《 消費者の財布の紐をこじ開けろ!》  財布の紐が固い中での最高益、 ローソンが手掛けるマーケティング戦略

2022年6月から 新たな売り場づくりに着手

「コロナ禍以降、ローソンのあれを使いたい、ローソンのあれを食べたい、と指名買いいただけるような商品やサービスに変えてきた。〝新しい便利〟をつくりあげることで、当期利益500億円という目標を2期連続超えることができた」

 こう語るのは、ローソン社長の竹増貞信氏。

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 ローソンが2025年2月期の連結業績を発表。営業収益1兆1707億円(前年同期比7.6%増)、営業利益に相当する事業利益は1050億円(同11.7%増)、当期利益599億円(同14.9%増)と、いずれも過去最高を更新。中でも、国内コンビニ1万4694店舗の全店平均日販が57.4万円で過去最高となった。

 平均日販とは1店舗あたりの1日の売上高のことで、コンビニ業界の重要な指標の一つ。5年前(2020年2月期)のローソンの平均日販は53.5万円。物価上昇で商品の平均単価が上がったとはいえ、約4万円も売上が増えている要因には、いくつかのマーケティング施策が奏功した。

「コロナ禍でオフィス需要や観光需要が一気になくなり、改めて、コンビニの存在意義を再定義した。コロナが回復してきて、竹増社長の大号令の下、加盟店の皆様と本部のスーパーバイザーが中心となって、2022年6月から新たな売り場づくりを進めてきたことが原点だと考えている」

 ローソン理事執行役員でマーケティング戦略本部副本部長の吉澤明男氏はこう指摘する。

 2022年6月、同社がスタートしたのが『ハッピー・ローソン・プロジェクト!(ハピろー!)』。お店に来た来店客を〝ハッピー〟にさせるための取り組みで、店舗の品揃え強化のため加盟店支援を強化し、店舗のレイアウトも変更。コロナ禍の在宅勤務やテレワークで〝巣ごもり〟が常態化していた顧客へ、店に足を運んでもらえるよう商品やサービスを刷新した。

 その中から生まれたのが『盛りすぎチャレンジ』企画。期間限定で、プレミアムロールケーキやおにぎりなどの人気商品を値段据え置きで47%増量するというサービスだ。この頃はウクライナ戦争が始まり、あらゆる物価が上昇していた時期でもあり、来店客に〝お得感〟を訴える企画を思いついたという。

『盛りすぎチャレンジ』企画が顧客の〝お得感〟を刺激した

「とにかくお客様に店へ来ていただき、ローソンらしいワクワク感を感じ、お得だと感じてもらえるには何をするべきかを考える中で、47都道府県を元気にするための施策ということで47%増量しようと。どうせやるなら数%の増量ではインパクトが無いと思っていて、お客様から『ローソンやりすぎだろ』というお声をいただいた時には思わず『やった!』と」(吉澤氏)

 また、新経営体制への移行効果も出てきた。

 昨年2月には、三菱商事、KDDIとの3社で資本業務提携契約を締結。7月には上場を廃止し、9月から三菱商事とKDDIが50%ずつを出資する新たな経営体制へ移行した。

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 その第一弾として、昨年10月から『auスマートパスプレミアム』を『Pontaパス』にリニューアル。週替わりでPB(プライベートブランド=自主企画)商品がお得になるクーポンを配布したり、『au PAY』の利用分のポイントが最大4倍となるポイント還元などを実施。日販にして0.4%の押上げ効果があったという。

「最近はコスパ重視のお客様が増えていて、限られたお財布の中で同じお金を払うのであればどういう体験ができるのかということを、ものすごくシビアに見ている。『盛りすぎ』のように、目に見えて分かるようなお得感を体験・体感できれば、お客様は支持してくれる。分かりやすく価値をお伝えできるようチャレンジしていく」(吉澤氏)

2030年度に 平均日販を 70万円超へ

 4月17日、ローソンは2030年度を最終年度とする中期経営方針を発表。現在の2倍となる事業利益2000億円、当期利益1000億円を目指す。

 そのために、AI(人工知能)を活用した次世代発注システム『AI.CO(AI Customized Order=通称・アイコ)』をフル活用して生産性を向上。30年度に平均日販を70万円超にすることを目標に掲げている。

 ただ、ファミリーマートは1万6251店舗で平均日販は57.3万円。国内コンビニ首位のセブン-イレブン・ジャパンは2万1552店舗で平均日販は69万円。ファミマとの差はほとんどないが、セブン-イレブンとの差は約12万円もある。

 過去5年間でローソンは平均日販を約4万円アップさせてきたとはいえ、これから5年間でさらに約13万円アップさせ、セブン-イレブンとの差をいかに縮めていくか。まだまだ課題が多いのも事実だ。

 中長期的には、人口減少・少子高齢化で国内市場は縮小。足元を見れば、長引く物価上昇や不透明なトランプ政権の動きなどもあり、個人消費が上向きそうな要素は少ない。好調なインバウンド(訪日観光客)需要も、ここに来ての円高進行で先行き不透明な状況にある。

 そうした中、今年6月に創業50周年の節目を迎えるローソン。社長の竹増氏は「50周年を迎える今年度は次の100周年に向かうスタートの年。社会課題の解決、圧倒的な成長へ向けて、チャレンジしていく年にしたい」と話す。

 消費者の財布の紐をいかにこじ開けるか。ローソンの次の一手が注目される所以である。

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