OKIは6月19日、ものづくり企業が経営指標改善に向け検討する“持たない経営”を支えるため、「製品群」「共通工程」「工場」の3種にわたる「まるごとEMS(設計生産受託)」サービスの提供を開始することを発表した。
工場コスト削減の行き詰まりで“持たない経営”への転換が加速
少子高齢化や生産年齢人口の減少による人手不足や人件費の高騰、不安定な為替変動や地政学リスクに起因した生産能力国内回帰の動き、そしてハイスピードな市場への対応に必要な短期間での製品開発加速など、製造業を取り巻く環境は急速に変化し続けており、各企業には数多くの対応が要求されている。加えて、成長分野とコア事業の両軸での人材育成や最新技術への投資、あるいは老朽化した設備の更新も必要とされており、生産のすべてを自社で揃える“自前主義”の限界が近づくとともに、企業それぞれの課題に合わせた革新的な経営効率向上が求められている。
そうした背景から、各企業では製造ラインにおける変動費削減に取り組んでおり、部材価格の低減や自動化設備の導入、生産性向上に向けた業務の見直しなどが進められてきた。しかしながら、そういった変動費の削減にはもはや行き詰まり感が漂っているといい、残された手段として固定費の削減を画策する企業が増加傾向に。特に、自社工場を手放して運営コストを削減する“持たない経営”へと舵を切る例が多く見られるといい、その一方で、ファブレス化した企業からの依頼を受託して生産能力を担うEMSサービスの重要性が高まりを見せている。
創業以来、情報通信分野をはじめとするさまざまな領域に自社製品を提供してきたOKIは、長年のものづくりで培われた高品質・高信頼性製品の変種変量生産、および短期間でのライン立ち上げを実行する技術やスキルを活かし、2002年よりEMSサービスを提供してきた。また近年では、最先端かつサステナブルな生産技術と生産設備の開発・導入を進めているといい、同サービスにおけるメイン工場である埼玉県・本庄工場のH1棟は、建物で消費する一次エネルギーの収支をゼロにする「ZEB」認定を取得しているとのこと。サプライチェーン全体でのカーボンフットプリントなどが重視される近年においても、多様なものづくり需要に応えている。
そんな同社は、先述した社会環境の変化を受けて、売り上げの大きい顧客に提供するサービスを“製品”と“製造工程”という2つの視点で分析。企業にとって生産能力を外部委託する製品が“コア製品”なのか否か、そして生産工程の全体を委託しているのか一部に留まるのかを調査しマッピングしたという。すると、大きく分けて3つの共通点が見えてきたとのこと。基板実装という「共通工程」の委託、ノンコアである「製品群」全体の生産の委託、そしてコア製品を含む「工場」の能力すべての委託に対するニーズが明らかになったとする。
各企業に合わせたEMSサービスの提供で経営効率化に貢献
そこでOKIは今般、顧客分析により見出された共通項それぞれについて“まるごと”製造を受託する新サービスを開発し、「まるごとEMS」としての提供を開始する。顧客が抱える課題に合わせて形態が変わる同サービス。例えば企業のコアとなる製品にリソースを集中させる際には、ノンコア製品の生産をまるごとOKIに委託できる。一方で企業全体としてファブレス化を推進する際には、工場の生産能力をまるごとOKIが請け負うことが可能。将来の需要変動が見通せない新製品の生産を開始する際にも、大きなコストと期間を要する工場立ち上げのリスク回避に貢献できるとした。
また、老朽化した設備への投資を行わずに生産を継続する場合には製造工程単位での委託も想定される。さらに、サプライチェーン全体で増大しがちな下請管理費用の削減にも寄与するといい、下請事業者との間で発生する伝票処理や納期管理などの煩雑な業務をOKIが受託する方法や、多くの企業に依頼していた作業をまるごとOKIとして受託する方法など、生産全般に関わる工程を横串で請け負い、生産能力の効率化を実現するためのサービスを提案・提供するとしている。
OKIは、まるごとEMSサービスの提供を通じて顧客製品の原価低減に貢献するだけでなく、工場や設備の変動費化、棚卸削減によるフリーキャッシュフロー改善などに貢献することで、経営効率の向上およい成長分野・コア事業への経営資源投入を促進し、強固かつ柔軟な経営基盤の構築をサポートするとのこと。同社としては新サービスを通じて2028年度に年間100億円の売り上げを目指すとしており、同年度での売上高1000億円達成を目指すOKIのEMS事業を牽引する柱として期待を寄せているとした。