名古屋大学(名大)は8月19日、フッ素や塩素、臭素などの環境に有害なハロゲン系ガスを使用しないプラズマプロセスを用い、最先端半導体デバイスの強誘電メモリやゲート絶縁膜に用いられている酸化ハフニウムを、原子レベルで微細に加工できる「異方性原子層エッチング」に成功したと発表した。
同成果は、名大 低温プラズマ科学研究センターのシャオ・シーナン特任教授、同・堀勝特任教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、ナノサイエンスとナノテクノロジーを扱う学術誌「Small Science」に掲載された。
ハロゲンフリーのプラズマプロセスを実現
デバイス性能のさらなる向上を見据え、新たな高性能材料の研究開発が進んでいる。その中でも、超微細トランジスタのゲート絶縁膜として広く使用されている強誘電性物質の酸化ハフニウムは、次世代の非揮発強誘電体メモリへの応用が近年特に注目を集めている。
一方、シリコン半導体デバイスの微細化と高集積化に伴い、パターン寸法のスケーリングは限界を迎えつつある。さらに、三次元構造が採用されるなど、素子構造の複雑化が進むため、所望する部分の材料を除去してパターンを形成する「エッチング」プロセスに関する技術的要求は高まる一方だ。
中でも注目されるのが、原子レベルの加工制御を可能とする原子層エッチング技術だ。これは化学種を表面に吸着させる反応と、反応生成物を脱離・除去する過程を分離し、それぞれのステップを繰り返すことで、原子層レベルの微細加工を実現する。現在、この技術は最先端の半導体デバイス製造において広く活用されつつある。
こうした背景から、次世代半導体デバイスの実用化には、酸化ハフニウムに対する高精度なプラズマエッチング技術の開発が強く求められていた。プラズマエッチングとは、真空容器に導入したガスを高周波放電などにより解離・電離させ、イオンおよびラジカルといった活性な化学種を用いて、比較的低温で機能性材料を加工する手法である。
酸化ハフニウムのプラズマエッチングは、ハフニウムと酸素の結合エネルギーが高く、いわゆる難エッチング材料として知られる。例えば、ハロゲン化合物の揮発性が低く(フッ化物の沸点は約970℃)、室温ではハロゲンを含む化学種と反応しにくいことから、自発的なエッチング反応は困難だ。このため、高エネルギーイオンを表面に衝突させ、反応生成物を物理的に除去する方法が不可欠とされてきた。しかし、高エネルギーのイオン衝突によって生じるダメージが、電子デバイスの性能を劣化させる原因となっていた。
そこで研究チームは今回、低圧高密度プラズマ生成装置を用い、窒素と酸素のプラズマを交互に照射することで、室温における酸化ハフニウムの異方性原子層エッチング技術を開発したという。なおここでいう「異方性」とは、マスク寸法通りにパターンを形成する手法を指す。
今回の手法では、まず窒素プラズマを照射することで、窒素イオンが酸化ハフニウム膜表面の酸素原子を窒素原子に置き換え、窒化ハフニウムの表面層が形成される。その後、酸素プラズマの照射によって、この表面層が室温で揮発性の高い反応生成物として除去される仕組みだ。
これらの反応を、リアルタイム赤外線吸収分光法による表面分析装置を用いて観察し、反応生成物の構造解明と各ステップの反応モデルが構築された。さらに、窒素イオンのエネルギーを低く制御することで、エッチング理前よりも表面の粗さが低下することがわかり、低ダメージでの原子層エッチングが狩野であることが示された。
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酸化ハフニウムの原子層エッチングプロセス処理のリアルタイム膜厚変化と、表面反応モデル。中央のグラフは、エッチングプロセス時間(横軸)経過に伴う膜厚(縦軸)の変化を示す。窒素プラズマの照射で窒化ハフニウムの表面層が形成され、続いての酸素プラズマの照射で揮発性の生成物が除去され、膜厚が減少する(出所:名大プレスリリースPDF)
今回の研究により、ハロゲンフリープラズマを用いた、室温での酸化ハフニウムの異方性原子層エッチングプロセスが確立された。これは、これまで難エッチング材料とされてきた酸化ハフニウムに対し、実用的な原子層エッチングプロセスを実現したものであり、次世代半導体デバイスの製造技術の発展における極めて重要なマイルストーンとした。また、環境に有害なエッチングガスを使わないため、SDGsの達成にも貢献することが期待されるとしている。

