名古屋市立大学、東北大学、立命館大学、北海道大学の4者は、小惑星や彗星、隕石などの地球外物質に含まれるミリメートルサイズの球状粒子「コンドリュール」が溶融状態から急冷凝固する過程を数値シミュレーションし、特異な形状の鉱物「棒状カンラン石」の結晶成長過程を初めて理論的に再現したと5月26日に共同発表した。
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(a)コンドリュールに含まれる棒状カンラン石。白い部分がカンラン石の結晶。(b)棒状カンラン石の模式図。コンドリュール周囲を取り巻くリムと、内部にほぼ平行に並ぶ多数のバーで特徴付けられる。リムとバーは別々の結晶ではなく、単一の結晶だ。(c)数値シミュレーションによって再現された、棒状カンラン石に類似した結晶成長パターン(模様)
(出所:共同ニュースリリースPDF)
同成果は、名市大大学院 理学研究科の三浦均准教授、東北大大学院 理学研究科 地学専攻の中村智樹教授、同・森田朋代大学院生、同・渡邉華奈大学院生、立命館大学 総合科学技術研究機構の𡈽山明教授(中国科学院兼務)、北大 低温科学研究所の木村勇気教授、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小山千尋研究開発員らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国科学振興協会が刊行する学術誌「Science」の姉妹誌「Science Advances」に掲載された。
コンドリュールは約46億年前の初期太陽系において、加熱溶融後に急冷凝固することで形成された球状粒子だ。その中には、地球上の岩石には見られない特異な形状の棒状カンラン石が含まれている。
カンラン石自体は、地球上の岩石にも普遍的に含まれる代表的な鉱物で、形成環境を反映した多様な形状を示す。棒状カンラン石の特異な形は、初期太陽系の環境を推測するための重要な手がかりであり、その形成条件を調べるため、多くのコンドリュール再現実験が行われてきた。しかし、棒状カンラン石の形成過程を理論的に再現する試みは、これまでほとんど行われていなかった。
そこで研究チームは、急冷する溶融コンドリュール内部でカンラン石の結晶成長過程を、物質の相変化を連続的な場の変数で表現する「フェーズフィールドモデル」に基づき数値シミュレーションを実施。棒状カンラン石を再現し、その形成メカニズムや形成条件の理論的な解明を試みることにした。
シミュレーションの結果、棒状カンラン石に極めて類似した結晶成長パターンが初めて理論的に再現された。この結果に基づき、研究チームは同鉱石の形成メカニズムに関する新しい理論モデルを提唱。さらに、同鉱石が形成するには、従来考えられていたよりも溶融コンドリュールが速く冷却される必要があることも突き止められた。
溶融コンドリュールは、いわば宇宙空間に生じた「微小なマグマ」だ。その中には、カンラン石をはじめとする多様な鉱物成分を含み、宇宙空間の高真空環境で加熱されると、特定の成分が蒸発し、表面付近にそれらの成分が枯渇した「蒸発層」が生じる。
この層の内部では、カンラン石結晶に対する「過冷却度」が増大する。過冷却度とは、物質が完全に溶融する温度を基準とした冷却の度合いで、この値が大きいほど結晶成長用が強い。同時に、溶融コンドリュールの化学組成がカンラン石結晶と適合することで、カンラン石が急速成長し、コンドリュール周囲を取り巻くリムが形成されることが判明した。
また、リムが成長する過程において、その内側で「界面不安定」が生じることも明らかにされた。界面不安定とは、平坦な結晶面が成長する際に生じた微小な凹凸が時間経過によって増幅され、多数の突起が発生する現象のことである。その結果、リムの内側に多数の平行バーが発生することが突き止められた。
このメカニズムで棒状カンラン石が形成されるには、溶融コンドリュールの表面に生じた蒸発層が残存している間に形成される必要がある。そのためには、1秒あたり1度以上の冷却速度が必要があることが理論的に見積もられた。この冷却速度は、従来の再現実験で示されていた値(1秒あたり1度以下)よりも速い。これは、コンドリュールが従来とはまったく異なる条件で形成された可能性を示唆する。これまでの標準的なコンドリュール形成シナリオは従来の実験結果に基づいていたため、今回の成果はその見直しを迫るものであるとした。
コンドリュールのような、ミリメートル〜センチメートルサイズの粒子は、惑星形成に重要な役割を果たしたと示唆されている。今回の成果は、初期太陽系における物質進化に加え、惑星形成に関する理解を飛躍的に進歩させる可能性を秘めているという。
研究チームは2025年度に、国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟の微小重力環境を利用したコンドリュールの再現実験プロジェクト「Space Egg」を実施する予定だ。宇宙実験でコンドリュールの模様が再現されれば、世界初の快挙となる。今回の研究手法は、その再現実験の結果を直接検証しうる、現時点で唯一の理論解析手法だとしている。