イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)・コラボレーションは9月16日、大型楕円銀河「M87」の中心にある超大質量ブラックホール(SMBH)の近傍の偏光パターンが変化する動的な様子を捉えた新たな画像を公開するとともに、ブラックホール・シャドウを取り囲むリング構造に接続するジェットの根元の兆候を初めて発見したことも明らかにしたと発表した。

  • EHTが撮影したM87*の偏光画像

    EHTが撮影したM87*の偏光画像。リング上の白い筋は偏光の方向を表し、その方向はM87*周辺の磁場の向きと関係している。2017年(左)から2021年(右)にかけて、偏光の向きは時間と共に反転した。(c) EHT Collaboration(出所:EHT-Japan Webサイト)

同成果は、国内外の300名を超える研究者が参加する国際研究チーム「EHTコラボレーション」によるもの。詳細は、天文学と天体物理学を扱う学術誌「Astronomy & Astrophysics」に掲載された。

M87ブラックホールの新たな偏光画像が公開

地球から約5500万光年離れた大型楕円銀河M87の中心に位置するSMBH(ここでは便宜上「M87*」とする)は、EHTによって初めて直接観測がなされたことで知られる。その質量は太陽質量の60億倍以上と、宇宙でも有数の巨大なSMBHであり、2019年の発表以降もさまざまな研究成果が公表されてきた。そして今回は、2017年・2018年・2021年の観測データを比較することで、M87*近傍の磁場の時間変化を解明するという、新たな研究段階への挑戦が行われた。

そして研究チームが3回の観測データを比較した結果、フォトン・リングのサイズが一定に保たれており、アインシュタインの理論によって予測されるブラックホール・シャドウが改めて確認されたとのこと。

しかしその一方で、偏光パターンは大きく変化していた。SMBHの周囲では、落ち込んできたガス・物質が相対論的な高速度で回転する降着円盤が形成されている。これらは摩擦熱で極めて高温となり、強い磁気を帯びたプラズマとなる。特に、ブラックホールの“表面”ともいえる「事象の地平面」近傍のプラズマは、ダイナミックかつ複雑な動きを伴うことが判明。その結果、M87*の偏光の向きが2017年から2021年にかけて反転したことが明らかにされた。

2017年の磁場は一方向に螺旋状に分布しており、その状態は2018年まで比較的安定していたが、2021年には分布が逆転し、逆方向の螺旋状に転換したのである。研究チームによると、この見かけ上の偏光の向きの変化は、M87*近傍の磁場構造の変化と、外部のプラズマの影響で偏光角が回転する「ファラデー効果」の組み合わせで説明できる可能性があるという。このように偏光が時間変化する様子は、激しい時間変動を持つ乱流の存在と、磁場が周辺物質のM87*への降着やエネルギーの解放に重要な役割を果たしていることを示唆しているとしており、この偏光の反転は研究者にとっても予想外の出来事であり、事象の地平面近傍にはまだ人類が理解しきれていない現象が数多くあることを示唆するものとした。

EHTは、アルマ望遠鏡をはじめとする世界中の複数の電波望遠鏡を組み合わせた「超長基線電波干渉法」(VLBI)を用いる観測ネットワークで、地球サイズの電波望遠鏡に匹敵する性能を持つ。参加する望遠鏡が増えるほど、その性能はさらに向上する。2021年の観測では、グリーンランド望遠鏡とハワイのジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡がアップグレードされたことに加え、米国のキットピーク望遠鏡とフランスのNOEMAが新たに加わった。これにより感度と画像の鮮明さが向上し、EHTの観測としては初めて、M87*の相対論ジェット(SMBHから細く絞られ、ほぼ光速で噴出する高エネルギー粒子のビーム)の噴出方向に制限を設けることに成功した。

M87のような銀河の中心核から噴出するジェットは、銀河内の星形成率に影響を与え、また広大な宇宙空間へエネルギーを放出することで、銀河の進化に重要な役割を果たすと考えられている。電波からガンマ線だけでなく、ニュートリノを含む電磁波以外のさまざまなものも放射していると考えられるM87*のジェットは、SMBHにおけるその発生メカニズムと、どのようにしてSMBH近傍から銀河外まで到達するのかを解明するための唯一無二の観測対象だ。研究チームは、EHTの性能が向上する中で、今回の観測はM87*を取り巻くダイナミックな環境を明らかにし、SMBHの物理学に対する理解を深めるものとなったとしている。