シャープは5月12日、2024年度(2024年4月〜2025年3月期)の決算を公表した。全社トータルの売上高は前年度比7%減の2兆1,601億4,600万円と前年度を下回ったものの、営業利益(273億3,800万円)、経常利益(176億5,300万円)、純利益(360億9,500万円)はいずれも改善し、黒字化した。

  • 中央が沖津雅浩社長 CEO。左は小坂祥夫専務 CFO、右は中道克明IR部長

  • シャープの2024年度決算業績

2024年度のブランド事業はスマートライフ&エナジー、スマートオフィス、ユニバーサルネットワークの3セグメントすべてで増収となり、営業利益も円安によるマイナス影響を受けつつも増益。売上高・営業利益ともに二桁伸長となった。ディスプレイデバイス、エレクトロニックデバイスのデバイス事業はいずれも大幅な減収で、エレクトロニックデバイスは減益だが、ディスプレイ事業の構造改革が進み赤字が大幅に縮小。この結果、デバイス事業全体では利益が大きく改善したとのこと。

セグメント別で売上高と営業利益を見ると、スマートライフ&エナジーは、ASEANでの大型・高付加価値モデルの販売拡大や欧米での調理家電の伸長などにより増収。ただし利益については、欧州でのエネルギーソリューションの事業終息費用や円安の影響などにより減益となった。

スマートオフィスは、Windows11への切り替え特需で法人向けプレミアムモバイルノートPCが好評で販売が拡大。日本や米州でのオフィス向けソリューションの伸長などによって増収増益となっている。

ユニバーサルネットワークのうち、スマートフォンでは「AQUOS wish 4」や「AQUOS R9」の販売が好調に推移。テレビ事業においても、海外で売上が伸長し、国内でも高価格帯に位置づけられるXLEDモデルやOLEDモデルが堅調に推移したことなどで増収となった。利益についても、売上増などにより増益となったことに加え、通信事業において一過性の収益もあったことから、前年に対して大きく伸長した。

2025年度の通期業績予想については、売上高は1兆8,500億円、営業利益は200億円、経常利益は50億円、純利益100億円を見込む。なお現時点では、米国関税の影響を具体的に予見することが難しく、あくまで「保守的な業績予想」とした。

営業利益の増減予想をみると、2025年度の営業利益は、2024年度比で73億円の減益となる見通し。ただし、2024年度の特許での一過性収益の影響を除くと増益となる。

内訳は、スマートライフは、生成AI対応家電の拡販や海外での販売拡大、構造改革効果などにより、130億円の増益となる見通し。スマートワークプレイスは、クロスセルの推進や新規事業の拡大に取り組むが、Windows11切り替え特需の反動や、米国における関税政策の影響懸念があることなども踏まえ、170億円の減益を見込む。ディスプレイデバイス事業は、白山工場における高付加価値商品の投入拡大や亀山第1工場における大型車載パネル比率の向上、構造改革効果などにより、71億円の増益となる見通しだ。

シャープでは、2024年度を「構造改革」、2025年度から2027年度にかけての3カ年を「再成長」の期間と位置づけ、2028年度以降の「飛躍」に向け、成長への布石となるさまざまな取り組みを進めている。沖津雅浩社長 CEOは、「2024年度は『ブランド事業に集中した事業構造の確立』が着実に進展した一年」と振り返った。

具体的には、2024年度に堺ディスプレイプロダクトのパネル生産停止とグリーンフロント堺の主要資産売却、カメラモジュール事業および半導体事業の譲渡など、2024年5月の中期経営方針で示したアセットライト化を、当初想定のスケジュールに沿って着実に実行。

また中小型ディスプレイ事業においても、さまざまな構造改革の検討を進めている。この中で、シャープの主要工場のひとつである亀山第2工場の買い取りについて鴻海からの要望を受け、2026年8月までに譲渡する方向で、具体的協議を進めていることを明らかにした。

沖津社長はこうした現状を説明した上で、「ブランド事業においても、低収益事業の構造改革を実行するとともに、成長への布石を複数打っており、再成長に向けた確かな基盤の構築が進んでいる」と話した。

2027年度までの中期経営計画も公表し、その要として沖津社長がまず取り上げたのが「創業の精神」だ。

「シャープはかつて、『目の付けどころがシャープでしょ』の言葉の通り、他社とは一味違った、シャープらしい商品を次々と生み出してきた。成功したものばかりではないが、私はこの違いを生み出す力こそが「シャープらしさ』であり、社の競争力の源泉であると考えている」(沖津社長)

「これまでの経営危機やマネジメントの変化などを背景に、近年シャープらしさが徐々に失われつつあると感じており、2024年6月に私が社長に就任した際、これを取り戻すことを使命に掲げた。約一年にわたり、全社員に対して、シャープらしさの根幹にある創業者・早川徳次の精神、経営理念・経営信条に立ち返り、これにこだわりながら事業活動に取り組もうと、呼びかけ続けてきた。少しずつではあるが、こうした精神が再び社内に浸透しつつあるように感じている」(同)

沖津社長は続けて、同社の新たな指針として策定した「誠意をもって人々の日常を見つめ、創意をもって新たな体験を提案する」を紹介し、これを共通の合言葉として「日々の事業活動の中で、創業の精神、経営理念・経営信条にこだわりを持ちながら、シャープらしい価値創造に取り組んでいく」と述べた。

重点的な取り組みとして、従来投資の比重が高かったデバイス事業とブランド事業のバランスを変え、後者への投資を拡大する体制を構築。今後3年間で、ブランド事業に対して過去の2倍以上の成長資金を投下し、ASEANや米州における工場の生産能力増強など、既存事業の競争力強化を図るとともに、AIやITソリューションビジネス、ロボティクス、AloTサービス、美容・ヘルスケアなどの成長領域におけるM&Aも積極的に展開。事業変革を加速していくとした。

また、持続的な事業拡大を支える成長基盤の構築も進めていくとし、中でもシャープ独自のAI技術「CE-LLM」を、特に重点強化していく技術として紹介。CE-LLMは、すばやい応答性と強固な安全性を強みとする「エッジAI」と、深い思考力や広い汎用性を強みとする「クラウドAI」を、用途に応じて切り替えて活用する技術のことだ。

シャープが提供する多様な機器群に蓄積された「利用履歴や保存データなどの“過去”の情報」と、「機器の状態やセンシングデータなどの“現在”の情報」を読み込み、顧客の習慣や傾向、現在の状況などを学習・理解。エッジとクラウドの強みをそれぞれ活かしつつ、ユーザーの環境に合わせた最適なソリューションを提案していくという。

沖津社長は「今後、エッジAIの性能向上やLLMの小型化が進むことで、より多くの処理がエッジ側で完結できるようになり、さらに顧客に寄り添った価値提供が可能になる」と述べた。

今後、競争力の源泉となるコア技術として開発を加速するものとして、EV(電気自動車)やAIを挙げる。同社では現在、これらに関する3つのプロジェクトを推進しており、今後もよりフレキシブルに全社のリソースを掛け合わせることで、特長技術や新規事業の立ち上げを強化するとのこと。さらに、AI研究開発専門組織の立ち上げや、国内外の大学・研究機関、スタートアップとの連携強化も進めていく。

こうした取り組みにより、エッジAI、通信、画像解析、エネルギー、QoL、マイクロフォトニクスなどの特長技術をより深化させるとともに、将来技術の探索や新たなイノベーションの創出に重点を置いた研究開発のウエイトも高める。「暮らす」や「働く」といった、同社が既に手がけている領域で新たな事業展開を行ったり、モビリティや宇宙といった新産業への挑戦にもつなげていきたい考えだ。