日本科学未来館(東京都江東区)で、4月23日から2つの新しい常設展示「量子コンピュータ・ディスコ」と「未読の宇宙」が始まった。複雑で膨大な計算を瞬時に行うことができる量子コンピューターの仕組みを音の体験を通じて理解したり、研究者が観測・実験装置を駆使して宇宙の謎を読み解く過程を追ったりできる。2023年以来の新展示で、浅川智恵子館長は「2つとも現在進行中の科学の大トピックとなっている」と紹介した。

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    新展示「量子コンピュータ・ディスコ」のダンスフロア(左)と「未読の宇宙」の内部(東京都江東区)

3階の「量子コンピュータ・ディスコ」は、1月に終了した「インターネット物理モデル」と「未来逆算思考」を展示していた場所、230平方メートルのスペースにある。

エントランスからダンスフロアに入ると、威風堂々やパッヘルベルのカノンなど8曲を手元にある円形の溝にブロックを置いてミックスし、DJ(ディスクジョッキー)体験ができる。ブロックやブロックの組み合わせには量子計算上での意味合いがあり、「量子重ね合わせ」は複数曲を同時に流す、「位相」はヘッドホンから聞こえる音の位置を変える、「確率振幅」は音量変更といった操作につながる。

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    「量子コンピュータ・ディスコ」の外観(東京都江東区)

続いてダンスフロアの隣にあり、量子コンピューターの仕組みや開発が進む理由など4本のショートムービーが流れるギャラリーを抜けると、量子コンピューターの情報の最小単位である量子ビットや、実用化に向けた5つの方式(超伝導、半導体、中性原子、イオントラップ、光)、エラー訂正のしくみなどを、パネルや体験装置で説明している。

通常は研究機関以外では目にすることが難しい、日本製の144量子ビットのチップも国内で初めて一般に公開されている。

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    量子コンピューターの発展を紹介する展示(東京都江東区)

2025年は量子力学の誕生から100年とされ、国連教育科学文化機関(ユネスコ)は「国際量子科学技術年」と定めている。展示を総合監修した藤井啓祐大阪大学教授は「量子力学の不思議な原理を使う新しいコンピューターが使える時代になってきた。納得して理解するのは難しいが、身近に体験して知ってもらいたい」と話した。

5階の「未読の宇宙」は、「加速器で探る素粒子と宇宙」が1月まで展示されていた125平方メートルのスペースにある。エントランスには宇宙から降り注ぐ高エネルギーの粒子や大気に含まれる自然放射線の軌跡を見ることができる「霧箱」がアップデートされて登場する。

カーテンで覆われた展示スペースに入ると、様々な種類の光で宇宙を見る多波長観測を知る「LOOK」、重力波を音に変換してみる「LISTEN」、ニュートリノ観測装置の縮小模型が紹介されている「CATCH」、加速器実験を体験する「PRODUCE」の4つの装置を配置。宇宙を理解するための観測・実験のアプローチを体験できる。

各体験装置にはスマートフォン端末が設置されており、そのスマホを通じて語りかけてくる研究者とともに擬似的に観測や実験をする。実際に観測されたり実験で得られたりしたデータを元に作成した映像が頭上を取り巻く。

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    「未読の宇宙」の外観(東京都江東区)

総合監修と「LISTEN」でスマホから話しかける研究者を担当した梶田隆章東京大学卓越教授は「宇宙の謎をどのように知ろうとしているのかに触れて欲しい。さらに、訪れた子どもが将来、研究者になって『未読の宇宙』を読んでいって欲しい」と展示への期待を述べた。

新展示に合わせて、3階にある世界の研究機関などから提供された科学データを来館者が自由に閲覧できる常設展示「ジオ・スコープ」5台をリニューアルした。うち1台はデータの多寡を音の高低や大小などで表す「耳で楽しむモード」も搭載している。

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    リニューアルした「ジオ・スコープ」。ヘッドホンがある一番手前の1台で「耳で楽しむモード」を搭載している(東京都江東区)