東北大学、北海道大学(北大)、AZUL Energyの3者は9月1日、AIによる解析から見出した「多層コバルトフタロシアニン(CoPc)/炭素コア-シェル構造」が、二酸化炭素(CO2)の電気化学的変換による有用な分子である一酸化炭素(CO)の合成において、従来にない高性能を発揮することを確認したと共同で発表した。
同成果は、東北大 材料科学高等研究所のLiu Tengyi特任助教、同・藪浩教授(主任研究者/同・研究所 水素科学GXオープンイノベーションセンター副センター長兼任)、同・Di Zhang特任助教、同・Hao Li教授(主任研究者兼任)、東北大 国際放射光イノベーション・スマート研究センターの小野新平教授、同・吉田純也准教授、北大 電子科学研究所の松尾保孝教授、AZUL Energyの共同研究チームによるもの。詳細は、クリーンエネルギーの発展と持続可能な環境ソリューションを扱う学術誌「Applied Catalysis B: Environment and Energy」に掲載された。
安価な顔料触媒を用いた低コストプロセス開発に期待
地球温暖化対策には、CO2の排出削減に加え、その有効利用が不可欠だ。中でも、CO2を電気化学的に有用な化学原料、例えばCOなどに変換する「CO2電解還元」(ECR)は、再生可能エネルギーを利用したカーボンリサイクルの有力な手段として注目されている。
しかし、ECRでCO2からCOを高効率に変換するには、CO2→CO反応の選択性の高い触媒が必要だ。これまで触媒としては、金や銀などの貴金属、銅などの遷移金属ナノ粒子などが用いられてきた。これらの触媒は、主に炭素からなるガス拡散電極上にバインダーと担持された触媒電極として使用される。ところが、高コストや選択性不足などの課題があったため、この限界を打破する新しい触媒設計が強く望まれていた。
高い活性を示す触媒として、金属フタロシアニンやポルフィリン系錯体といった分子状触媒が知られている。しかし、これらもまた、単分子の安定性や導電性の不足といった課題から、実用化が阻まれていた。
そうした既往の研究に対し、東北大の藪教授らの研究チームは、安価な青色顔料の一種である金属フタロシアニン系の金属錯体を、炭素材料上に分子吸着や直接結晶化させるプロセスで触媒電極を作製してきた。これにより、燃料電池や水電解・ECRなどさまざまな電気化学反応の電極として高い選択性を実現してきた。
そこで今回は、これまでの知見と、情報科学の活用でさまざまな材料開発の効率を高めるマテリアルズインフォマティクスの知見を組み合わせ、触媒電極における構造制御技術を駆使することにより、安価で高い選択性と耐久性を兼ね備えたECR触媒の実現を目指したという。
今回の研究では、東北大のHao教授の研究チームが開発したAIによる大規模データ解析技術を用いて触媒候補が探索され、その中で有望と判断されたCoPcが基盤分子として選定された。そして、CoPcを単分子ではなく、CoPc結晶を炭素粒子表面に形成させるコアシェル構造を構築。この構造により、以下の2点が達成された。
- 反応比表面積を電極表面で増加させること
- 電子伝達効率が向上し、触媒全体での電荷移動を促進させること
実験の結果、-595mA/cm2という高い電流密度、6537A/gという卓越した質量活性、そして100時間以上にわたり90%以上のCO選択性(ファラデー効率、FE)を維持する、実用に近い性能が実証された。これは、CO変換の最大電流密度、触媒回転頻度(TOF)、安定性、質量活性、変換効率(FE)のいずれの観点においても従来の金属錯体触媒の性能を上回る成果だった。
従来は「単分子触媒パラダイム」という考え方だったが、今回の研究はそれを覆し、ECR触媒において多層構造とコアシェル設計が重要であることを示した。この成果は、分子触媒の安定性や電子輸送性という長年の課題を解決する、新しい設計原理となりうるものとした。
また、AIを活用した材料探索と実験・理論解析の融合により、触媒設計の加速が可能であることも示された。結果として、今回の研究はCO2電解還元技術の産業応用に一歩近づく成果であり、持続可能なカーボンリサイクル社会の実現に大きく貢献するものとした。
さらに、安価な顔料触媒を用いたCO2からのCO高効率合成プロセスの開発につながるものだ。これは、合成燃料のボトルネックの1つであるCO2の資源化に関わるエネルギー効率の向上とコスト削減に貢献し、次世代のCCU(CO2の回収・利用)につながる技術として期待されるとしている。



