東京大学、千葉大学、京都大学の3者は、日本の研究者も参加する世界最大・最高感度のガンマ線観測所計画「CTAO」において、大型チェレンコフ望遠鏡「LST」を用いた国際共同研究により、観測史上最も明るいガンマ線バースト「GRB 221009A」からの高エネルギーガンマ線放射の検出成功と、7月29日に共同発表した。

  • ガンマ線バーストのイメージ。中心エンジンであるブラックホールから超高速の粒子流「ジェット」が吹き出す様子
    (C)東京大学 宇宙線研究所/若林菜穂
    (出所:千葉大Webサイト)

同成果は、東大 宇宙線研究所(ICRR)の窪秀利教授、同・齋藤隆之准教授、千葉大 国際高等研究基幹/ハドロン宇宙国際研究センターの野田浩司准教授(ICRR 客員准教授兼任)、同・井上進研究員(ICRR 共同研究員兼任)、京大 基礎物理学研究所の井岡邦仁教授、京大 理学研究科の寺内健太大学院生、330名以上の研究者が参加するCTAO観測所のLST国際共同研究チームCTAO-LST Collaborationによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

ガンマ線バースト(GRB)は、太陽が一生かけて放出するエネルギーをわずか数秒間で放射する、宇宙で最も強力な現象の1つだ。最初の短い放射は「即時放射」、その後数時間から数か月にわたって検出される放射は「残光」と呼ばれる。GRBは大別して2種類あり、放射時間の長いものは極めて明るい超新星と関係がある一方、短いものは中性子星同士の合体によると予測されている。

2022年10月9日、NASAのガンマ線宇宙望遠鏡「フェルミ」とガンマ線バースト観測衛星「ニール・ゲーレルス・スウィフト」は、観測史上最高の明るさを持つGRB 221009Aを検出。その光は複数の検出器を飽和させるほどだった。この報告を受け、CTAO観測所の大型チェレンコフ望遠鏡LST-1をはじめ、世界中の望遠鏡が追観測を開始。LST-1は、GRB発生の1.33日後から20日間にわたる追観測を行った。

なおCTAO観測所は、現在建設が進む世界最大・最高感度のガンマ線観測所である。南北2つのサイトがあり、北はスペイン・カナリア諸島のラパルマ島にあるカナリア宇宙物理学研究所のケ・デ・ロス・ムチャーチョス観測所で、LST-1はここにあり、残り3基のLSTも建設中だ。一方の南サイトは、チリ・アタカマ砂漠に位置するヨーロッパ南天天文台のパラナル観測所だ。両サイト合計で100基近い大中小3種類の解像型大気チェレンコフ望遠鏡が3〜10平方kmの領域に建設され、現在の10倍の感度となる100TeVのガンマ線天文台を目指す国際共同計画だ。

ガンマ線は地表に届かないため、チェレンコフ望遠鏡は間接的にそれを観測する。具体的には、ガンマ線が地球大気と衝突した際に発生する二次粒子「空気シャワー」が発するチェレンコフ光を捉える。しかし、この光は非常に微弱なため、低エネルギーガンマ線の検出にはより大きな鏡面積が求められる。そのため、LSTは全高が45m、重量は100トンという巨体さを誇るが、それでも空のあらゆる場所に20秒以内に向けられる性能を持つ。

チェレンコフ望遠鏡は高感度の光検出器をカメラとして用いるため、強い光がある状況下では観測が難しい。そのため、通常は満月の晩に観測は行わない。今回のGRBも運悪く満月であり、LST-1も観測を休止していた。しかし、その重要性を鑑み、緊急観測に踏み切ったという。

  • LST-1望遠鏡
    (C)Tomohiro Inada
    (出所:共同ニュースリリースPDF)

取得されたデータの解析でも、極めて明るい月光が障害となった。通常の解析手法が通用しないため、新たな解析手法の確立が必須だったとした。その努力の結果、今回のGRBから高エネルギーガンマ線の検出に成功。惜しくも、「新発見」として報告する有意度にはわずかに届かなかったものの、GRBの理論予測を制限し、区別するには十分な成果となった。

GRBはプラズマ粒子の超高速流「ジェット」が原因と考えられている。その根元にある中心エンジンは、ブラックホールか中性子星連星と予想されるものの、ジェットがどのように生成されるのかは大きな謎だ。観測結果により、今回のジェットは、中心の細い「剣」の周囲をより太くて遅い粒子の「さや」が取り巻くような、複雑な構造を持つことが示唆された。これは、単純で一様なジェット構造を仮定してきた過去の研究に一石を投じ、中心エンジンの構造や性質に新たな知見をもたらすものだ。

今回の成果は、CTAO観測所の次世代望遠鏡が、高エネルギー宇宙の謎に迫る高い性能を持つことを示した点でも重要だ。今後、GRBなどの高エネルギー加速天体の詳細解明に向けた最初の道標になったとしており、CTAO観測所では突発天体の観測をさらに強力に進めるべく、速報システムや自動追観測の整備を日々進めていくとのこと。

  • GRB 221009Aの光度曲線。右下の黒丸・白丸がLST-1による結果を示し、その他の点は他の実験による観測結果である。線は複数の理論予測モデルを示し、一部のモデルがLST-1の結果と矛盾することがわかる
    (出所:共同ニュースリリースPDF)