国立天文台は9月4日、アルマ望遠鏡とジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の高解像度観測データから、地球に最も近い高密度星団形成領域「へびつかい座A領域」を詳細に調査し、7つの惑星質量天体を発見するなど、同領域の星形成活動を明らかにしたと発表した。

  • 新たに発見された3つの浮遊惑星候補天体「ALMA OphA 3/4/5」

    新たに発見された3つの浮遊惑星候補天体「ALMA OphA 3/4/5」。質量は木星質量の10倍程度と見積もられている(出所:国立天文台 科学研究部 Webサイト)

同成果は、国立天文台 科学研究部の中村文隆准教授を中心に約10名の国内外の研究者が参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載される予定。それに先立ち、米・コーネル大学が運営する査読前の論文を公開するプレプリントサーバー「arXiv」に掲載された。

7つの惑星質量天体を発見 - 詳細分析も実施

太陽系で最大の惑星である木星は、地球に対して半径が約11倍、質量が約320倍、体積が約1320倍という巨大なガス惑星で、“太陽になり損ねた惑星”などと形容される。しかし、実際には太陽に比べて遥かに小さく、半径は約10分の1、質量と体積は太陽の約1000分の1に過ぎない。木星も太陽と同様に主成分は水素のため、仮にもっと多くの水素を集め、自らの重力で核融合が起こせるほどに質量を増やせていたら、恒星になっていたかもしれない。では、巨大ガス惑星と恒星との境はどこにあるのだろうか。

恒星が核融合を起こすには、太陽の8%以上、つまり木星の約75倍以上の質量が不可欠だ。では、その手前のサイズまでの巨大ガス惑星は存在するのかというと、実はそうではない。巨大ガス惑星は、木星質量の約13倍までの質量に限定され、それ以上の質量になると、水素による核融合は始まらないものの、重水素による核融合が始まるため、巨大ガス惑星と恒星の中間的な天体である「褐色矮星」となる(重水素は割合が少ないため、恒星のように長くは核融合を行えず光り輝かない)。つまり褐色矮星は、木星の約13倍から約75倍までの天体なのである。

そんな褐色矮星は、太陽系に存在しないことに加え、以前は望遠鏡の観測精度が低かったことから、珍しい天体と考えられていた。しかし近年の赤外線望遠鏡の性能向上により数多く発見されるようになり、今では数千個が確認されている。褐色矮星は明るく輝かないため観測しにくいが、天の川銀河には数百億から1000億ほど存在すると見積もられており、決して珍しい天体ではない。これは、星形成領域において褐色矮星も誕生している可能性が高いことを意味する。恒星は、星間ガスや星間塵などが超新星爆発の衝撃波などによって集まり、分子雲を形成して誕生する。集まるガスの量に絶対的な法則はないため、恒星、特に赤色矮星に満たない量しか集まらない天体もいくらでも誕生する可能性がある。

さらにいえば、木星の13倍よりも質量が軽い天体が形成される可能性もありうる。惑星は、星の周囲に形成される原始惑星系円盤内で誕生するイメージがあるが、分子雲から直接「浮遊惑星」として巨大ガス惑星が誕生する可能性も示唆されている。

こうした可能性から、研究チームは今回、アルマ望遠鏡とJWSTの高解像度観測データを用いて、地球から約400光年離れた「へびつかい座ρ(ロー)分子雲領域」(別名:へびつかい座ρ暗黒星雲複合体)に含まれる、高密度星形成領域である「へびつかい座A領域」を詳細に調査したという。

そして今回の分析により、へびつかい座A領域の星形成活動が明らかになり、7つの惑星質量天体が発見されたとのこと。このうちの3つは近赤外線点源を伴い、非常に若い浮遊惑星、もしくは褐色矮星である可能性が高いと考えられるとした。これらの天体の質量は、予備的な解析から木星質量の10倍程度と非常に小さいことが推測されている。これは、巨大ガス惑星と褐色矮星の境目に近いため、どちらの可能性もあるという。また残る4つは赤外線点源を持たない高密度コアで、将来的には浮遊惑星や褐色矮星へと進化する可能性があるとした。

  • 新たに発見された4つの惑星質量の高密度コア「PSS OphA 1/2/3/4」

    新たに発見された4つの惑星質量の高密度コア「PSS OphA 1/2/3/4」。質量は木星質量の数十倍程度で重力的に束縛されている(出所:国立天文台 科学研究部 Webサイト)

これらの高密度コアは、へびつかい座A領域内にある原始星の三重連星系「VLA1623-2417」から伸びる、指のような構造につながっていることも発見された。これは、惑星質量天体が原始星系から放出された可能性を示唆し、形成と放出の新しいメカニズムを考える手がかりとなるという。

研究チームは今回の研究により、上記に加え、新たな原始星のアウトフロー・ジェット(原始星の両極から吹き出す物質の流れ)の同定、若い高温の星からの強い紫外線で周囲のガスが電離した「HII領域」の中心星の周囲に膨張するガスのシェル表面での磁気流体力学波由来の縞模様(高密度なガスの筋状構造)の発見、HII領域からの暖かいガス流の可視化など、これまで知られていなかった多様な構造も明らかになったとしている。