PC向け第5世代スマート・ヒト検出ソリューションの提供をSTが開始

STMicroelectronics(STマイクロエレクトロニクス)は6月26日、同社のノートPC向けスマート・ヒト検出ソリューション「ST Presence」として第5世代となる技術群の提供を開始したことを発表した。

同ソリューションは、同社のマルチゾーンToF測距センサをベースに、FlightSenseテクノロジーと高度なモーション検出アルゴリズムを活用することで、人の存在や位置を正確に検出することを可能としたPC向け技術ブランド。第5世代技術を構成するのは、同社の8×8マルチゾーン対応のdToF測距センサ「VL53L8CX」と、同センサデータを活用する4つのエッジAI技術で、提供される各種の機能とAI処理などについては、Windows向けドライバとして提供され、PC OEMやソフトウェアベンダがそのドライバとPCやソフトを連動させて活用する形となるという。

  • VL53L8CX

    8×8マルチゾーン対応のdToF測距センサ「VL53L8CX」を搭載したSTM32 Nucleo向け拡張ボード(VL53L8CXそのものは基板下の四角で囲まれた中にある素子。パッケージサイズは6.4mm×3.0mm×1.75mmと小さい)。VL53L8CX自体は自律モードで1.6mWの消費電力とのこと

第5世代として提供される5つの機能

今回、第5世代技術として公開されたのは以下の5つ。

  1. スマート・ヒト検出(遠ざかり検知/ウェイク・アウェイ・ロックおよび頭の向きを検出した上での自動画面調光)
  2. 近接検知(ウェイク・オン・アテンション)
  3. 複数人検知
  4. ハンド・ポスチャ認識/ハンド・ジェスチャ認識
  5. ユーザーの姿勢モニタリング
  • 第5世代「ST Presence」

    第5世代「ST Presence」として提供される5つのソリューションとそのメリット。すでに一部のノートPCに先行して搭載済みとのこと

1つ目のスマート・ヒト検出技術だが、これまでもToFを用いて離席を自動で検知し、PCのロックからスリープ状態に移行するソリューション自体は前世代から提供されていたという。今回は、ここにエッジAIの機能として、距離分析と動作分析のアルゴリズムに基づく形で64画素の中で人の顔(頭)の向き検知を追加。より、高い精度で離席からのPCの自動ロックおよびスリープへの移行を可能とした。

  • 遠ざかり検知

    遠ざかり検知によってセキュリティの向上と電力消費量削減を図ることができるようになる

また、その認識時間は1秒を切る速さということもあり、画面を見ていない時には画面を暗くすることで消費電力をさらに節約するといった使い方も可能。これにより、同社の試算ではPC1台あたり1日につき20%以上の電力の削減が可能となり、これを同社の従業員(約5万人)全員に適用すると年間118トンのCO2を削減でき、これはパリからニューヨークへのフライト118回分に相当する排出量となり、世界的に企業に求められるESGへの取り組みを後押しすることができるようになるとする。

  • 顔(頭)の向き検知

    顔(頭)の向き検知により、ディスプレイを見ていないときには輝度を自動で下げてバッテリーの消費を下げるといったことも可能になる

2つ目の近接検知(ウェイク・オン・アテンション)は、光学カメラよりも高速にユーザーがPCの前に位置し、PCを操作しようとしているかどうかを(AIを活用した顔の向き認識を含めて)判断することで、ハンズフリーの高速なWindows Hello認証を実現することを可能としたもの。これにより、ユーザーが離席から戻ってきてPCにログインしようとしているのか、それともまだログインしようとしていないのかを自動で判断し、スムーズなログインを実現できるようになるとする。

  • 近接検知(ウェイク・オン・アテンション)

    近接検知(ウェイク・オン・アテンション)によりキータッチなどの操作不要でログインが可能になる

3つ目の複数人検知は、いわゆるショルダーハッキングを防ぐための機能。8×8の64画素化によって実現された技術で、PCの目の前に居るユーザー以外、最大3人まで後ろに人間が居ることを認識でき、覗かれている可能性があるといったアラートを出すことで、ユーザーへの注意喚起を促すことができるようになる(ロックとかではなく、あくまでアラートを出すのが基本で、アラートは任意で消すことができるという)。

  • 複数人検知

    複数人検知により、覗きこまれていることをユーザーに伝えることを可能とする

4つ目のハンド・ポスチャ認識/ハンド・ジェスチャ認識。エッジAIに手の動きを学習させることで、いわゆる手の動きであるハンド・ジェスチャと手のポーズ(形状)であるハンド・ポスチャを認識させることを可能とした技術。これで、キーボードを叩かなくても定義された手の動きに従ったアイコンや絵文字などを入力することができるようになるという。また、この認識AIアルゴリズムはSTM32マイコンでも動作可能なほど軽量だという。

  • ハンド・ジェスチャ/ハンド・ポスチャ認識

    ハンド・ジェスチャ/ハンド・ポスチャ認識により、光学カメラを使わなくても手の動きや形状を認識し、絵文字などの入力に使うことができるようになる

そして5つ目はPCユーザーの姿勢をモニタリングする機能。こちらについては、現在コンセプト検証の段階で、正式リリースは2026年を予定しているという。

  • 姿勢検知

    姿勢検知は健康を意識したソリューション。こちらは2026年に提供される予定だという

主にPCの前に長時間座ることで姿勢を悪化させて腰痛になるといった問題を防ぐことを目指したもので、ToFで得た姿勢データをエッジAIで正しい姿勢なのかどうかを判別し、身体を動かすようにユーザーにアラートを出すといった機能を提供していくことを予定しているという。

PC以外の用途展開も検討

ちなみにこれらの機能はPCでのみ動くというわけではないため、同社ではそれ以外の一般用途向けへの展開も目指すとする。すでにデモとしてスマート人感検出ソリューションを開発しており、ユーザーの接近を検知してシステムを設定した距離にまで近づいてきて、明らかにそのシステムを意識している顔の向きなどの場合はシステムを起動させるといった「近接検知」、逆にユーザーがシステムから離れていくのを認識して、スリープ状態に落とす「遠ざかり検知」、単に目の前を通過しているだけを認識し、そのつどスリープ状態を解除しないようにする「通過検知」、ユーザーがシステムを意識して立ち止まったことを認識してシステムのスリープを解除する「立ち止まり検知」、複数人がシステムの前を通過している状況における各人の位置や速度を検知する「複数人トラッキング」などを披露することが可能な段階にあるとする。

  • ToF技術とAIの組み合わせて
  • ToF技術とAIの組み合わせて
  • PC向けブランドがあくまで「ST Presence」なだけで、ToF技術とAIを活用した別分野への展開は可能だという

券売機や自動販売機、銀行のATMなどでの効率的な電力管理を可能にするソリューションとしており、単なるPCでの活用のみならず、そうした幅広い用途での活用に向けた新製品や新機能の提供を今後も継続して行っていきたいとしている。

  • dToF測距センサ「VL53L8CX」

    dToF測距センサ「VL53L8CX」とエッジAIを活用したデモの様子。PCモニター上部の黒い塊部分がVL53L8CX。その後ろに処理用のデモボードがつながれてUSB経由でPCとやり取りしている。左上の人物検知画像の赤い部分は人と判断した領域、右上が人物がPCに向き合っている判定、右下が姿勢検知、左下が顔(頭)の向き判定、下部中央が複数人検知の画面となっている