レゾナックが、半導体向けを柱とする電子材料の開発に拍車をかけている。その背景には、旺盛なAI需要に応えるだけではなく、めまぐるしい技術革新に対応できなければ成長が止まってしまうという危機感がある。
かつて屋台骨だった石油化学事業を切り離すという決断をした同社にとって、収益の維持拡大を図る上でも電子材料の売り上げ構成比を大幅に高めることは急務。レゾナックが先頭に立って設立を進めてきた半導体パッケージ技術開発コンソーシアム「JOINT」を通して、半導体後工程で存在感を高めていくと同時に、半導体前工程分野の拡大も狙う。“高シェア製品の継続・延命”と“新分野の開発”という二本柱を掲げる同社の鍵を握る、レゾナック 半導体材料開発センターの池内孝敏センター長は、「就任2年目に入り、改めて昭和電工と日立化成が統合した力強さを感じている。見通しの明るい材料は多く、これからは市場の“総取り”を狙いたい」と力を込める。
好材料は多いものの増える開発課題
レゾナックの半導体関連事業における製品は、旧・日立化成が保有していた非導電性接着フィルム(NCF)や封止材、銅張積層板(CCL)、ダイボンディングフィルム、CMP(化学的機械研磨)スラリー、ドライフィルムレジストなど、高シェアを誇る後工程材料が多い。 また旧・昭和電工も、エッチングやクリーニングにつかう多様な材料ガスと溶剤などで領域を差別化。日立化成時代から25年以上にわたって封止材事業に携わってきた池内氏は、「これからは前工程市場の開拓も強化したい」と意欲を見せる。
しかしながら、現時点で高シェア品が多いことが逆に事業拡大を続けるためのハードルの高さにつながっている。昨今もっとも注目を浴びているAI半導体向けメモリの「HBM」(広帯域幅メモリ)に用いられるNCFは、レゾナックがすでに“シェア100%”を占め、その売り上げは2023~2024年度で3倍になった。2025年度も前年比で倍増になる見通しだというが、HBMの高速大容量化に伴って積層数が増えていけば、NCFやモールド・アンダー・フィル(MUF)を使わずに金属バンプを直に接続する「ハイブリッドボンディング」に移行する可能性がある。具体的には、バンプピッチの高密度化が進む「HBM5」以降にハイブリッドボンディングが広まると見られている。
高シェア製品の継続と新分野開拓が最重要項目
そこで同社は、NCFの“延命対策”として、ハイブリッドボンディングの抱える課題を解決する新技術の開発を進めている。ハイブリッドボンディングの中でも特に関心が高まっているのが、異種チップを貼り合わせ可能なチップ・トゥ・ウェハ(C2W)。ただ同手法の課題は、絶縁体に二酸化ケイ素(SiO2)や炭窒化ケイ素(SiCN)などの無機物が使われることだといい、研磨工程で無機物が小さなゴミとなって舞い散り、接合不良につながる恐れがある。これに対し、有機系のフィルムなら微細なゴミを内包できる。そのためレゾナックは、このメリットを生かせる製品開発を進めている。池内氏も「我々としては薄型化、狭ピッチ化が進むことで生じる課題をNCFでクリアし、継続提供につなげたい」と切実だ。
足下ではHBMのアンダーフィル材料には、NCFか液状樹脂を使うマスリフロー・モールド・アンダー・フィル(MR-MUF)が一般的だが、バンプ配置が高密度になり基板も薄くなると、接着性や厚み制御、反りに強いNCFが有利だとして、「HBM4~4Eまでは少なくともフィルムで対応できる」と推測する。
“単なるメーカー以上の貢献”を自負する「JOINT」
一方、レゾナックの半導体材料事業として「単なるメーカー以上の貢献ができているのではないか」と自負するのが、JOINTコンソーシアム。神奈川県・新川崎の駅にほど近い「パッケージングソリューションセンター」では、同社に加えてヤマハロボティクスホールディングスや東京応化工業、大日本印刷などの後工程関連13社が「JOINT2」プロジェクト(2021~2026年)に取り組み、成果をあげている。10μmピッチのファインバンプ構築や、再配線層向けの1μm/1μmの配線幅/間隔、それに140mm角の大型パッケージ基板などを試作。半導体関係の展示会には、320mm×320mmサイズの3層インターポーザー(配線幅/配線間隔=1.5μm)やブリッジダイ埋め込みインターポーザー(510mm×515mmサイズ)が出展された。
また、画像処理装置(GPU)などのシリコンダイの大型化に伴い、ガラス基板を想定した大サイズ化が進んでいるが、一般的に現状の設備では600mm×600mmへの対応はできないといい、レゾナックとしては開発の焦点を510mm×515mmサイズ基板に絞っている。この理由は、最大手の半導体受託生産会社が310mm角を選定したことが大きいといい、同社は310mm角の次にあるものとして510mm×515mmに力を入れているのだ。池内氏は「これがうまくいけば、もっとも大サイズの規格である600mm角にも対応可能」としており、生産設備会社の事情も考慮したうえでの「ベストな選択」だとする。
また再び盛り上がってきたガラス基板の導入については、「いつかはガラスにいくと思う」としながら、「我々はCCLで高いシェアを維持している。そのためNCFと同じく、まずは有機材でできるだけ続けていきたい」と方針を語る。その上で、ガラスの有する機能性に対抗できるように熱膨張係数(CTE)を可能な限り下げようと開発に注力しているところだ。
「いま、CTEが5ppm/℃を切るところまできたが、3ppm/℃以下にしようと努めている。ガラスコアでなくても有機コアでまだまだやれることを示したい」と、池内氏はチャレンジを続ける姿勢を強調する。
ガラスは弾性率も高くCTEも自由自在に変えられるとあって、材料の物性自体はガラスにはかなわない。しかし、「樹脂と違ってハンドリングが難しく“背割れ”が起き、ビルドアップ基板につかうと真っ二つに割れてしまう。取り扱いはそう簡単ではない」とのこと。そこでCCLのコア材性能アップに取り組んでいるが、ガラスの時代になる時に備えて着々と準備も進めている。
この準備の一環として、「ガラスコアそのものはやらないが、接着しにくくメッキもつきにくいうえ、“背割れ”もあるというガラスの課題を解決できるコーティング剤を開発して、接着性を上げることを考えている。また、絶縁層(ビルドアップ層)との応力を下げる材料の開発も進めている。これらはまだ販売に至ってはいないが、すでに一部で試用してもらっている。ガラスコアにもガラスキャリアにも使えるものだ」と、広い用途を狙っている。
グローバルでの成長へ新たな動きも画策
レゾナックにとっては、稼ぎ頭の有機コアの需要が減少すると売り上げを“別の商品”でも補わざるを得ない。「プライマーや銅のシンタリングペースト、ガラス基板まわりなどで収益源となる素材を考えている」というが、池内氏によれば、ここでも昭和電工と日立化成の相乗効果が役立っているという。もともと昭和電工はフィラーや樹脂などの素材に強く、「創る化学」と称されていた。対して、このような素材を組み合わせて半導体材料にするのが得意な日立化成はいわば「混ぜる化学」。川上から川下につなげるパスを作り、ラインアップを増やしていける強みがある。またレゾナックにはもうひとつ「考える化学」があり、最先端のAI技術活用などを検討する計算情報科学センターがその中核を成している。
そして、これらに並んで重要なキーワードとされるのが、「共創」。その中枢拠点こそがパッケージングソリューションセンターであり、JOINT2だけではなく、米・シリコンバレーにも同社と11社が参画した拠点を設け、2025年内に活動を開始することを発表している。
池内氏は米進出の狙いとして、ハイパースケーラーや数多く存在する現地の素材スタートアップとのコミュニケーションを密にし、連携を深めることがあるとし、そのために技術者を駐在させたとのこと。シリコンバレーでは「いろんな興味深い話が次から次へと出てくる。どれがものになるかわからないが、アンテナを張っておかないとすぐにとんでもない半導体パッケージング技術や素材が出てきて、やられてしまう可能性さえある」と、緊張感が漂う。
有望なスタートアップをいち早く見出し、「あわよくば取り込んで、特徴ある素材を作ることで前工程に入っていきたい」と、米拠点を橋頭堡とする前工程戦略を語る池内氏。JOINT2は今年度に終了するため次期プロジェクトが注目されるが、今度はよりグローバルなテーマ策定になりそうである。
相乗効果で前工程市場にも照準を合わせるレゾナック
後工程にとどまらず、中工程・前工程にも拡大を図るレゾナック。池内氏が長年携わった封止材が絡む分野も大きい。現状について、「封止材事業のシェアは固形タイプでも液状タイプでも2位と認識している」とする。しかし、最近は高熱伝導封止材の開発を進めており、「最先端DRAMには我々の材料が使われているか、もしくは使われようとしている」と、高い成長性を見込んでいる。差別化の目玉は、フィラーに微細なアルミナを使うことで高い熱伝導性を実現している点。アルミナを入れても表面処理や樹脂技術によって流動性や成形性、ハンドリング性を従来のシリカフィラー並に維持したのが特徴であり、「エポキシ樹脂の主成分は変わっていないがいろんな骨格の工夫をしている」という。
また、パネルレベルパッケージ(PLP)のような基板の大型化に対しては多様な検討を行っていて、フイルム化やグラニュールのコンプレッションモールドなどの開発にも取り組んでいる。大手半導体受託生産会社や後工程会社(OSAT)の関心も高く、「グラフィックス処理に特化したGDDRや低消費電力のLPDDRなど、性能要求が厳しくなっていくにつれ、レゾナックの材料が日の目を見るようになった」としている。

