H-IIA最終50号機によって6月29日に打ち上げられた、温室効果ガス・水循環観測技術衛星「GOSAT-GW」(愛称:いぶきGW)。いぶきGWに搭載された、温室効果ガスを観測するセンサ「TANSO-3」による初観測を行い、正常動作していることを確認したと、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が8月8日に発表した。

  • TANSO-3による観測画像。左上の(a)が7月14日の全球観測、右の(b)が東京の精密観測で、(c)は(b)から取得した分光データ。(b)と(c)は7月17日に観測した、バンド2の767nmの観測画像および分光データに基づく。なお観測部分以外は、Google Earthで使われている地球(カラー画像)が表示されている

いぶきGWは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と環境省、国立環境研究所(NIES)が共同開発した地球観測衛星。宇宙から地球の水と温室効果ガスを観測できるよう、ふたつのミッション機器として「高性能マイクロ波放射計3」(AMSR3:Advanced Microwave ScanningRadiometer 3)と、「温室効果ガス観測センサ3型」(TANSO-3:Total Anthropogenic and Natural emissions mapping SpectrOmeter-3)を搭載している点が特徴だ。

現在は打ち上げ後の初期段階において、センサを含む衛星が所定の機能性能を軌道上で有しているかを確認する「初期機能確認運用」を実施中。7月14日から7月20日にかけて、同衛星に搭載したセンサのうちTANSO-3による初観測を実施し、センサが正常動作していることを確認した。

なお今回の初観測は、いぶきGWと地上局の通信確認のための試験電波により、TANSO-3の観測データを取得することで行われたものだという。AMSR3についても初期機能確認を実施しており、観測開始に向けた準備を進めているとのこと。

TANSO-3による実際の初観測データには、広域観測モードによる全球観測と、より細かく観測できる精密観測モードによる画像情報が含まれ、そこから分光データを取得することもできたという。JAXAでは、二酸化炭素やメタン、二酸化窒素等による吸収を受けた分光データを計画通り取得し、TANSO-3の観測機能の健全な動作を確認したとしている。

TANSO-3の機能概要は以下の通り。

  • (a)広域観測モードによる全球観測:900km以上の観測幅を10kmの分解能で計測。3日間の広域観測で、全球をくまなく観測可能
  • (b)精密観測モード:90km以上の観測幅を3~1kmの分解能で計測。面的に約1,000地点を観測できる(※従来の地球観測衛星「いぶき2号」では、関東地方の場合は最大20地点の観測となっていた)
  • (c)分光データ取得:(a)と(b)に示した面的な画像のひとつひとつの画素(観測地点)から、グラフ状の分光データを取得できる

いぶきGWでは、従来の地球観測衛星を発展的に継承した面的な観測により、地球全大気の二酸化炭素およびメタン濃度の継続モニタリングを行うとともに、これまで困難だった面積が小さい国・地域の排出量をより精密に推計可能になる。

また、化石燃料の燃焼により二酸化炭素とともに排出される二酸化窒素の同時観測により、発電所などの大規模排出源を検出。都市や施設からの排出量を定量化することで、温室効果ガスの排出量削減といったさまざまな取り組みに寄与するとしている。

センサの初期機能確認は打ち上げ後3カ月間行われた後、センサの精度確認やデータ補正等を行う初期校正を実施、定常的な観測運用へ移行する予定だ。その校正にあたり、従来の地球観測衛星である「いぶき」および「いぶき2号」との連携に加え、米国NASAの二酸化炭素観測ミッション「OCO-2」や「OCO-3」と協同して、観測精度の確認を行っていく。

TANSO-3の概要、初観測データの詳細について

TANSO-3は、地球観測衛星「いぶき」(2009年打ち上げ)と、その後継衛星である「いぶき2号」(2018年打ち上げ)による、長期間の温室効果ガス観測を引き継ぐ新たなセンサとして、いぶきGWに搭載された。

TANSO-3では、温室効果ガスなどが固有の波長の光を吸収する性質を利用して、温室効果ガスの濃度や二酸化窒素のカラム量(気体の総量を単位面積当たりの地上から大気上端までの柱、つまりカラムの中にある気体分子の数で表した数値)を算出する。

TANSO-3の観測バンドと観測対象は、波長0.45µm付近のバンド1が二酸化窒素(NO2)、波長0.76µm付近のバンド2が酸素(O2)、波長1.6µm付近のバンド3が二酸化炭素(CO2)とメタン(CH4)。

大気中の気体の種類別に量を調べるために、光を回折格子という細かいすじの入った板で色(波長)ごとに分け、分光した画像として記録する「回折格子型イメージング分光方式」を採用したことで、従来の地球観測衛星より、空間方向にも連続的な分光データが取得可能になり、観測点数を大幅に増やせたことが同センサの特徴だという。

また、広域観測モードと、精密観測モードの2つの観測機能を切り替えて運用することで、全球観測と大規模排出源等の詳細観測を両立できる“世界で唯一のセンサ”と説明している。

  • いぶきGWのTANSO-3で、7月14日に広域観測モード及び精密観測モードで撮像された観測画像。バンド2の767nmの放射輝度の値をグレースケールで表示しており、値が高い、つまり明るい部分ほど白く表示され、値が低く暗い部分ほど黒く表示されている。また精密観測モードの画像は、広域観測モードの間(赤破線内)に小さく表示されている。広域観測モードでは900km以上の観測幅で、衛星の軌道に沿って南から北に観測してくことで、およそ3日に1回の頻度で全球を観測可能。なお観測部分以外は、Google Earthで使われている地球のカラー画像が表示されている

  • TANSO-3による広域観測モード(左)と精密観測モード(右)の日本付近の画像。バンド2の767nmの放射輝度の値を、グレースケールで表している。左は、7月20日午後1時頃に広域観測モード(観測幅900km以上)で近畿から北海道を含む日本域を観測した画像、右は、7月17日午後1時頃に精密観測モード(観測幅90km以上、3km分解能)で取得した東京上空の画像。精密観測モードでは、搭載されたスキャナミラーを用いて、観測したい地点を指向し、広域観測モードよりも高い空間分解能で画像を取得できる。なお観測部分以外は、Google Earthで使われている地球のカラー画像が表示されている

  • TANSO-3による東京上空の精密観測データから得られた分光データ。精密観測モードで捉えた前出の右の観測画像に引かれている、白い線に沿った観測点で得られた各観測バンドの分光データで、波長を示す横軸の下の太線は二酸化窒素(NO2)、酸素(O2)、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)の吸収帯を示している。各バンドの分光データには波長方向に濃淡がみられ、この濃淡は太陽光が大気を通過する間に二酸化窒素(バンド1)、酸素(バンド2)、二酸化炭素やメタンの温室効果ガス(バンド3)により固有の波長で吸収されていることを示している。この濃淡(吸収度合い)を詳細に解析することで、大気中の温室効果ガスなどの濃度が算出できる

従来のいぶきといぶき2号では、光の波の重なり方(干渉)を利用して、光の中に含まれる色(波長)を詳しく分析する「フーリエ変換分光方式」を採用している。光源からの光を干渉計で分割し、移動鏡の位置を少しずつ変えて光路差を生じさせ干渉光の強度を記録し、それをフーリエ変換という計算で分光データに変換するものだ。

いぶきやいぶき2号は、直径約10kmの視野で、地球全体を280km間隔および90km間隔で離散的に観測していた。これに対し、最新の観測衛星であるいぶきGWに搭載したTANSO-3の広域観測モードでは、900km以上の幅10km分解能で連続的なイメージで観測データを取得できる。

一方、精密観測については、いぶきやいぶき2号では視野約10kmで、都市部などをターゲットとし、ある区画で離散的ながら集中的な観測が行える。それに対し、いぶきGWのTANSO-3の精密観測モードでは、90km以上の幅を3~1kmの分解能で面的に観測できる。

JAXAではいぶきGWの精密観測モードにより、空間的に連続的な観測データが取得できるだけでなく、雲の隙間の有効な晴天域の観測データが増えることで、温室効果ガス排出量の推計精度の向上が期待できると説明している。