三菱重工業は5月9日、2024年4月〜2025年3月期の決算(国際会計基準=IFRS)を公表した。電力需要の伸長によりガスタービンなどのエナジー事業が好調で、防衛・宇宙事業も受注・売上共に増加するなど、増収増益に。受注高、売上収益、当期利益は過去最高となった。

  • 三菱重工業が2024年度決算説明会を開催。右が伊藤栄作社長・CEO、左は小澤壽人取締役CFO

  • 三菱重工の2024年度決算業績

2024年度における三菱重工の連結受注高は、前年同期比5.8%(3,872億円)増の7兆712億円。エナジーセグメントをはじめすべてのセグメントで増加したことが寄与した。事業別では、ガスタービン・コンバインドサイクル発電プラント(GTCC)などを手がけるGTCC事業と、製鉄機械が受注を伸ばしたという。

売上収益は、同7.9%(3,700億円)増の5兆271億7,600万円。エナジー、プラント・インフラ、航空・防衛・宇宙の3セグメントにおいて前年度実績を上回っており、特に防衛・宇宙が、航空機・飛昇体を中心に売上収益を大きく伸ばしたとのこと。

事業利益は同35.6%(1,006億円)増の3,831億9,800万円。エナジー、プラント・インフラ、航空・防衛・宇宙の3セグメントで前年度実績を上回っており、売上増・利益率改善、為替円安影響、土地売却などの好影響もあった。税引前利益は同18.8%(593億円)増の3,745億3,100万円で、純利益は同10.6%(234億円)増の2,454億4,700万円。

主だった事業を見ていくと、GTCC事業では受注高・売上収益ともに2021年度から2024年度にかけ、ほぼ右肩上がりとなっている。石炭火力からの転換や、再生エネルギーの負荷変動吸収の役割に加え、データセンターや半導体製造など電力需要自体が伸長していくことも見込まれるとのこと。

三菱重工では、米国や中東市場を中心に大型ガスタービン計25台受注しており、受注高は、過去最高だった前年度(1兆2,593億円)をさらに上回る1兆4,744億円となった。本体受注時に長期アフターサービス契約を締結するケースも多いことから、将来の売上収益を確保。ガスタービン主要部品の増産体制も構築中だという。

原子力事業をみると、国内軽水炉の再稼働や、特定重大事故等対処施設(特重施設)の設置、燃料サイクル施設の竣工に向けた対応を着実に推進し、事業規模は拡大基調にあるとのこと。加圧水型原子炉(PWR)は再稼働後の保全工事等を推進しており、沸騰水型原子炉(BWR)プラントの再稼働・特重施設設置工事についても同社工事範囲が拡大したことで、売上が増加。なお、高速炉・高温ガス炉実証炉開発の中核企業に同社が選定されており、開発・設計が今後本格化する。

防衛・宇宙事業では、防空ミサイルシステム関連をはじめとした複数の大型案件を受注したことで、受注高は過去最高となった前年度(1兆8,781億円)並みの1兆8,768億円となっている。前年度からの受注増加にともない、航空機・飛昇体、艦艇・特殊機械を中心とし、売上は前年度(6,064億円)比36%増となる8,276億円まで大幅に伸びた。

2025年度の通期連結業績の予想については、受注高は5兆9,000億円と前年同期比16.6%(1兆1,712億円)減を見込むものの、売上収益は同7.4%(3,728億円)増の5兆4,000億円、事業利益は9.6%(368億円)増の4,200億円、純利益は5.9%(145億円)増の2,600億円と、増収増益になる見通し。

なお上記の予想は、米国関税の影響を含まないことを前提としている。報道陣との質疑応答ではこの米国関税の影響に関する質問が集中。小澤壽人取締役CFOはこうした影響への対応例として、米国で生産しているフォークリフトを挙げ、「(量産品の)部品については米国外から調達する部分もあり、どのタイミングでうまく価格転嫁していけるかが課題だ」と話した。

セグメント別の業績見通しについては、エナジーの受注は引き続き堅調だが、前年度より減少を見込む。GTCC、航空エンジンと原子力は、好調な受注を受け増収と予想。プラント・インフラでは、製鉄機械を中心に過去3年間で積み上げた受注工事を確実に遂行するとしている。

物流・冷熱・ドライブシステムは増収増益と予想しており、このうち物流機器と冷熱は販売台数増、ターボチャージャは前年度に生じたサプライチェーン混乱からの回復を見込んでいる。防衛・宇宙の受注は前年度対比で減少と予想するが高い水準を維持するとしており、航空機・飛昇体を中心に売上増、民間機は出荷機数の増加により増収を見込むとのこと。

伊藤栄作社長・CEOは今回の決算説明会で、「2024年度の受注残高が10兆円を超えた。2025年度は顧客の期待に応える品質とサービスを、計画通りの納期とコストで届ける年となる。計画達成に向けて着実に政策を遂行する。また事業環境の変化に備え、変化の予兆への即応力を強化。新しい施策を推進し、持続的で大きな成長に向けた礎を築く」と述べた。

また報道陣からの質問に応えるかたちで、10兆円超という受注残高を受け、「工場や設計、調達チームも含めて実力をつけながら着実に製造できる体制をつくる必要がある」とコメント。

2022年度から2兆円ずつのペースで受注残高が伸長していることも踏まえ、「製造設備をしっかり準備して行くことがとても大切。工場でしっかりモノを作れる人を採用して教育した上で、工場を早く動かせるようにするということを進めている。設備を単に増やすだけではなく、自動化などで生産性を高めることも並行して進め、さまざまな合わせ技で大きい受注をえっとしっかりと遂行していく」と話した。

研究開発費の増額も注目ポイントで、最も伸びているのは防衛分野だが、伸長分野であるGTCCや原子力にも振り向けており、「前回の事計の3年間と比べると(研究開発費は)約7割伸びる。おそらくさらに増えていく」との見通しを示した。