作されたレーズンによる自然発酵

    自作されたレーズンによる自然発酵(出所:京大プレスリリースPDF)

今回の研究により、生のブドウとは異なり、レーズンにはアルコール発酵性酵母に富む微生物叢が常在することが解明された。常在アルコール発酵性酵母が優占増殖することに起因して、レーズン水の自然発酵によりワイン様酒類ができあがることが判明した。

レーズンにおけるアルコール発酵性酵母に富む微生物叢の形成には、天日干しが要因の1つと考えられた。この発見は、ワイン酵母の由来を考える上で重要な視座を与える可能性があるとした。これらの結果から、古代において保存食として天日干ししたブドウを水に漬けることで、乾燥過程で外部から定着したアルコール発酵性酵母による自然発酵が起き、これがワインの原型の1つとなった可能性が示唆された。

研究チームは今後、アルコール発酵性酵母がレーズンに定着する要因とその仕組みを解明することで、複雑な微生物叢を制御し、果実の品質管理や特徴的な発酵食品の創製に応用することが期待されるとしている。