車両がよりインテリジェントかつ自律的になるためには、周囲の状況を検知する必要があります。いくつかの方法が存在しますが、最も古くから確立されている技術の1つが超音波センシングです。当初は駐車時に周辺の物体を検知するパーキングアシストに用いられていましたが、使用される多用途センサーは、死角検知、車線変更支援、ナビゲーション、さらには運転者や乗員の監視など、多くの先進運転支援システム(ADAS)へと応用範囲を広げています。

本稿では、超音波センサーの進化の経緯と、関連するアプリケーションについて考察します。さらに、超音波技術の未来に目を向け、自動車や自律移動ロボット(AMR)といった産業用アプリケーションの次世代センシングシステムを形作るオンセミの取り組みについても解説します。この包括的な概要を通じて、安全性と自動化が進化し続ける状況での超音波センサーの適応性と多用途性について、より深い理解が得られることを期待します。

超音波センサーの簡単な歴史

超音波技術はおよそ1世紀前、物体の検知や固体材料の欠陥の検出を目的として開発されました。この技術は1931年に初めて特許を取得しました。エレクトロニクス技術の発展に伴い、超音波トランスデューサーは侵入者警報に広く使用されるようになりました。

自動車分野において、超音波センサーが初めて使用されたのは、運転者の死角にある障害物を検知するパーキングアシストでした。超音波センサーは、最も一般的にはリアバンパーに取り付けられていましたが、高級車種ではフロントバンパーにも配置されることがありました。

  • 反射波により部分的にしか見えない物体の検知が可能

    図1 - 反射波により部分的にしか見えない物体の検知が可能

オンセミは2007年に最初の超音波パーキングアシストセンサーを発売し、それ以降も継続して技術の進化に取り組んでいます。約20年、6世代が経過した今も、開発はさらに幅広いアプリケーションを対象とした第7世代のデバイスで継続されています。この進化の重要な点は、独自の高電圧技術が700nmから65nmプロセスへと進歩したことです。これにより、信号対雑音比(SNR)の改善や検知距離の延長といった性能の向上が実現しました。

これらの技術的な進歩の結果として、超音波センサーの汎用性がさらに高まり、車外のアプリケーション(例:死角検知など)、そして乗員検知やジェスチャー認識などの新たな車室内アプリケーションの両方で、より高度な用途に使用できるようになりました。

超音波センサーの需要は急速に高まっています。オンセミでも対象デバイスの出荷数は、2009年に300万個であったものが、2010年には倍の600万個に達しました。そして10年も経たない2018年には毎年1億個以上の出荷を記録するようになりました。2023年までに、この数字はさらに倍となる年間2億個に達し、累計出荷数は10億個を超えました。

最新の超音波センサーの車載アプリケーション

ほぼすべての車両に、運転者がミラーや目視だけでは確認できない「死角」が存在します。この死角は車両の後方と側方に位置します。運転者が接近してくる車両に気づかずに、追い越しのために車線を変更しようとするときに危険が生じます。正しく配置された超音波センサーでこのエリアを監視し、車線変更が安全でないことを視覚的または聴覚的な警告で運転者に知らせることで衝突を回避できます。

最新の自動駐車システム(APS)は、超音波センサーを自動ステアリング、アクセル、ブレーキと連携させて使用し、運転者が車両をスペースの近くに停止させて自動駐車システムを起動するだけで、空きスペースに駐車させることができます。

同様に、運転者が駐車スペースから後退して出る際に視界が遮られることがよくあります。このような状況で、運転者が車両を徐々に後退させると、超音波センサーを使用したクロストラフィック検知機能が他の車両を認識して、警告を出すことができます。警告が無視されても、現在の多くの車両は自動的にブレーキを作動させる機能を備えています。

  • 超音波によるAPS(自動駐車システム)用の静止障害物の検知

    図2 - 超音波によるAPS(自動駐車システム)用の静止障害物の検知

近年、超音波センサーの応用範囲は車室内にも拡大しています。法規制や欧州Euro NCAPなどのプログラムにより乗員検知が義務化されたことで、これらのセンサーは乗員の検知、シートベルト警告をトリガーとして、乗員の体格と体重に応じたエアバッグの安全な展開のために使用されています。また、乳幼児が車内に一人で残された場合に警告を発することも可能です。これらのセンサーはまた、運転者の呼吸や心拍を検知して、注意力低下を監視する目的でも使用できます。

車載インフォテインメントシステムが高度化しているため、ボタン用のスペースが少なくなることが多く、運転中に目的のボタンを探す行為は危険な場合があります。超音波を使用することで、運転者は、例えば、手を回転させて音量を変えるなどの簡単なジェスチャーで、車両の多くの機能を制御でき、それによって利便性と安全性が向上します。

今後のトレンドと技術革新:自動車から産業分野へ

超音波技術の応用は自動車分野に限定されません。産業分野では、倉庫で稼働する無人搬送車(AGV)や、配送/輸送アプリケーションで使用されるAMRに短距離の深度センシングを提供します。自動車分野での使用例と同様に、超音波センサーはAMRやAGVが近くの物体を検知し、作業環境内を移動するのを支援します。工場においては、超音波は生産ラインにも導入されており、工程パラメータの監視や制御に利用されています。

超音波技術は進歩し続けており、新たな応用分野が次々と生まれています。この変化のペースは、今後さらに加速していくでしょう。例えば、MEMSマイクロフォンと超音波センサーを同じ場所に配置する研究が進んでいます。MEMSマイクロフォンは、超音波信号を受信するだけでなく、例えば接近してくる車両の音など、他の音も拾うことができます。また、緊急車両のサイレンを識別して、運転者に適切な行動をとるよう警告することもできます。

汚れや雨は、前方カメラだけでなく、超音波センサーの性能低下を引き起こす可能性があります。筐体に圧電素子を組み込むことで、センサーを振動させて雨や汚れ、さらには氷までも除去して、安全上重要なセンサーの正常な動作を確保することができます。将来の超音波センサーはバンパー表面に露出させるのではなく、裏面に設置される可能性が高いため、このような機能が不要になるケースもあるでしょう。

車両全体で電動化が進む中、バッテリーの状態を把握することがきわめて重要です。現在、これはバッテリーの電圧、電流、温度を外部から測定することによって行われています。しかし、バッテリー内部に超音波センサーを搭載することで、バッテリーの充電状態(SoC)や健全性(SoH)を、非常に正確に評価することが可能になります。

結論

オンセミは過去20年にわたり、主要な自動車OEMにパーキングアシストおよび自動運転アプリケーション向けカスタム超音波センサーインタフェースを供給してきました。

超音波センシングは確立された技術であり、車両がより高度な知能、安全性、自動化を取り入れるのに伴い、自動車分野での重要性が高まっています。急速な技術革新と、より高度なADASや自動運転の実現に向けた継続的な取り組みを背景に、超音波技術はより高いセンサー性能を提供することが期待されています。センサー性能の向上に合わせて、自動車、産業、医療、消費者分野のアプリケーションで新たな使用例が登場しています。

本記事はonsemiが「Power Systems Design」に寄稿した記事「The Evolution of Automotive Ultrasonic Sensors: From ADAS to Autonomous Driving and Beyond」を翻訳・改編したものとなります