理化学研究所(理研)、久里浜医療センター、静岡県立総合病院、静岡県立大学の4者は7月1日、健常な若年成人を対象とした包括的なクラスタリング解析を通じ、アルコール摂取後の「主観的反応」(SR)に基づき、日本人のアルコール反応性を参加者と評価尺度の双方を3タイプに分類可能であることを共同で発表した。
同成果は、理研 生命医科学研究センター(IMS) ゲノム解析応用研究チームの寺尾知可史チームディレクター(静岡県立総合病院 免疫研究部長/静岡県立大 特任教授兼任)、IMS ファーマコゲノミクス研究チームの曳野圭子研究員、同・莚田泰誠チームディレクター、久里浜医療センターの松下幸生院長らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国神経精神薬理学会の公式学術誌「Neuropsychopharmacology」に掲載された。
アルコール関連疾患のリスク予測因子として有用なSRだが、複数の遺伝的要因を包括的に評価した大規模な遺伝学的解析はこれまで行われていない。そこで研究チームは今回、アルコール反応性に関与する時間依存的な主観的感覚の変化と、その背後にある遺伝的要因との関連を解析し、SRに関与する遺伝的基盤の全体像解明に挑んだという。
同研究では、健常な日本人若年成人を対象に、SRの時間依存的変化が定量評価された。身体感覚の変化などを評価する3種類の評価尺度(BSS・BAES・SHAS)に含まれる計11の評価項目(サブスケール)が、静脈へのアルコール投与後30分ごとに測定された。多くの項目スコアが最初の30分後にピークを示し、一部は150分後にピークが確認された。この結果から、30分と150分時点のスコアが代表的な反応指標として採用された。
各サブスケールの時系列データを階層的クラスタリングと主成分分析で解析した結果、サブスケールは3クラスターに分類された。参加者も3つの明確なクラスターに分類され、それぞれが特定の評価尺度クラスターと対応。具体的には、クラスター1に属する参加者は評価尺度クラスター1、クラスター2の参加者は評価尺度クラスター3、クラスター3の参加者は評価尺度クラスター2で最も高いスコアを示した。この対応関係は、SRにおける個人差が、参加者側と評価尺度側の双方で共通する構造的なパターンを持つことを示唆しているとしている。
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アルコール摂取後のSRの時間依存的変化。BSS、BAES、SHASの3種類の評価尺度スコアを30分ごとに測定。横軸が時間(分)、縦軸はスコア。30分値(クラスター1、2)または150分値(クラスター3)でスコアはピークに達した(出所:共同プレスリリースPDF)
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BSS・BAES・SHASの3種類の評価尺度のクラスター分類。(左)階層クラスタリング結果。(右)主成分分析でピーク30分値(a)、ピーク150分値(b)での結果。いずれも評価尺度クラスターは3つに分類されている(出所:共同プレスリリースPDF)
アルコール投与30分時点におけるサブスケールスコアを用いた各参加者クラスターの反応比較では、クラスター間で統計的に有意差が認められた。クラスター1は最も強い反応を示し、クラスター2、クラスター3の順に反応が弱まる傾向だ。評価尺度クラスター側でも同様に、参加者クラスター1が最も顕著な反応を示し、続いて参加者クラスター2、参加者クラスター3の順となった。
これらの結果から、アルコールに対するSRは、参加者の個人差と評価尺度の構造の双方の両面で3つの異なるタイプに整理可能である。これは、日本人集団におけるアルコール応答の生物学的特徴を理解に新たな知見をもたらすものとした。
次に、アルコール代謝に関与する代表的な遺伝子ALDH2とADH1Bの変異が、SRに与える影響が評価された。ALDH2*2保有者では、特に評価尺度クラスター1で強い関連が時間依存的に変化することが確認された。ADH1Bについては、評価尺度クラスター2では関連が弱く、評価尺度クラスター3では遅延傾向が示された。また、参加者クラスター間の遺伝子型頻度にも有意な差が認められ、ADH1B*2は参加者クラスター2、ALDH2*2は参加者クラスター2と3で高頻度だった。
ALDH2とADH1Bのアリルは評価尺度クラスター1に最も強く影響し、時間と共に効果が変動することも確認された。GCKR(rs1260326)、ALDH1B1(rs3043)、ALDH1A1(rs8187929)など、他の飲酒関連遺伝子の寄与も評価した結果、それぞれ異なるクラスターに対し異なる関与パターンを示し、特にALDH1B1の影響が評価尺度クラスター1で顕著だった。GCKRについては、アルコール代謝そのものへの関与も示唆された。
5つのアルコール関連遺伝子(ALDH2・ADH1B・ALDH1B1・ALDH1A1・GCKR)による分散説明率を評価した結果、ALDH2は30分時点の評価尺度クラスター1で最大30%の分散を説明。ADH1Bは150分時点で最大1.7%の寄与を示したが、他の3遺伝子の寄与は限定的だった。ALDH2の影響は初期フェーズで強く、ADH1Bは遅れて影響を示すという、時間依存的な寄与が明らかにされた。
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評価尺度クラスターごとのALDH2とADH1Bの分散説明率。ALDH2(左)、ADH1B(右)それぞれの横軸は評価尺度に含まれるサブスケール、縦軸が分散説明率。ピーク30分値は青色、ピーク150分値はオレンジ色で示され、ALDH2ではピーク30分値で、ADH1Bではピーク150分値で高い(出所:共同プレスリリースPDF)
5つの既知領域を除いた全ゲノム領域を対象とするポリジェニックスコアが計算されたが、どのサブスケールにおいても有意な関連は認められなかった。これは、SRに対する遺伝的影響が、ALDH2やADH1Bなど、限られた遺伝子座に強く依存する可能性を示唆しているとした。
今回の研究で示された反応指標および個人の3タイプ分類は、アルコール反応性の客観的評価法として有用性が期待される。アルコール関連疾患のリスクが高い個人の早期特定や、予防的介入の実装に向けた基盤となる可能性があるとしている。

