3月18日・19日の2日間にわたって、東京国際フォーラムを中心とした丸の内・有楽町エリアを舞台に、「第9回 サステナブル・ブランド国際会議2025 東京・丸の内」(SB'25)が開催された。「Breakthrough in REGENERATION」をテーマに掲げた今回のイベントでは、AI・国際支援・ビジネス・平和などさまざまな角度から、サステナビリティの最先端を見つめる講演が行われると共に、各企業の取り組みを紹介するブースも展開。国内外から多くのステークホルダーが集結し、枠組みを超えた交流からイノベーションのきっかけが生み出された。

  • 「第9回 サステナブル・ブランド国際会議2025 東京・丸の内」

    3月18日・19日に「第9回 サステナブル・ブランド国際会議2025 東京・丸の内」が開催された(出所:博展プレスリリース)

“サステナビリティ”を共通点にさまざまな有識者が登壇

“サステナビリティ”という言葉を一度たりとも聞いた事が無い、というビジネスパーソンは、もはやほとんどいないのではないだろうか。グローバル化が進む昨今、地球温暖化をはじめとする環境問題や地域間の分断・格差などのさまざまな社会課題は、今や地球規模で解決に向けて取り組んでいく必要がある。言い換えれば、“誰もが当事者”となって、グローバル化する社会課題に対して、ローカルレベルでの継続的な取り組みに革新を加えながら、持続可能な社会を支えていく必要がある。

今回で国内9回目の開催となったSB'25は、国内外の企業や団体、自治体などが行うサステナビリティに関する最新の取り組みや潮流を集結させ、さまざまな業界の第一線で活躍するイノベーターたちのネットワーキングの場となることを目指し、世界9カ国・10都市にて展開されているコミュニティカンファレンスだ。今回2日間の開催期間中には数々のセッションが展開され、食やバイオテクノロジーなど多様な角度からサステナビリティの現状を見つめる機会となった。

筆者が取材した19日は、朝から大粒の雪が降る悪天候。しかしそれでも、午前中に開始されるプレナリーセッションには多くの人が足を運び、各界からサステナビリティに取り組む先駆者たちの言葉に耳を傾けた。

ESG、国際格差、企業活動。考えるべきものは無数にある

同セッションの口火を切ったのは、九州大学発スタートアップのaiESGでCEOを務める関大吉氏。世界中に散乱するデータをもとに、製品やサービス単位でのESG評価を可能にし、さらに改善までもサポートするAIクラウドサービス「aiESG Flow」を提供する同社が目指す、“しわ寄せのない世界”について、熱い想いが語られた。

  • aiESGの関大吉CEO

    aiESGの関大吉CEO

そして、続いて登場した一橋大学の米倉誠一郎名誉教授は、NPO法人のCLOUDYで代表理事を務める銅冶勇人氏と共に登壇し、“国際支援”にフォーカスした講演を展開した。主にアフリカへの支援を行うCLOUDYでは、ただ支援を行って完結する取り組みではなく、現地に根付き、そして自走しながら発展する仕組みづくりとしての支援に注力。アフリカで7校の学校を建設した実績をもとに、“非営利”と“営利”の両輪でこそ生み出せるサステナブルな循環型ビジネスを目指しているとする。

  • 一橋大学の米倉誠一郎名誉教授

    一橋大学の米倉誠一郎名誉教授

  • CLOUDYの銅冶勇人代表理事

    CLOUDYの銅冶勇人代表理事

海外からは、Future-Fit Foundationの共同創設者であるマーティン・リッチ氏が登壇し、“再生型ビジネス”をテーマとしたプレゼンテーションを展開。国内からも、長年にわたって製品を提供するヤマハ発動機が考えるサステナビリティについて、同社執行役員の青田元CSOが講演を行った。また、昨今根付きつつあるGX(グリーントランスフォーメーション)の実現に向けた各企業の取り組みや、被爆から80年が経過した今こそ考える“平和”など、さまざまなテーマを考えるパネルディスカッションが行われた。平和について考えるパネルディスカッションでは、自ら戦争孤児として幼い時期を過ごしたサヘル・ローズさんも登壇し、争いを生まないことの大切さを説いた。

  • サヘル・ローズさん

    戦争孤児としての経験を語ったサヘル・ローズさん

Hondaが提案する「燃料電池×電気」のハイブリッドカー

またSB'25では、同イベントに参画するスポンサー企業が取り組みを紹介するブースや、サステナブル・ブランド ジャパンが運営するZ世代コミュニティプラットフォーム「nest」のメンバーたちが取り組んだ成果を紹介するブースなどが立ち並ぶ「Activation Hub」も展開され、各企業と参加者たちによる交流の輪が広がっていた。

特に目立っていたブースの1つが、本田技研工業(Honda)。カーボンニュートラル社会の実現に向けてアップデートを続けるHondaの“水素エネルギー技術”をテーマとした同社ブースでは、2024年7月に発売された乗用車「CR-V e:FCEV」が展示された。FCEVとは、外部からの充電が可能なプラグイン機能を持つ燃料電池自動車のこと。クリーンエネルギーとして期待されるものの、まだ水素ステーションが少なく燃料補給への懸念が払拭できないなか、外部充電を可能にし“水素と電気のハイブリッドカー”として使い勝手を向上させたことから、市場からも高い評価を得ているという。

  • Hondaの乗用車「CR-V e:FCEV」

    Hondaが展示した乗用車「CR-V e:FCEV」

同製品に搭載されている燃料電池スタックは、Hondaとゼネラルモーターズ(GM)で共同開発したもので、従来システムに対してコストを3分の1に削減、耐久性も2倍に向上しているという。またこの燃料電池技術を幅広いアプリケーションで活用することも目指しているといい、乗用車に限らず、商用車や建機、あるいは定置用電源としての利用も視野に入れ、国内外での実証実験を進めている最中だとする。

そして今回のブースでは、Hondaが独自で開発した次世代燃料電池モジュールのモックアップも展示。国内拠点での生産を目指すという同モジュールは、従来のものに比べて軽量かつ小型となっており、耐久性も向上させているという。またブース内では、このモジュールを用いた3MWの定置電源としての活用イメージも紹介され、近年増加するデータセンタの非常用電源などさまざまなユースケースへの適用に向け、水素の供給方法や運用方法などについても他企業との連携も含め検討し、社会実装に向けて取り組みを進めていくとしている。

  • Hondaの次世代燃料電池モジュール

    Hondaが独自開発した次世代燃料電池モジュール(モックアップ)

  • 燃料電池モジュールを活用した定置電源

    燃料電池モジュールを活用した定置電源の模型

CO2固定技術を持つ日本特殊陶業の取り組みとは?

また小さなブースながら興味深い展示を行っていたのが、日本特殊陶業だ。同社ブースに並んでいたのは、色とりどりの「CO2吸収タイル」。通常では固めるために焼成を行うタイルだが、CO2を加えることで固まる性質を持つ材料を用いているため、CO2を固定できるという。なお今回展示されたタイルはすべて、専用の装置を用いつつ同社メンバーが手作業で固めたとのこと。そのため量産を見据えた製品ではなく、ユースケースの1つとして紹介しているとする。

  • CO<sub>2</sub>吸収タイル

    日本特殊陶業が展示したCO2吸収タイル

日本特殊陶業が今回のブースにおける主題として紹介したのは、「地域CCU(CO2回収・利用)」への取り組みだ。工場などで用いられるボイラの排ガスからCO2を高濃度で回収するCO2回収装置を開発している同社は、社会で排出されるCO2を“資源”として捉え、運搬しやすい液化CO2の形にして、必要とされる場所で再活用することで環境負荷を減らすことを目指す「地元CO2」の取り組みを進めている。これまでには、ごま油製造工場から排出されたCO2を回収し、愛知県蒲郡市の温室みかん栽培にて活用する実証実験も実施しており、2025年度には液化CO2の販売にもつなげていきたいとのこと。またCO2の回収から利用までを同地域で行うことが望ましいため、自治体などとも協力しながら社会への定着を目指していきたいとしている。