駅や空港、学校や病院といった公共空間で、耳が聞こえにくい人にも音声情報を届ける“補聴システム”の実現に向けた、国内初の検証プロジェクトが始まっている。次世代の難聴支援技術としても注目を集めるBluetooth新規格「Auracast」と、無線LANを組み合わせている点が特徴だ。
東京工科大学 メディア学部の吉岡英樹講師らが開始した「Voices for All」という取り組みで、補聴器や人工内耳への通信にAuracast(オーラキャスト)を活用する新方式と、無線LANとスマートフォンの組み合わせを使う2方式のハイブリッドで実現。「ほとんどの補聴器、人工内耳、ワイヤレスヘッドフォンに対応可能なシステムを構築する」としており、さらに送信された音声を字幕へとリアルタイム変換することで、聴覚に頼らず情報を得られる機能も備える予定だ。
鉄道や空港、バスといった公共交通機関や、スタジアム、ホール、学校、病院など、生活空間においては音声アナウンスによる情報伝達が欠かせない場面が数多くある。従来の赤外線やFM方式などを活用した補聴支援技術は、専用機器の必要性や設置コストの課題から普及が限定的だった。
吉岡講師(聴覚障害支援メディア)研究室では、新しいテクノロジーやコンテンツ表現で聴覚障害者らを支援する研究に取り組んでおり、今回は欧米などで普及が進む、最新の補聴技術をベースに体験会やイベントなどで検証していく。活用するのは、イスラエル・Bettearが開発し、欧米を中心に60カ国以上で普及している最新の補聴技術をベースとしたシステムだ(国内における輸入・設置はアイアシステムが手がける)。
補聴器や人工内耳に送信する方式には、無線LANでスマートフォンに音声を配信し、それを機器に届けるものと、Auracastに対応する新しい補聴器や人工内耳へ直接音声を届けるもののふたつがある。従来のような専用受信機が不要で、受信範囲も広いため、これまで設置が難しかった公共空間でも導入可能にした。なお、Auracastに対応しない補聴器や人工内耳でも、各機種に備わるTモードで聴取可能とのこと。
検証プロジェクトは8月から大阪でスタート。今後11月にかけて、言語聴覚士や補聴器・人工内耳ユーザーなどの聴覚障害当事者団体、補聴器や音響機器メーカーなどの協力のもと、全国各地で同システムの体験会や試験運用など社会実験を行い、アンケート等により有用性などを検証する。
国内の聴覚・言語障害者の登録は約38万人(2024年厚生労働省調べ)、難聴の自覚がある人は約3,400万人(2016年総務省調べ)。音声情報が届きにくい状況は、日常生活や社会参加に大きな影響を与えている。同プロジェクトでは、国内での社会実装に向けた改良や、アクセシビリティ法案(障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法)の改正への働きかけなども進めていく。

