東北大学、千葉大学、千葉工業大学(千葉工大)の3者は10月24日、南極点で実施中の世界最大のニュートリノ観測実験「IceCube」により検出されたニュートリノ多重事象に対し、その検出時刻に飛来した方向の可視光広視野観測データを詳細に解析した結果、超新星爆発や潮汐破壊現象など、高エネルギー粒子の候補となる天体現象を発見できなかったことから、その起源となり得る爆発的天体現象の明るさや時間スケールに対し、従来の観測よりも強い制限を与えることに成功したと共同で発表した。

同成果は、東北大大学院 理学研究科の敏蔭星治大学院生、東北大 学際科学フロンティア研究所の木村成生准教授、東北大大学院 理学研究科の田中雅臣教授、千葉大 ハドロン宇宙国際研究センターの清水信宏助教、同・吉田滋教授、同・岩切渉助教、千葉工大 天文学研究センターの諸隈智貴主席研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

宇宙ニュートリノ多重事象への可視光追観測を実施

宇宙では陽子や電子、そしてニュートリノなどが飛び交い、その中には極めて高エネルギーのものが含まれる。しかし、それらのエネルギー供給源となる天体や天体現象はいまだ不明である。

そうした中でヒントとなるのが、高エネルギーニュートリノの観測である。陽子や電子と異なり、電荷を持たないニュートリノはほぼ直線的に地球に飛来する。そのため、宇宙から飛来した時刻と方向がわかれば、高エネルギー粒子の起源を特定できる可能性を秘めている。

しかしこれまでのところ、高エネルギー粒子の起源天体として同定されたのは、クェーサーの一種であるブレーザー「TXS 0506+056」と、活動銀河核を持つセイファート銀河「NGC 1068」の2例のみ。つまり、高エネルギー粒子の主要なエネルギー供給源となる天体は、いまだ特定されていない。

また、高エネルギー粒子のエネルギー供給源となる天体現象としては、以前から超新星爆発や、超大質量ブラックホールが巨大な重力で星を引き裂く「潮汐破壊現象」なども有力視されてきた。こうした爆発現象は可視光でも強く輝くため、ニュートリノと可視光の「マルチメッセンジャー観測」を実施することで、この仮説検証の有力な手段となると考えられている。

しかし、課題は2つある。第一に、IceCube実験で観測されるニュートリノは極めて遠方から到来しており、遠くの暗い天体を捉えるたえには、高感度な大口径望遠鏡による追観測が必要になる点だ。第二に、大口径望遠鏡でそのような遠方宇宙を観測した場合、起源天体とは無関係なものも多数検出されてしまう点だ。こうした課題から、爆発現象をエネルギー供給源とする仮説はこれまで十分に検証されていなかった。

そこで研究チームは今回、IceCube実験で2020年6月に捉えられた、同方向から3つのニュートリノが飛来した多重事象「トリプレット信号」の起源天体探査を、可視光のデータを用いて初めて行ったという。なお多重事象とは、一定の期間内(最大30日間)に同方向から2つ以上のニュートリノが検出される事象を指す。

  • 高エネルギーニュートリノの到来方向を肉眼で見た夜空に重ねて表示した図

    IceCube実験で決定された高エネルギーニュートリノの到来方向を、肉眼で見た夜空(視野角100度、オープンソースプラネタリウムソフト「Stellarium」で作成)に重ねて表示した図。(右)可視光望遠鏡により撮影された到来方向の拡大画像。赤の楕円は、IceCubeにより決定された到来方向の1σ誤差領域を示す。1σ誤差とは、真の到来方向がその範囲内に約68%の確率で含まれることを示す。画像提供:Zwicky Transient Facility。(出所:共同プレスリリースPDF)

  • 1枚目の画像の拡大図を白黒反転したもの

    1枚目の画像内の拡大図を白黒反転したもの。可視光望遠鏡により撮影された、高エネルギーニュートリノの到来方向周辺の画像(視野:0.5度×0.5度)。楕円の範囲がIceCubeにより決定された高エネルギーニュートリノ到来方向の1σ誤差領域。画像提供:ZwickyTransient Facility(出所:共同プレスリリースPDF)(出所:共同プレスリリースPDF)

IceCube実験の感度を考慮すると、多重事象として検出される天体はニュートリノで“明るく”、比較的近距離に存在するものに限定されるため、小口径望遠鏡でも起源天体の探査が可能だ。加えて、これにより多重事象の到来方向で観測される無関係な天体の数を大幅に減らすこともできる。このようにして、上述の2つの課題がクリアされた。

そして、今回の多重事象が発生した時刻の飛来方向の宇宙を可視光で確認するため、可視光広視野サーベイ観測プロジェクト「Zwicky Transient Facility」(ZTF)で取得された観測データが詳細に解析された。ZTFは、2018年より米・カリフォルニア州パロマー山でスタートした時間領域天文学のためのプロジェクトである。観測可能な夜空の大部分を2~3日ごとに観測しており、超新星爆発や潮汐破壊現象などの検出を得意とするが、結果としてそれらの爆発的天体現象は存在していなかったことが明らかにされた。

これを受け、高エネルギー粒子の供給源となり得る爆発的天体現象の明るさや、明るさが変化する時間スケールの評価が実施された。その結果、候補天体とされてきた超新星爆発や潮汐破壊現象に対し、従来行われてきた多数の追観測よりも強い制限を与えることに成功したという。

  • 高エネルギー粒子の供給源となり得る爆発的天体現象の明るさと、明るさが変化する時間スケールへの制限

    今回のマルチメッセンジャー観測に基づく、高エネルギー粒子の供給源となり得る爆発的天体現象の明るさと、明るさが変化する時間スケールへの制限。色がついている領域が除外された領域。(左)「超高輝度超新星」(明るい超新星)の結果。(右)潮汐破壊現象の結果。黄色の枠で囲まれた領域がそれぞれの天体の典型的な明るさと、明るさが変化する時間スケールを表す(出所:共同プレスリリースPDF)

なお今後は、ニュートリノ多重事象が検出された際、即時に全世界へ速報が発信される体制が整えられる予定。今回の研究で確立された手法を活かし、IceCubeで検出された多重事象を可視光で即時に追観測することで、高エネルギー粒子のエネルギー供給源の理解が大きく進むことが期待されるとしている。