北海道大学と海洋研究開発機構(JAMSTEC)の両者は、小惑星リュウグウから採取されたサンプル中から、太陽形成直後の約45億6730万年前に形成された太陽系最古の岩石を発見したと共同で発表した。
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リュウグウサンプルから発見された太陽系最古の岩石「CAI」。アルミニウム-マグネシウム放射年代測定法により、太陽系誕生直後の約45億6730万年前に形成されたことが判明した。(右)電子顕微鏡により取得されたMg(赤)-Ca(緑)-Al(青)の合成X線元素マップ
(C)Kawasaki et al. 2025
(出所:JAMSTEC Webサイト)
同成果は、北大大学院 理学研究院の川﨑教行准教授、同・大学院 理学院の宮本悠史大学院生、同・大学 総合イノベーション創発機構の坂本直哉准教授、JAMSTECの荒川創太研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の地球・環境・惑星科学を扱う学術誌「Communications Earth & Environment」に掲載された。
天体の起源を探る上で重要な手がかりとなるのが、その原材料物質の分析だ。これまでの「はやぶさ2」が回収したリュウグウサンプル初期分析から、同小惑星は主に約40℃の低温の水溶液から生成した鉱物で構成され、その形成は約45億6200万年前と判明している。
こうした鉱物は、リュウグウ内部で氷が溶けて生じた水溶液が、元来の原材料物質(リュウグウを形成した最初期の固体物質)を二次的に変質させることで生成したものである。しかし、これらは現在のリュウグウの主要な構成物質に過ぎず、リュウグウを形作った最初期の原材料物質そのものが「いつ」形成されたのかは、これまで未解明だった。
そこで研究チームは今回、リュウグウサンプルについて、北大の走査電子顕微鏡で形状観察や化学組成の分析を実施。年代測定が可能な原材料物質を探索し、同大学の同位体顕微鏡(二次イオン質量分析計)を用いた「アルミニウム-マグネシウム放射年代測定法」により、その年代測定を実施することにしたという。
今回の研究では、リュウグウサンプルから、初期太陽系の1000℃を超える高温領域で形成された「CAI」が発見された。CAIは、カルシウムとアルミニウムに濃集した固体物質で、初期太陽系の高温ガスから凝縮したと考えられている。
鉱物学的観察の結果、CAIは水溶液から生成した鉱物と混ざり合った、リュウグウの原材料物質の生き残りであることが判明した。このCAIに対し、アルミニウム-マグネシウム放射年代測定が実施された。これは、アルミニウムの放射性同位体である「26Al」が、半減期約70万年でマグネシウムの安定同位体の1つである「26Mg」に放射壊変する現象を利用し、約45億年前という初期太陽系において形成された物質であっても年代を精密測定できる手法だ。
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リュウグウCAIの年代測定データ。縦軸は、26Alの放射壊変により生成した26Mgの過剰存在量に対応。CAIの鉱物ヒボナイトは26Mgの有意な過剰を示す。Al-Mg鉱物アイソクロン法から、CAI形成時の26Al/27Al存在比は(5.1±0.6)×10^-5だったと見積もられた。これにより、リュウグウCAIは45億6730万年(±20万年)前に形成されたことが判明した
(出所:北大ニュースリリースPDF))
測定の結果、CAIは太陽系誕生直後の約45億6730万年(±20万年)前に形成されたことが突き止められ、リュウグウの原材料物質の年代測定が世界で初めて達成された。今回の発見は、リュウグウが太陽系の誕生直後に形成された高温物質を取り込んでいることを示すものだ。ちなみに、現在のリュウグウの構成物の大半は、その数百万年後に形成されたものとなる。
一方で、リュウグウや同型のイヴナ型炭素質隕石で発見されたCAIは、いずれも0.1mm以下と小さく、他の炭素質隕石に多く見られる約0.1〜10mm以上の大型CAIが存在しないことも明らかにされた。この違いは、初期太陽系における固体物質の輸送過程が関連している可能性があるとする。
具体的には、固体物質の移動を妨げる「圧力バンプ」の影響を受けない領域で、リュウグウの母天体が形成された可能性が高いと推察された。圧力バンプとは、初期太陽系円盤内でガスの圧力が局所的に高くなる領域を指し、これが固体物質の移動を妨げ、物質の集積や分布に影響を与える。木星のような巨大惑星の形成が、圧力バンプ形成の一因と考えられている。これまでの研究で、リュウグウは太陽系の遠方で形成されたことがすでに示されていたが、今回の研究でも同様に、同小惑星が太陽系の遠方で形成された特異な天体であることが改めて示された形だ。
今回の成果は、太陽系の天体の誕生と進化の理解に重要な手がかりとなるという。これにより、惑星形成理論のさらなる進展が期待されるとした。研究チームは、NASAが探査機「OSIRIS-REx」を用いて小惑星「ベンヌ」(リュウグウと同様の炭素質だがB型)より持ち帰ったサンプルの観察・分析も進めており、リュウグウとの関連性解明が期待されるとしている。