東京科学大学(科学大)は11月21日、磁場や磁石を用いない「強誘電モータ」を開発したと発表した。

  • TEFを利用した強誘電モータの概念図

    電界に垂直方向に働く静電力(TEF)を利用した強誘電モータの概念図(出所:科学大Webサイト)

同成果は、科学大 物質理工学院 材料系の塚本翔大研究員、同・西村涼特任教授、ENEOSマテリアルの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系のエンジニアリングを扱う学術誌「Communications Engineering」に掲載された。

有機強誘電材料を活用し駆動電圧を大幅低減

環境問題の観点から電動化が進む中、電気を動力に変えるモータなどの電磁デバイスには大量の銅やレアアースが不可欠とされる。だがそれらの多くを輸入に頼る日本にとって、経済安全保障上の懸念が残されることになる

静電デバイスは電磁デバイスを代替・補完しうるが、これまで得られている出力は電磁デバイスの1/1000~1/1万程度に過ぎず、大出力用途には不向きだった。ところが、2017年に発見された強誘電ネマチック液晶が大きく状況を変える。比誘電率が約1万1000(@100Hz)、分極が約6μC/cm2を示し、電磁デバイスに匹敵する大出力・低電圧駆動を可能にする静電デバイス用材料として注目されるに至ったのだ。

こうした背景の下、研究チームは、室温付近の広い温度範囲で強誘電性を保持できる液晶材料系を開発。その材料系を二重らせんコイル型アクチュエーターの伸縮運動に適用し、静電デバイスの駆動電圧を1/1000に低減することに成功した。そして今回の研究では、この技術を回転運動に発展させた強誘電モータの駆動実証を目指したという。

一般的に静電デバイスでは、一対の電極間に電圧を印加した時に生じる静電力(電極同士が引き寄せ合う力)が利用される。静電力は電極間隔が短いほど強くなるため、実用化デバイスの多くは電極間隔が1mm以下である。そのため、間隔の変化を利用するデバイスでは大きな変位を得ることが難しい。その上、少なくとも片方の電極を可動にする必要があり、電極同士の接触によるショートが生じやすく、モータには不向きな特性を持つ。

そこで今回の研究では、静電力の源であるマクスウェル応力のうち、電界に対して垂直方向に働く応力成分が注目された。そして、この垂直成分による発生力を「Transverse Electrostatic Force」(TEF)と命名。実験系を構築して電極に電圧を印加したところ、液晶材料が電極間を上昇する現象が確認された。例えば、電極間距離1mmあたりわずか20Vの電圧印加で、液晶が約70mmも上昇。TEFの利用により電極を固定でき、これによりショートの危険性を大きく低減することに成功した。強誘電ネマチック液晶は比誘電率と分極が大きいことから、TEFの大きさは、一般的な材料の1000倍以上となる約1000N/m2(@30V/mm)が達成された。

  • TEFの可視化実験装置と電界依存性

    TEFの可視化実験装置(左、右上)と電界依存性(右下)(出所:科学大Webサイト)

  • 強誘電ネマチック液晶材料とその相系列

    使用した強誘電ネマチック液晶材料とその相系列(重量比1:1混合物)(出所:科学大Webサイト)

この結果に基づき3相モータを設計し、固定子3相24極、回転子16極から成る試作機が作製された。TEFの利用で、磁場や磁石を必要とせず、上下の固定子間に電圧を印加するだけで回転子の回転が可能だ。そのため、回転子はプラスチック材料のみで作製可能となり、軽量化と低慣性化が実現された。さらに、スリップリングやカーボンブラシなどの回転子への給電機構も不要となり、構造の簡素化も達成された。

  • 作製された試作パーツと上側固定子に回転子を組み合わせた状態

    強誘電モータの回転子と固定子のCAD(左上)より作製した試作パーツ(左下)と、上側固定子に回転子を組み合わせた状態(右)(出所:科学大Webサイト)

作製された試作機に強誘電ネマチック液晶を満たし、振幅60V、Duty比33%、10Hzの3相パルス波が印加された。その結果、毎分約40回転を達成し、強誘電モータが実証された。ちなみに、TEFにより発生する応力は電極間隔に依存しないため、回転子/固定子を薄型化して多層化することで、出力トルクを容易に向上させることが可能だ。今回の試作機は回転子/固定子が1対の構成だったが、今後は多層化によって出力トルクのさらなる向上が期待されるとした。

  • 試作された強誘電モータの全体像

    試作された強誘電モータの全体像(左:上面、右:斜め)(出所:科学大Webサイト)

強誘電ネマチック液晶は有機物で構成されており、鉱物資源の制約がある日本にとっても社会実装しやすい材料だ。世界的な炭素循環型社会の実現に向けて、自動車や産業用ロボットなどの電動化が加速し、モータ需要は高まり続けている。こうした状況において、強誘電モータは環境負荷の低減と資源自立の両面から、次世代モータの新たな選択肢として大きな期待が寄せられている。

さらに強誘電ネマチック液晶は、その誘電緩和特性からパルス周波数300Hz、毎分1000回転程度の駆動が上限になると予想される。研究チームは、より一層の実用化に向け、液晶材料の分極向上による出力向上、粘度低減や誘電緩和特性の改善による回転数の増加、加えて、強誘電ネマチック相の温度範囲の拡大による使用可能な温度範囲の拡大を検討していく予定とした。

さらに、モータのように電気エネルギーを運動エネルギーに変換するデバイスは、原理的にはその逆変換も可能であることから、エネルギーハーベスティング分野への展開も期待されるとしている。