東京大学(東大)は11月26日、ナノメートルサイズの微小な孔(ナノポア)内のイオンの流れを利用して、温度を自由に上下させることのできるナノデバイスを開発し、固体ナノポアにゲート電極を備えた構造にて、電圧をかけることで水の温度を上下できることを確認したことを発表した。

同成果は、大阪大学産業科学研究所の筒井真楠 准教授、同 川合知二 招へい教授、東大 大学院工学系研究科の大宮司啓文 教授、同 徐偉倫 准教授、産業技術総合研究所の横田一道 主任研究員、イタリア技術研究所(IIT)のDenis Garoli研究員による国際共同研究チームによるもの。詳細は米国化学会の科学誌「ACS Nano」に掲載された

求められる半導体の発熱の増加に対応できる新たな冷却技術

半導体の高性能化に伴い、チップからの発熱量が増大しており、その冷却を行うことが求められているが、従来のヒートシンクとファンの組み合わせのような空冷式から、水冷方式へとシフトして行っているものの、冷却機構が大きくなってしまうという課題があり、より小さく、より効率的に冷やす技術の開発が求められるようになっている。そうした次世代技術の1つとして、チップ内部に微細な水路を形成し、水を流して熱を運び出す「水冷(マイクロ流体冷却)」の実用化が期待されるようになっている。

電気の力で熱を制御する技術である「ペルチェ素子」は、静音で小型化しやすいため、カメラや電子機器などの冷却で広く活用されてきたほか、近年では暑さ対策のネッククーラーなどにも活用されるようになってきている。この技術を踏まえ、今回、研究チームは水の中を流れるイオンに着目。食塩水をはじめとする電解質溶液は、プラスの電気を持つ陽イオンとマイナスの電気を持つ陰イオンを有しており、このうちの一方だけを選択的に一方向に流すことができれば、半導体中の電子と同じようにイオンが熱を運び、「イオン版ペルチェ効果」ともいえる冷却が起こるはずと考え、この効果をマイクロ流体冷却と組み合わせることで、水が流れるチップ内部で局所的に温度を制御し、より高効率な冷却を実現できる可能性に行きついたとする。

しかし、通常の水溶液では陽イオンと陰イオンがほぼ同数存在していることから、電圧をかけても互いの動きが打ち消し合ってしまって熱を移動させる効果はほとんど現れないことから、今回の研究ではナノメートルスケールの極小な孔(ナノポア)の存在に着目。ナノポアを通すことで、水の中でも特定のイオンだけを選んで通す“イオンの片道通行路”を作り出すことに挑んだという。

トランジスタの仕組みに似た方法でイオンの流れのコントロールを実現

具体的には、直径およそ70nmという小さなナノポアを、シリコンなどの固体膜に加工して作製し、その周囲にゲート電極を組み込んだデバイスを開発。このナノポアを塩水で満たし、ゲート電極にマイナスの電圧を加えることで、ナノポアの側壁に負の電荷を帯びさせたところ、同じくマイナスの電荷を持つ陰イオンは側壁から電気的に反発されてナノポアを通れず、プラスの電荷を持つ陽イオンだけが通過できる状態が確認されたという。研究チームではこの仕組みについて、トランジスタの仕組みに似た方法を用いることで、ナノポア内壁の電荷状態を制御し、ナノポア内のイオンの流れを自在にコントロールすることができるようになったと説明している。

  • トランジスタの仕組みを応用したイオン型ペルチェ冷却のイメージ

    トランジスタの仕組みを応用したイオン型ペルチェ冷却のイメージ (出所:東大)

また、ナノポアのすぐ近くにナノスケールの小さな温度計を設置し、陽イオンが一方向に流れたときにナノポア周囲の温度がどのように変化するかを測定したところ、陽イオンの流れによってナノポア周辺の水温が室温よりも低くなることを確認したとのことで、この結果について研究チームでは、陽イオンがナノポアの片側から反対側へと熱を運び、その周囲を冷やすイオン版ペルチェ効果と呼べる現象が示されたためだとする。

  • 固体ナノポアとゲート電極を組み合わせた装置によるイオン流による冷却効果の仕組みを表したイメージ図

    固体ナノポアとゲート電極を組み合わせた装置によるイオン流による冷却効果の仕組みを表したイメージ図。ゲート電極がない従来のナノポアでは、マイナスの電荷を持つイオン(陰イオン)もプラスの電荷を持つイオン(陽イオン)も両方とも通貨が可能であり、それぞれのイオンが運ぶ熱の効果は互いに打ち消し合ってしまっていたが、ナノポアのまわりにゲート電極を配置して、そこに電圧をかけることで、通過するイオンを陰イオンだけ、または陽イオンだけに制限することができるようになり、この制御により、イオンが流れる方向に沿って熱が移動する「イオン版ペルチェ効果」が生じ、これにより水の温度を冷却したり加熱したりできることが示された (出所:東大)

さらに、この冷却効果については、ゲート電圧を調整することでさらに高めることができ、最大で約2℃の温度低下が達成されたとするほか、ナノポアの上下で塩の濃度を変えて実験したところ、今度はナノポア周囲の水温が上昇する現象も観測されたとのことで、電圧のかけ方を変えるだけで、同じデバイスを小さな冷蔵庫にもヒーターにも切り替えることができることが示されたとしている。

なお、現在、AI半導体分野を中心にチップ内部に微細な水路を作って、そこに水を流して冷やす冷却方式に注目が集まっている。同技術は、小型で狙った箇所だけをピンポイントで冷却できるため、既存の水冷チャネル内に組みこんだり、スマートフォンなどのデバイス表面に貼り付ける形でのマイクロ流体冷却技術と併用することが可能であることから、研究チームではこうした新たな冷却技術を組み合わせることで、従来技術では難しかったチップ内部の局所的なホットスポットをピンポイントで冷却できるようになることが期待できるようになると説明している。