大林組とアイシンは6月13日、東京都清瀬市に位置する大林組技術研究所にて、ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた実証実験を開始したことを発表した。
太陽電池をファスナーで取り付け - 交換が容易に
2050年のカーボンニュートラル実現に向け、再生可能エネルギー(再エネ)の導入拡大は必要不可欠であり、その主力電源として太陽光発電への期待が集まっている。太陽光発電においてはこれまで、シリコンを主要材料にした太陽電池が主に用いられてきたが、設置スペースの確保と高効率な発電の両立が難しく、平坦かつ日商条件が良好な土地が限られる日本国内では、設置場所の制約も課題となっていた。
そうした課題を解決する技術として注目されているのが、ヨウ素を主要材料とし、軽量・柔軟・薄型といった特徴を有するペロブスカイト太陽電池だ。同電池は軽量という特性から、建物の壁面や耐荷重に制限のある屋根など、従来のシリコン太陽電池では設置が難しい場所にも適用が可能。また主要材料であるヨウ素は日本国内でも調達でき、製造工程が少ないことから、大量生産による低コスト化も期待されている。ただ一方で、ペロブスカイト太陽電池には発電効率や耐久性の面で課題が残されており、実用化および普及を見据えた技術開発が進められている最中だ。
そうした中でアイシンは、20年以上にわたる有機系太陽電池の研究開発で構築された技術を活用した高い発電効率、また薄ガラスを用いた独自のフィルム構造による高い耐久性の実現を目指し、ペロブスカイト太陽電池の開発や社内外での実証実験を進めているとする。そして今般同社は大林組と共同で、「容易に交換できる工法」と「発電量を最大化する設置方法」の開発・検証を目的とした実証実験を、大林組技術研究所を舞台に開始した。
開発・検証の目的のうち、交換が容易な工法として検討されているのが、「ファスナー取り外し式工法」だ。建物にペロブスカイト太陽電池を設置する場合には、建物が使用中でも電池を容易に交換可能な仕組みが求められる。そこで今回は、ペロブスカイト太陽電池付きのシートと、屋根や壁面に所定の間隔で固定したメッシュシートを、ファスナーで固定する方式を開発し、大林組技術研究所本館の屋上に施工したとする。
同工法では、通気性の高いメッシュシートと、耐候性の高い特殊ファスナーを使用し、大面積でもファスナー部分で容易に連結できるとともに、部分的に交換することも可能であるため、長期的な保守性にも優れるとのこと。今後は、長期設置による耐久性の検証や、実際の取り換え工事を通じた施工性の評価も予定しているという。
設置の場所や角度も再考 - 検討にはシミュレーションを活用
一方で太陽電池の設置方法については、日本では日照量が最大となる南向きに30度の角度で設置することが、発電効率が最も高く年間発電量が多いとされていたものの、これは広大な上に日陰ができない場所への設置が前提であり、設置場所に制約が生まれていたという。そのため今回の実証では、ペロブスカイト太陽電池の軽量かつ柔軟で、低照度時の発電効率に優れる特性を活用し、効率的に年間の発電量を最大化させる設置形状をシミュレーションにより算出した上で、大林組技術研究所本館の屋上に設置したとする。
両社によると、今回の設置方法は、太陽電池を角度30度で平板にて設置した場合に比べ、より多くの太陽電池を搭載できるとのこと。これにより、個々の太陽電池による発電効率は低下するものの、同一面積あたりの発電量は20%以上増加する見込みだという。なお今後は、それぞれペロブスカイト太陽電池の発電量や経年劣化度を比較評価するとした。
大林組とアイシンは、今般開始された実証で得られる知見をもとに、ペロブスカイト太陽電池の早期実用化に向けた技術開発を推進するといい、今後はビルや工場、インフラ構造物などさまざまな建設物への適用を視野に研究を進め、再エネの導入拡大およびカーボンニュートラル実現に貢献するとしている。