福島芝浦電子は11月19日、日本IBMとサーミスタ製造工程におけるサーミスタ素子の外観検査認識モデルを開発し、画像認識システムに組み込んだ自動外観検査システムの本番稼働を開始したと発表した。

外観検査認識モデル開発の背景

福島芝浦電子は、1985年に設立された芝浦電子のグループ企業で、サーミスタ素子の製造・開発を専門とする企業。サーミスタとは温度変化を検出する半導体部品であり、小型で衝撃に強く、温度に対して敏感に反応する特徴を活かして、自動車、家庭用電気製品、オフィス機器など、さまざまな製品に使用されている。

福島芝浦電子での生産規模は月間約4000万個であり、特に自動車分野では1台あたりのサーミスタ使用数が増加していることから、生産規模の拡大が続いている。同種製品の製造ラインを約20本有しており、1ラインあたり1日(8時間)で約4万本を製造している。

製造したサーミスタ全体の良品率は99%以上と高水準を維持している一方で、すべての製品に対して顕微鏡を用いた目視検査を実施していたため、見逃しが許されない重大な不良や20種類近くに分類される不良モードへの対応には、高度な判断力と熟練した検査スキルが求められていたという。

また、1本あたり1秒未満で判定を行う作業を8時間継続する検査員を常時20人以上配置する必要があり、人材の継続的な確保・育成の負荷や、欠員時における生産計画への影響など、検査工程の運用における課題を抱えていた。

ディープラーニングを活用したモデルを開発

そこで、同社は検査員による目視の外観検査の自動化を目指し、画像認識を用いた自動外観検査システムの開発に着手。

当初は、従来の画像処理技術を活用した取り組みにより自動化システムが完成していたが、不良品の見逃しを防ぐために厳しい判定基準を設けた結果、全体の約30%が再検査対象となるなど、良品の判定精度は約70%にとどまっていたとのこと。

こうした課題に対応するため、2021年1月から同社は日本IBMと協業し、ディープラーニング技術を活用したサーミスタの外観検査認識モデルの開発に取り組んだ。今回、開発されたサーミスタの外観検査認識モデルは、従来の画像処理では対応が難しかったガラスの反射や形状の歪み、製品ごとの個体差といった複雑な要素に対しても、高精度かつ安定した認識を可能としている。

これは、ディープラーニングが大量の画像データから複雑なパターンや微細な違いを自動で学習することで、人手によるルール設計では困難だった判別、例えば数値に基づいたルール設定が難しいケースでも画像から特徴量を抽出し、高精度な判定を行うことができるためだという。

これにより、判定精度が向上し、再検査が必要とされる良品の割合が大きく減少。人間の検査員と同等の判断精度による自動検査を可能としている。外観検査認識モデルを実装した自動外観検査システムは、実証実験とプロトタイプ開発、本番稼働テストを経て、2024年10月に自動化システムとして自動外観検査機1号機の本番稼働を開始し、同11月には2号機の本番稼働も開始した。

検査員の高度な判断力に依存することなく、複雑な不良モードに対しても安定して高精度な検査が可能となり、生産規模の拡大に伴う追加人員の配置が不要とし、夜間稼働を含めた製造量の大幅な増加計画にも対応可能な最適化された検査工程を実現している。

IBMはIBM Powerを利用したAIサーバなどを提供

本番稼働開始から1年経った現在、自動外観検査システムを導入した製造ラインにおいては創業以来初となる常時24時間の安定稼働運用を確立し、83%以上の省力化を実現。さらに、検査品質の均一化、誤検出の削減、教育コストの低減といった効果も得られているとのことだ。

日本IBMは今回の取り組みにおいて、実証と本番実装のためのIBM Powerを利用したAIサーバとAIソリューション構築支援サービスを提供し、あわせてサーミスタ素子の外観検査に特化したAIモデルの開発、およびその開発手法のスキル引き継ぎを行い、福島芝浦電子でのAIモデル開発・運用の内製化を実現した。

今後、福島芝浦電子は2025年12月に自動外観検査機の3号機を導入するなど、自動外観検査システムを増設すると同時に適用製品の拡大を目指す。加えて、AIの判定結果を作業者にフィードバックすることで、ライン管理と現場教育の同時実現を目指す次世代システムの構築にも取り組む。これにより、サーミスタの需要増加にも柔軟かつ効率的に対応し、高品質な製品の安定供給と持続可能な生産体制の両立を実現していく考えだ。