X線画像を高速で連続撮影した動画から解析する手法を透過X線にも適用
東京大学(東大)は11月27日、小型の透過X線(レントゲン)光源を用いて、1画像あたり900nsでの連続撮影を5000枚規模で行うことで作成した動画をもとに、機械学習を活用した解析から試料内部の高分子のミクロな動態の検出に成功したことを発表した。
同成果は、同大 大学院新領域創成科学研究科 物質系専攻の佐々木裕次 教授、ならびに茨城大学学術研究院応用理工学野 物質科学工学領域の倉持昌弘 講師(兼 東大大学院新領域創成科学研究科 物質系専攻 講師)らの研究グループによるもの。詳細は米国光学会が発行している学術雑誌「Optics Express」に掲載された。
これまで佐々木教授の研究グループはX線を照射した際に、分子が熱振動などの内部運動に応じて動く状態を明滅として捕捉できることを動画解析などから報告。「回折X線追跡法(Diffracted X-ray Tracking:DXT)」、「回折X線明滅法(Diffracted X-ray Blinking:DXB)」、「小角X線明滅法(Small-angle X-ray Blinking:SAXB)」という3つの方法を提案してきた。
今回の研究では、そうしたこれまでのX線回析や小角散乱領域での成果を踏まえる形で、レントゲン検査と同様のX線透過領域のX線強度においても同様のX線強度の明滅現象が生じる可能性についての探索が行われた。
1画像あたり900nsで5000枚以上の連続撮影に成功
具体的には手のひらサイズのX線光源(管電圧30kV、管電流0.1mA)を自作し、市販の高速カメラ(ディテクタ)とその前段にX線を可視光へと変換するためのシンチレータ(タリウム活性化ヨウ素セシウム:CsI(TI))を配置。その間にサンプルを挟み込むことで、光源とサンプルの距離を1cmほど、サンプルをカメラの距離を3mmほどと、従来のレントゲン撮影や放射光施設での光源とサンプルまでの距離とはけた違いに近い距離での計測を実施。その結果、1画像あたり900nsで検出することができることを確認。連続して5000~1万枚の撮影に成功したという。
開発された装置は「透過X線明滅(Transmitted X-ray Blinking:TXB)装置」と研究グループでは呼んでいる。実際の研究ではサンプルとしてX線吸収係数がほぼ同じである2つの高分子樹脂「PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)」および「PEI(ポリエーテルイミド)」に対して900nsの高速撮影を5000回繰り返し、総和積算強度(静止画像)を比較。その結果、若干の強度の違いがあることは分かったものの、ほぼ区別がつかない状態であることが確認されたため、この連続撮影した5000枚の画像をもとに作られた動画に対して、時系列データを解析する手法の1つである「自己相関解析(Auto-Correlation Function:ACF)を実施したところ、PEEKの方が運動が若干大きいことが示され、透過X線においても明滅現象が存在することが示されたという。
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(a)TXB装置の全体の様子。(b)上段がPEEKとPEIのX線透過像、下段が機械学習による動態像。機械学習を踏まえ、X線透過像では判別が難しいミクロ分子動態の区別がしやすくなったことがわかる (出所:東大発表資料)
機械学習で高い精度で違いの判別を可能に
ただし、ACF解析をしただけの画像をみても区別が難しいことから、倉持氏が中心となって得られた自己相関解析データ(4096ピクセル)に対して、主成分分析(Principal Component Analysis:PCA)を適用したところ、20種類の運動モード(主成分)で99%以上の判別ができることが示されたとするほか、これらの運動モードに対して機械学習の1種である「線形判別分析法(Linear Discriminant Analysis:LDA)を適用したところ、90%超の精度でPEEKとPEIを判別できることが判明したとする。
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(a)試料とシンチレータの配置図。(b)各試料の形状(10mm×10mm×1mm)と、その積算されたX線透過像。PEEK、PEIともにほぼ同じ画像であることが見て取れる。(c)X線透過像における時間的な変化。(d)各試料における透過X線の強度分布 (出所:東大発表資料)
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主成分分析と線径判別法による動画解析の結果。(a)各試料からの透過X線強度変化を20の運動モードの成分から解析した例。各運動モードの総和で表現し、例えば片方の試料であるPEEKらしい運動モードのみを抽出し再現することを可能とした。(b)その再現した各運動モードで今度はPEIの透過X線強度を再現してみたところ、PEEKらしい運動モードでは再現できない部分が出てくるため明確な区別がつくようになったという (出所:東大発表資料)
将来的にはがん細胞の識別などへの活用を模索
なお、佐々木教授は、このX線の透過領域のX線強度揺らぎを解析することで、各試料の違いを判別することができる可能性を実証した成果を将来的には内臓系のがん検査やアルツハイマー病の原因とされるアミロイドβ(Aβ)の検査などに発展させたいとしている。佐々木教授は、「実際に人体に使うためには、今回の可能性が示されたレベルではいけないため、次の段階としてエラストグラフィーに応用できないかという話をしている。その理由として、エラストグラフィーは組織の硬さ(弾性)を画像化する医用画像検査であるが、TXBは分子が硬いのかやわらかいのかを識別することができる。Aβやがん細胞は通常細胞などと比べて硬くなっているという話があり、その硬さの違いを活用することを考えている」と、技術的な特長として活用が可能である点を強調。実用化には被ばく量を下げる必要などがあることから、SN比ならびに統計処理の問題を踏まえ、画像の撮影枚数を数十枚程度まで減らしても精度を出せる見通しを示しており、その実現に向けた研究を継続していくほか、実用化に向けたパートナー探しなども国内外問わず広く進めていきたいとしている。


