京都大学(京大)は10月20日、リアルタイムかつ経度緯度方向で0.25度という高解像度な電離圏の可視化技術「三次元電離圏トモグラフィ」を開発し、それを用いて「中規模移動性電離圏擾乱」(MSTID)などの詳細な三次元構造を解明したと発表した。
同成果は、京大 情報学研究科 情報学専攻 数理物理学講座の米山慧大学院生(研究当時)と同・梅野健教授の研究チームによるもの。詳細は、米国地球物理学連合が刊行する太陽-地球システムなどの宇宙物理を扱う学術誌「Journal of Geophysical Research: Space Physics」に掲載された。
宇宙天気予報や短期地震予知にも貢献する?
電離圏は、電離した酸素分子や窒素分子などにより電波を反射する特性を持つ。成層圏と中間圏の境目の上空約50kmから、最大約1000km(外気圏)にまで及ぶ。この三次元構造の把握は、衛星測位システムの安定稼働や、太陽フレアの影響などの宇宙天気の正確な情報を得るのに不可欠である。しかし、高解像度な電離圏トモグラフィをリアルタイムに稼働する場合、高い計算コストが課題だった。
また、大地震発生直前に確認される電離圏異常の物理メカニズムの解明のためにも、高解像度な電離圏三次元構造の時間変化の把握は不可欠だ。さらに、太陽フレアなど他の要因で発生する電離圏擾乱との識別にも極めて重要である。そこで研究チームは今回、従来の三次元電離圏トモグラフィを改良し、性能向上を試みたという。
電離圏三次元構造の把握は、測位衛星からの2周波の電波を受信局で受け、伝搬遅延を計測することで、衛星と受信局間のパス上の総電子数を得られる。三次元電離圏トモグラフィは、電離圏空間をメッシュに区切り、複数の衛星と複数の受信局との間で、メッシュごとの電子数密度のパス上の積分(和)が総電子数であるという連立方程式を立て、各メッシュの電子数密度の解を得るのが基本プロセスである。今回の研究では、この連立方程式を解く上で従来法に以下の3つの新規要素が加えられた。
1つ目は、データのスパース性(ほとんどがゼロまたはゼロに近い値であること)を利用した高速解法「共役勾配法」の利用だ。衛星と受信局を結ぶパス上のメッシュには、正の電子数密度を仮定できる。しかし、パスに載らないメッシュが多数あり、データにスパース性、すなわちスパース行列が生じる。このスパース性を活用する高速解法が共役勾配法であり、今回の研究では電離圏トモグラフィの連立方程式の解放として採用された。
2つ目は、時間連続性の利用だ。電子数密度の時間変化は連続的であるという特性が活用された。具体的には、現在時刻の電子数密度解を次時刻の解の初期状態として繰り返し適用し、解を導出するのである。
そして3つ目は、空間連続性の利用。低解像度データは高解像度データの近似として活用される。具体的には、水平方向に100km四方・高さ30kmのボクセルを、水平方向に25km四方・高さ15kmの4×4×2(計32個)に細分割する。前処理として低解像度のボクセルで解を得て、細分化した高解像のボクセルの初期解として用いるのである。これらの追加により、圧倒的な速度と高解像度化が達成され、電離圏の三次元構造をリアルタイムかつ高頻度に計算することが可能となったのである。
次に、今回の手法を用いて、宇宙天気の1つである中規模のMSTIDの三次元構造の解析が行われた。その結果、日本で発生する冬の日中、冬の夜、夏の夜のすべてのMSTIDにおいて、電子数密度のピークとピークの持つ高さが負の相関を持つことが判明した。さらに、この相関の程度が夏の夜が最も強く、冬の日中が最も弱いこともわかった。
今回開発された手法は、日本全国の電離圏の電子数密度など、宇宙天気のダイナミックな情報を高解像度で取得可能にする。さらに将来的には、国土地理院が15分ごとに準リアルタイムで更新している公開データから解析した電子数密度のデータと物理モデルからのデータの同化を行うことで、宇宙天気予報を行う基礎手段として活用が期待できるようになるとする。
また、高密度な衛星測位システムの受信局網があれば、今回の手法は世界中どこでも適用可能だという。さらに、測位衛星のみならず、多数の低軌道衛星と地上局とを結ぶパスを利用すれば、より高精細な電離圏情報を得ることも期待できるとした。
電離圏科学の解明においては、今回解明したMSTIDの基本構造のような特定のタイプの電離圏擾乱の基本特性の抽出にとどまらず、MSTIDの発生起源や大地震発生直前の電離圏擾乱の発生メカニズムなどの解明、また宇宙天気に関わる多様な電離圏擾乱現象の識別など、多様な電離圏現象の物理メカニズムの解明にも貢献が期待されるとしている。


