多くの人が身につけるスマートウォッチから、ちょっと先の未来を感じさせるスマートグラスやスマートリングまで、世の中にはさまざまなウェアラブル機器があふれている。そうした機器を支えるのが、光の量や強弱をとらえて電気信号に置き換える光センサや、人の目にさまざまな情報を届けるために使われるLEDなどの技術だ。
光半導体・照明製造メーカーのams OSRAMもまた、そうした光とセンシングソリューションを一手に引き受ける企業のひとつ。オーストリアamsとドイツOSRAMの歴史をあわせると約110年にもなるこの企業が、1月開催の「ウェアラブルEXPO」にブースを出展。さまざまなセンシング技術や、照明技術を組み込んだデモを行い、多くの業界関係者が足を止めてデモを体験したり、説明員による解説に耳を傾けたりする様子が見られた。
「光半導体・ランプ市場で主導的な位置付けにある」と自負するams OSRAM。2024年会計年度で見れば、売上の半分は車載関連のソリューションが占め、産業・医療向けと一般消費者向けが残りを半分ずつ分け合っている。ウェアラブルEXPOでは、同社の一般消費者向けソリューションにスポットライトをあてて紹介したかたちだ。
ams OSRAMが展開する、一般消費者向けの技術やデバイスとしては、モバイルデバイスのディスプレイに組み込まれる認証用光学センサや、モバイルデバイスのカメラを強化する高度なセンサ、そしてスマートウォッチに組み込まれるフィットネストラッキングのための光学素子、AR/VR機器向けのLED、microLEDや視線追跡のためのソリューションなどが挙げられる。
いずれもユーザーの体験価値を向上させるためには欠かせない技術やソリューションであり、同社は進化を続けるモバイルとウェアラブルに高い品質の光学部品やモジュールを提供することをめざしているとのこと。
ブース前面には、ユニークな見た目と仕組みでガジェット好きから注目を集め、クラウドファンディングで資金調達を成功させたスタートアップ企業・ViXionによる、オートフォーカス機能を内蔵したアイウェア「ViXion01S」が登場。
ほかにも“スポーツに特化したAI機能”をそなえ、エクササイズやサイクリング、ゴルフに至るまで、さまざまなアシストが行えるというQIDI製のARグラス「Vida」や、ユーザーの健康データを正確に取得・分析できるという日本発のコンディション管理用スマートリング「SOXAI RING」のデモも体験できた。
そうしたウェアラブル機器に組み込まれるさまざまなソリューションやデバイスの詳細については、ブース後方でams OSRAMの説明員らが紹介していた。
まずは、3DセンサをベースとしたToF(Time of Flight)方式の反射型レーザセンサだ。ToFは光の飛行時間から対象までの距離を割り出す手法のことで、昨今ではスマホカメラの表現力を高めるデバイスとしても認知が広がっている。被写界深度表現、いわゆる“ボケ味”をスマホ写真に付加するために、ToFセンサによる奥行き情報を活用するわけだ。
ToFセンサを使ってやっているのは、シーン内の点までの光路長を直接測定すること。ams OSRAMが展開する「TMF882x 統合型ダイレクトToF(dToF)モジュール」は、5m以上にわたり最大8x8ゾーンのコンパクトな測距を超低消費電力で実現できることを強みとしている。同センサのデモでは、3Dシーンの再構築がどのように行われるかを、ヒストグラムと分かりやすい動的なグラフィックを用いて見せていた。
ARグラスなどで使われる、視線追跡(アイトラッキング)向けのデモも行われていた。「Mira 016 CMOSイメージセンサ」と超小型レンズを組み合わせ、近赤外線のみでユーザーの視線追跡を実現するというもので、同センサにはグローバルシャッターも装備し、瞳レベルの小さな対象物でも歪みなく認識できていることをアピールしていた。
センサーの解像度は0.16MPで、先端のBSI(Back Side Illumination:裏面照射)技術によって極小2.79umのピクセルサイズながら高感度も実現。光の影に入ってしまうようなデモ機の配置であっても、このイメージセンサはお札の表面に描かれているような細かい紋様まで正確に捉えていて驚かされる。想定用途としては、2D/3Dの一般消費者向けアプリケーションのほか、産業用マシンビジョンアプリケーション向けとしても設計されているそうだ。
同ブースではこのほかにも、ARグラス内部に情報を表示するためのARマイクロディスプレイや、レーザービームスキャニング向けの小型化された高性能光源である「Vegalas 統合型RGBレーザーモジュール」や、小型LED光源「KRTTB CRLM1.33」のデモを実施。こうした性能を高めたレーザービームスキャニングライトエンジンを、わずか1.2cc(10.6×7.5×14.96mm)という極小サイズのデバイスで実現できる点も強みだとアピールしていた。
少し変わり種のデバイスとしては、「OSLON P1616 ピーナッツレンズ赤外線LED」のデモ展示も。その名のとおりピーナッツ型にくびれた(あるいはふたつのコブをつないだような)レンズを備えており、これで赤外線を長方形(短形放射パターン)として照射できるようにしていて、視線検知用にも最適だとうたっている。配光角のバリエーションも狭くしたり広くしたりと選べるようになっていて、使い勝手を高めたかたちだ。目立ちにくい小型薄型パッケージと、低消費電力も実現しており、今後さらなる小型化も検討しているとのこと。