東京大学(東大)と国立天文台の両者は8月7日、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)とアルマ望遠鏡による観測を通じ、129億年前(宇宙誕生から約9億年後)の初期宇宙に、15個以上の星団が密集する“ぶどうの房”のような構造を持つ銀河を発見したと共同で発表した。

  • “ぶどうの房”のような構造を持つ銀河の近赤外線画像

    JWSTによる、強い重力レンズ効果を引き起こしている銀河団「RXCJ0600-2007」の近赤外線画像。かつてない高解像度観測により、15個以上のコンパクトな星団が集まり、ぶどうの房のような粒状の構造をなす、宇宙初期の銀河の姿が発見された(左上拡大図)。(c) NASA/ESA/CSA/Fujimoto et al.(出所:東大 ICRR Webサイト)

同成果は、カナダ・トロント大学 天文学・天体物理学科の藤本征史助教授、国立天文台 科学研究部/東大 宇宙線研究所(ICRR)の大内正己教授、東大 天文学教育研究センターの河野孝太郎教授兼センター長らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。

超精密観測で銀河形成の根本的な謎を描き出す発見

ビッグバンの真っ最中の宇宙は極めて高温だったため、原子核と電子がバラバラのプラズマ状態にあり、光が直進できなかった。しかし約38万年が経過して宇宙が十分に冷え、原子核が電子を捉えて水素やヘリウムなどの原子が生成されると、光は直進できるようになった。これは「宇宙の晴れ上がり」と呼ばれるイベントで、この最初に直進した宇宙最古の光は、今では宇宙マイクロ波背景放射として観測されている。

しかし、宇宙にはまだ星が1つも存在しないため、宇宙は晴れ上がるのと同時に「暗黒時代」と呼ばれる暗闇に包まれた。この時代は、宇宙誕生から約1~2億年が経過したころに第一世代の星「ファーストスター」が誕生するまで続いた。それから約10億年ごろまでの初期宇宙は“宇宙の夜明けの時代”と呼ばれている。

この宇宙の夜明けの時代の銀河を観測するのは容易ではなく、現在、JWSTは宇宙誕生から3~4億年という極めて初期の銀河の観測に成功しているものの、その構造を高解像度で詳細に観測するには至っていない。そのため、これまでの観測では銀河が滑らかな円盤状に見えていたのである。

そうした中、宇宙初期の天体を詳細に観測するために考案された重力レンズ効果を活用して天体を拡大して観測する手法が応用された。電波望遠鏡であるアルマ望遠鏡もこの手法を用い、宇宙初期の銀河を探索する大規模掃天観測プログラム「ALCS(ALMA Lensing Cluster Survey)」を実施し、数々の成果を上げている。今回の研究では、ALCSによって重力レンズ効果で拡大観測が可能なことが確認済みの、宇宙誕生から約9億年後の初期宇宙に存在する若い銀河を、JWSTとアルマ望遠鏡で重点的に観測したという。

今回の観測では、重力レンズ効果により、かつてない高感度と高解像度がJWSTとアルマ望遠鏡による異なる波長で相補的に実現された。その解像度は、約129億年前という極めて遠方の宇宙にもかかわらず、約30光年の高さが実現された。また、この1つの銀河だけで100時間以上という観測時間が費やされ、宇宙初期の銀河に対する最も精密な観測の1つが行われた。

  • ガス状の銀河内に多数の小さな星団が存在することを確認

    重力レンズ効果と最新鋭の望遠鏡を組み合わせた高感度・高解像度の観測により、ゆっくり回転するガス状の銀河内に、多数の小さな星団が存在することが確認された。(左)重力レンズによる光の歪曲効果を補正した、元の銀河の姿を示すJWSTによる画像。(右)視線方向(地球から見た奥行き方向)のガスの速度の大きさを表すアルマ望遠鏡による画像。片側が遠ざかり(赤方偏移)、反対側が近づく(青方偏移)ガスの運動が、銀河円盤の回転を示している。(c) S.Fujimoto(出所:東大プレスリリースPDF)

その結果、銀河は滑らかなガスの回転運動を伴い、最低15個以上のコンパクトな星団に分裂した構造を持つことが判明。1つの回転する銀河内に、多数の星団が“ぶどうの房”のように粒々に集まっている様子が確認されたのである。これは、宇宙の夜明けの時代の若い銀河に、回転運動と無数に分裂した内部構造が共存することを示す初の事例だ。この独特な外見から、この銀河は「宇宙ぶどう」と命名された。なお、現在の銀河形成・進化理論モデルでは、宇宙初期の回転銀河がこのような粒状構造を持つことを予測していなかったという。

  • 回転する銀河内で無数の星団が誕生している宇宙初期の銀河のイメージ

    今回の観測結果をもとに描かれた、回転する銀河内で無数の星団が誕生している宇宙初期の銀河のイメージ。(c) NSF/AUI/NSF NRAO/B.Saxton(出所:東大プレスリリースPDF)

今回の銀河は特異なものではなく、質量、サイズ、化学組成、星形成活動量といった観点から見ても、この時代に普遍的な銀河だという。つまり、数多く存在する銀河の1つを捉えたに過ぎない可能性がある。もしこれが事実なら、現在の望遠鏡の解像度では確認できないだけで、他の多くの銀河内も同様に、星団に支配されたぶどうの房のような構造を持っている可能性もあるとした。

現在のシミュレーションでは、宇宙初期の一般的な回転銀河がこのような多数の星団構造を持つことを再現できていない。そのため、今回の発見は、銀河がどのように形成され、進化したのかという根本的な謎を提起する結果となった。このことは、初期銀河における超新星爆発やブラックホールからのエネルギーが、想定より弱かった可能性も示唆している。つまり、初期銀河の構造形成に関する理解そのものが、再考を迫られる可能性があるという。

研究チームは「宇宙ぶどう」の発見について、銀河の誕生と成長の謎を解明できるまたとない機会を提供しており、今後、多くの研究が続くことが期待されるとする。こうした星団構造が宇宙初期では普遍的だったのか否かを結論づけるには、さらなる高感度・高解像度を実現する将来の大型望遠鏡による観測が鍵になる可能性があるとしている。