日本総合研究所会長・寺島実郎「米国は今こそ、同盟国としての日本を必要としている局面」

BRICSの反米同盟化を 避けるための日本の役割

 ─ 2月7日には石破茂首相が訪米し、日米首脳会談を行いました。寺島さんはこの日米首脳会談の成果をどのように見ていますか。

 寺島 われわれがしっかり見ておかなければならないことは、今回の日米首脳会談で、なぜ、予想外に米トランプ大統領が石破首相に配慮し、日本に配慮するスタンスをとったのかということです。

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 日本のメディアではとかく、お互いをファーストネームで呼び合う、個人的な信頼関係を構築できるかがカギだ、などという解説が多々ありましたが、大事なことはそのような次元の話ではありません。

 日本国のレゾンデートル(存在意義)をかけて、ユーラシア大陸のダイナミズムの中で、日米関係はどうあるべきかという信念を持って米国に向き合うこと。それこそが、日本に求められている「トランプ2.0(第二次トランプ政権)」との向き合い方だと思います。

 ─ 日本の対米戦略、スタンスが問われていると。

 寺島 そうです。なぜなら、米国にとっては、今こそ、同盟国としての日本を必要としている局面だからです。

 もしも日本の同盟責任というのがあるとすると、例えば、米国の同盟国における欧州の軸は英国です。アングロサクソン同盟の「特別な関係」で、英国は必死になって大陸側の欧州の国々と米国を離反させないための役割を果たしている。

 そう考えた時に、アジアにおける同盟国の軸が日本だとするならば、日本も東アジアのみならず、東南アジアも含めたアジアの米国に対する信頼や、同時に同盟国・日本に対する信頼も込めて、どういう役割を果たすことが重要かということを深く考えなければなりません。

 何かにつけて、政府は枕詞のように〝自由で開かれたインド太平洋〟という言葉で説明しますが、これはある意味隠語のようなもので、いかに中国を封じ込める連携をつくるかという意味です。わたしが言いたいのは、その次元を超えていかなくてはいけない、ということです。

 ─ 逆に考えると、今はアジアの米国に対する信頼が揺らいでいるということですか。

 寺島 わたしが懸念していることの一つは、ASEAN(東南アジア諸国連合)の米国離れです。

 シンガポールのシンクタンク・ISEAS(アイシアス)が毎年興味深い調査をしているのですが、ここで、ASEANの有識者に対して、もしも中国・米国のどちらか一方に与しなくてはならない状況になった場合にどちらを選ぶのか、という質問を投げかけています。

 すると、2023年には中国が38.9%、米国が61.1%で、少なくとも、米国についていこうという意見がマジョリティー(多数派)でした。ところが、2024年には中国が50.5%、米国が49.5%と、ついに逆転してしまったのです。

 ─ なるほど。これは興味深い指標ですね。

 寺島 よく見てもらいたいのは、これからの日本にとって重要なのは「ASEAN5」と呼ばれるインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイなどの国々です。

 これらの国々と日本がどういうスタンスで国際関係をつくりあげるかが重要なのですが、なぜ、こんなにもマレーシアやインドネシア、タイが米国離れを起こしているのか。それは要するに、ガザの問題に象徴されるように、米国の対イスラエル政策に対するある種の反発の表れです。

 今年1月、インドネシアがBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)に正式加盟し、タイやマレーシアもパートナー国に名を連ね、正式加盟を申請しています。

 BRICSはもともとロシアや中国などの新興国で構成されているのですが、日本にとって大事なことは、BRICSの反米同盟化を避け、その文脈から、東南アジアの国々を米国と正面から向き合うような関係に持っていく時に、日本が果たさなければならない役割は非常に大きいということなのです。

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