OKIグループで設計開発受託事業を専門とするOKIアイディエス(OIDS)は6月30日、Armアーキテクチャを搭載したASIC/LSI開発の前段階で行われる「FPGAプロトタイピング」を支援するため、Armとの間で「Arm Approved Design Partner(AADP)」契約を締結したことを発表した。
効率的な新デバイスとして期待されるASIC/LSIには課題が
急速な発展が続くAI分野を筆頭に、さまざまな分野で半導体開発の重要性が高まり続けている。業界全体でもその開発競争は激しさを増しており、各メーカーは製品の市場投入に要する期間の短縮による競争力維持が必須に。その一方で、用途の拡大などを背景に顧客からの要求は多様化しており、さまざまな仕様変更に対応できる開発プロセスの構築が求められるとともに、製品開発におけるコストやリスクを低減させる取り組みが進められている。
そして、近年の半導体開発において無視できないのが電力効率の問題で、特にAI分野では、データセンタなどによる消費電力増大が課題視されている。しかし、リアルタイム処理性能など性能面での向上は変わらず求められることから、低消費電力かつ高性能な半導体が求められている。
そのキーファクタとして期待されているのが、特定用途に最適化した形で設計されたカスタム半導体であるASIC/LSIだ。特に、Armのアーキテクチャを搭載したASIC/LSIは、低消費電力・高効率という特性に加えて、開発においてさまざまな用途に対応しうる柔軟性の高さが評価されている一方、Armアーキテクチャ搭載半導体の設計ノウハウや知見を持った技術者が不足しており、各企業にとって課題となっているとする。
またASIC/LSIの製造を検討する際に高いハードルとなっているのが、設計の正当性の確認工程とのこと。ASIC/LSIは製造後のプログラム変更が不可能で、製造後にエラーが発生すれば大規模な損失につながるため、シミュレーションなどを活用した設計段階での確実な確認が必要とされる。しかしながら前出の通り開発期間の短縮は変わらず求められるうえ、大規模なASIC/LSIではシミュレーション時間が膨大となるなど、バーチャルでの検証には限界が訪れているという。
投資リスク軽減が期待されるFPGAプロトタイピング
そうした背景から注目が集まるのが、製造後のプログラム変更が可能なFPGAを活用して設計の正当性を検証する“FPGAプロトタイピング”だ。この手法では、比較的安価で製造が可能なFPGAに製造前の設計データを実装することで、ハードウェア環境での動作確認が可能に。エラーが生じた場合にはプログラムを書き換え、再検討に臨むことができる。
製品のアイデア段階から設計初期段階に至るまでの上流工程における設計開発受託サービスの実績を有するOIDSは、FPGA設計についても豊富な実績やノウハウを有するとのこと。またこれまで培ってきた独自IPを有するうえ、求める機能要件を満たしたFPGAの設計情報を基に、ASIC/LSIの新たな設計へと移行する技術にも強みを持つことから、新たにFPGAプロトタイピングの受託サービスの開始を決定し、ArmとのAADP契約締結に至ったとする。
OIDSは、今回Armとの提携を発表するとともに、Arm搭載ASIC/LSI開発の前段階となるFPGAを活用したプロトタイプ開発サービスの提供を開始する。このサービスを利用することで、顧客はASIC/LSIとして検討中の仕様をFPGA上で動作させ、機能要件を満たすことが検証されたプログラムを獲得可能に。またプロトタイピングの完了後は、ASIC/LSIへのシームレスな移行を支援することで、顧客の開発プロセス効率化および開発期間短縮に貢献するという。
Armとの提携で事業を一気に拡大させることを目指す
なお今回の提携により、OIDSはArmを介して顧客獲得の機会を得ることができると同時に、同社が提供するIPや開発環境を活用してサービスを行うことができるとする。OIDSの担当者によれば、ASIC/LSIの開発におけるArmの存在感は非常に大きく、そのコアを利用するユーザーはすべてOIDSが開始する新サービスの潜在顧客となるとのこと。その開発の中でデザインサービスを提供することで、高効率でのビジネス拡大が期待できるとした。
OIDSは、今般開始されるFPGAプロトタイピングサービスにより2026年度に年間1億円の売り上げを目指すという。これはOKIグループとしても重要な目標だといい、新サービスで設計を受託した機器の試作・量産を、OKIが展開するEMS事業によって受注することで、さらなる事業メリットを創出するとのこと。2028年度にグループ全体で1000億円の売上高達成を目指す中でも大きな期待がかかるとしている。また一方でArmは、OIDSを通じて日本国内の主要顧客の取り組みを目指すとした。
OIDSの担当者は、「現在ではクラウドベースのAIが主流だが、今後はエッジAI技術に対するニーズがとても高まると考えている。そのため今回、これまでのようなFPGA開発市場だけではなく、ASIC/LSIのデザインサービス市場にも参入しArmと提携することで、今後のエッジAI需要の変動に応えていきたい」としている。