東北大学は11月5日、エネルギー効率が高く、薬品使用量を大幅に削減できる膜分離技術を用い、使用済みリチウムイオン電池(LIB)浸出液からリチウムだけを高選択的に回収する新しい分離プロセスを確立したと発表した。
同成果は、東北大大学院 工学研究科附属 超臨界溶媒工学研究センターの渡邉賢教授、同・鄭慶新特任准教授、同・研究科の姚学松大学院生らの研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する環境科学技術を扱う学術誌「Environmental Science & Technology」に掲載された。
現在、LIBに使用されるリチウムの採掘可能埋蔵量は、約2800万トンと見積もられる。その需要は急激に拡大中で、今後も電気自動車の増加などによりさらなる伸張が予想されるため、2030年には世界の年間需要が53万トンを超え、現在の生産量の約3倍に達し、需要が供給を大きく上回るという危機的な予測がなされている。
さらにLIBは使用済みの蓄積量も増加し、資源回収と環境保全の両面で大きな課題となっている。LIBにはリチウムのほか、コバルト、ニッケル、マンガンなどの有価金属も多く含まれ、しかも酸性物質や重金属による環境汚染のリスクもある。こうした背景から、使用済みLIBからリチウムを効率的に回収する技術が世界的に強く望まれている。その確立は、資源不足の緩和に加え、循環型経済の実現にもつながる可能性を秘める。
LIBの湿式リサイクル技術は、高効率でエネルギー消費が少なく、有害ガスの排出も抑えられることが利点だ。一方で、薬品使用量が多く、リチウムの単離工程が複雑という課題も抱えるため、環境負荷を抑えつつ高選択性を実現できる、グリーンで短工程の新技術が求められていた。
次世代型リチウム回収プロセスとして大きな注目を集めるのが、イオンの電荷や水和半径のわずかな違いを利用して高精度な分離を行える「ナノろ過」(NF)を用いた膜分離技術だ。そこで研究チームは今回、使用済みLIB浸出液からリチウムを高選択的に分離・回収する革新的な膜分離プロセスの確立を目指し、NF膜の分離特性に着目したという。
今回の研究ではまず、膜に開いている微細な孔のサイズ(膜孔径)と、膜表面電荷が分離挙動に与える影響を調べる目的で、市販の2種類のNF膜(大孔径のNF270/小孔径のNF1000)を用い、孔径の違いがリチウム選択性に及ぼす効果が評価された。加えて、膜の表面電荷を制御するため、アミノ基を導入して正電荷を付与できる有機化合物「エチレンジアミン」(EDA)で両膜を改質し、「NF270-EDA/NF1000-EDA膜」が作製された。
膜分離試験では、膜で供給側と透過側の流路を分けた実験セル(容器)にモデルLIB浸出液を送り込み、温度を25℃に制御した条件下で、pH(2~5.6)と操作圧力(2MPa~4MPa)の影響が系統的に評価された。また、実際の三元系(ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn))廃棄LIB電池から得られた浸出液(pH=1.96)も使い、実使用条件下での分離性能も検証された。
EDA改質膜では、表面が正電荷を帯びたことで「ドナン排徐効果」が強化された。この効果は、膜と同符号のイオン(共イオン)に対しては静電的に反発して膜内部への侵入を抑制する一方、反対符号のイオン(対イオン)または荷電性が弱い単価イオンは膜を透過しやすいという現象のことだ。
その結果、多価金属イオン(Ni2+、Co2+、Mnx+)の膜内侵入が抑制され、単価イオンであるLi+が優先的に透過することが確認された。特に、実際の三元系廃棄LIB電池から得られた浸出液の分離性能評価では、Li+/Ni2+、Li+/Co2+、Li+/Mnx+の分離係数がそれぞれ645.9、508.8、307.4を示し、いずれも従来報告値を1桁以上上回る超高選択性が示された。加えて、2段階のNFプロセスを組み合わせて得られた透過液の濃縮・再結晶化により、化学薬品なしで純度99%以上の電池級炭酸リチウム(Li2CO3)の回収に成功したという。
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NF膜とEDA改質膜における金属イオン分離性能の比較。(a)モデルLIB浸出液におけるLi+/Mnx+(M=Ni,Co,Mn)質量比の変化(Leachate:供給液、Permeate:透過液)。(b)NF1000/NF270膜と、それぞれのEDA改質膜(NF1000-EDA/NF270-EDA)における分離係数の比較(出所:東北大プレスリリースPDF)
この結果の理論的検証と機構解明のために数値解析が行われ、Li+選択性が電荷排除とサイズ排除の相乗効果によって生じることが解明された。これにより、膜構造と電荷特性を制御することで、高通液量と高純度を両立できる最適条件が確立された。
今回の研究により、産業応用への高い実現可能性と環境負荷の大幅な低減を両立できることが実証された。この成果は、リチウム回収における低エネルギー消費、化学薬品不使用、スケールアップ可能なグリーンプロセスの実現に向けた新たな道を拓くものであり、科学的かつ工学的に重要な意義を有するとした。研究チームは今後、膜材料のスケールアップと連続運転プロセスの実証を進める予定としている。
