
日本興業銀行に1972年に入行した直後、産業調査室が「国際化する日本産業」調査を発表した。
「日本産業は世界の生産工場になり成長して来た。しかし国内は資源・労働力・環境・円高等制約あり、更なる日本産業成長の為には一層の海外直接投資が必須。
73年は67億ドルだが80年には425億ドルに達する」という内容だ。
産業金融を担う興銀の国際化本格展開宣言でもあった。時代の課題に参画すべく、志願して米国ボストン在のフレッチャー政治外交大学院に留学した。
その後、合計17年間の海外勤務を通じ、国際化成功の為には様々な戦略・試行錯誤・行動が必須なことを学ぶのだが、留学時代に強く感じたのは『ビジネスであれ、芸術であれ、国際活動のまず第一歩は英会話力だ』ということだ。
50年前、世界中からの留学仲間の中で、最も英語が苦手だった国は日本、韓国、中国だった。しかし、今や中国人や韓国人の熟達ぶりは素晴らしい。多くの中国人は、国際会議で米人の如く完璧な英語で喋る。
一方で、平均的日本人の英語力はほとんど進歩していない。ひとえに日本の英語教育のお粗末さ故なのだが、ビジネスであれ、芸術関連であれ、道具としての英語の相応の修得なしでは、国際競技のスタートラインに立つことすら出来ない。
留学がもうすぐ終わる76年の春。フレッチャーの提携校で、科目履修中だったハーバード経営大学院に、盛田昭夫・ソニー社長が講演に来られた。日本が誇る超国際派の盛田さんはどんな英語を話すのか。英語力でさんざん苦労した故、英米人ではない外国人の英語力に強い関心があったのだ。
満員の大講堂で講演が始まった。開始から3分。ちょっと驚いた。物凄い英語ではない。発音は日本語調。現在完了形なんてない。ほとんど現在形じゃないか。
これが米国でも超有名なソニーCEOの英語か?!
しかし5分も経たない内にグングン引き込まれて行く。大型化する時流の逆を狙い、ポケットラジオが第1号目標商品。無事完成したがポケットに入らない!
このラジオが入る大型ポケット付きシャツが最初の販売商品だ、から始まり、ソニーの成長物語が縷々紹介される。メモなしの1時間講演の後、ハーバード全聴衆は立ち上がって満場の大拍手だった。
そうか、日本人の英語は、まず、これだ!
日本の将来は、国際舞台での一層の活躍に掛かっている。英語は必須だ。ビジネス界であれ、どこであれ、全日本人は覚悟して、まず盛田さんの英語で第一歩を踏み出すべきだ。