大阪公立大学(大阪公大)は11月10日、アルミニウム合金と合成樹脂「ポリアミド(ナイロン)」(PA)の接合界面における化学的相互作用について、金属表面の化学的構造とPAの分子構造が接合強度に与える影響を解明したと発表した。

  • 今回の研究の概要

    今回の研究の概要(出所:大阪公大プレスリリースPDF)

同成果は、大阪公大大学院 工学研究科 機械系専攻の吉田十義客員研究員、同・寺元航希大学院生、同・桑原卓哉講師らの研究チームによるもの。詳細は、「Communications Materials」に掲載された。

モビリティの軽量化・高強度化へ大きな一歩!

自動車などの軽量化のため、従来の金属部品を炭素繊維強化樹脂製に置き換える「マルチマテリアル構造」の導入が進む。その流れを受け、接着剤を用いずに金属と合成樹脂(プラスチック)を直接接合する「金属樹脂直接接合」が注目されている。これは、溶融樹脂を金属表面に高圧で流し込み、表面の凹凸を利用した機械的なアンカー効果と、界面での化学的相互作用により接合を実現する技術だ。

しかし、金属と樹脂の界面で起こる詳細な化学的相互作用や吸着形態は、多くが未解明である。そのため、接合できる材料種の限定的な問題、使用中の接合強度低下などの課題があった。そこで研究チームは今回、接合界面における原子レベルのメカニズムを解明し、高信頼性・高耐久性を有する金属樹脂接合界面を設計するための原理確立を目指したという。

今回の研究では、PAとアルミニウム合金の接合界面に着目し、全原子分子動力学法を用いて引張シミュレーションが実施された。界面の化学構造が接合に与える影響を解明するため、PAには直鎖状の「PA6」と芳香環を有する「PAMXD6」が用いられ、アルミニウム合金表面のモデルである酸化アルミニウム(Al2O3)表面のOH終端のある・なしで比較された。

その結果、引張初期では、ひずみの増加と共に応力が線形に増加した後、急激な減少が認められた。変形初期の弾性変形領域では、ひずみはPA内部に一様に蓄積されるため、その化学構造が重要となる。一方、応力が急激に減少する変形後期(ひずみ軟化領域)ではひずみが接合界面に集中。ここではOH終端の有無が支配的となり、特に、PAMXD6とOH終端Al2O3の組み合わせで、顕著な応力の減少が確認された。

  • PAの化学構造と引張シミュレーションによる応力-ひずみ曲線

    (a)PAの化学構造。(b)引張シミュレーションによる応力-ひずみ曲線。(c)界面の原子構造(出所:大阪公大プレスリリースPDF)

続いて、この時の界面近傍に存在する高分子鎖の吸着形態と形状変化を調べるため、分子鎖の区間(セグメント)ごとの形態分類が行われた。表面吸着したセグメントが「トレイン」、2つのトレイン間に存在する非吸着セグメントが「ループ」、PA内部とつながる非吸着の両末端セグメントが「テール」とされた。引張過程における各セグメントの変化は、高分子構造と表面構造の組み合わせに大きく左右されることが判明。特に、顕著なひずみ軟化を示すPAMXD6とOH終端Al2O3の接合界面では、表面吸着高分子鎖全体の脱着とループがテールへと転移する現象が支配的とわかった。一方でOH終端なし表面では、両PA共にテールのみが伸長していた。

次に、引張に対する局所的な高分子鎖の形状(コンフォメーション)変化を評価するため、新たに「局所慣性半径」が導入された。従来の「慣性半径」は分子鎖全体の空間的広がりを表すが、これを局所的な分子鎖の形状を記述する量へと一般化したことで、引張変形時における分子鎖の部分的な変化を定量化できるようになった。

そして、PAMXD6とOH終端Al2O3に吸着する1本の高分子鎖に注目し、引張に伴うセグメントの形態変化と局所慣性半径の変化が解析された。その結果、変形と共に、トレインが徐々に短くなり、ループを経てテールに変化する様子が判明。この3段階の形態変化が起こる部位で、局所慣性半径が大きく変化していることも確認された。これは、トレインのループ転移やテール転移に伴う局所的な構造緩和を示唆する。同時に、局所慣性半径がコンフォメーション変化と接合界面の力学応答の関係を理解する上で、極めて有効な指標であることも示した。

  • 表面吸着した高分子鎖の形態と形状変化

    表面吸着した高分子鎖の形態と形状変化(出所:大阪公大プレスリリースPDF)

以上のことから、表面吸着分子鎖の引張に対する応答モードは、“テール伸長”、“ループ-テール転移”、“分子鎖脱着”の3つに分類でき、その割合が接着強度と強く相関することがわかった。つまり、ループ-テール転移や分子鎖脱着を抑制し、表面吸着セグメントであるトレインの長さを最大化または維持できる金属樹脂界面を設計することが、高信頼・高耐久性を持つ接合界面を創出する鍵となる。

今回の研究により、金属側の表面処理手法や樹脂の種類を選定する明確な指針が示された。これにより、実験結果に頼った材料選定から、メカニズムと原理の理解に基づく理論設計の進展が期待されるとする。さらに、今回導入された局所慣性半径は、今後さまざまな高分子材料に応用可能だといい、原子・分子レベルでの局所的な挙動を理解し、新たな高分子設計や接合技術の開発に役立つことが期待されるとしている。