
国内での紙需要の縮小や脱炭素対応など製紙業界が大きく変化する中、日本製紙が社長交代を発表。常務執行役員の瀬邊明氏(59)が現社長の野沢徹氏(65)からバトンを受け次ぐ。
「バイオマス素材事業やパッケージ事業など各事業を、森林資源を起点として川上から川下まで連なる循環型の事業チェーンとして捉えることで、安定して利益を上げられる企業を目指したい」と瀬邊氏は語る。
日本製紙を含めた製紙会社には〝林材畑〟という独特な部門がある。紙の原料となる木材調達・社有林の管理運営をする部門だ。瀬邊氏は1988年に岩手大学農学部卒業後、十條製紙(現日本製紙)入社。林材部長・原材料本部長として森林経営や木質原料・木材チップなどの原材料調達の現場に長く携わってきた。野沢氏は財務畑だったが、会長の馬城文雄氏(71)も原材料本部長を歴任している。
野沢氏は2019年から約6年間の社長在任期間中、22年度に原燃料価格高騰で上場以来初の営業赤字に陥った際、価格転嫁やコスト削減で立て直しを図った。また、成長エンジンと位置付けてきた紙パックや段ボール、家庭紙などの生活関連事業の売上高を18年度比で2.2倍(23年度)に伸ばした。26年度からの新たな中期経営計画の策定のタイミングでの交代だ。
瀬邊氏は野沢氏と同様に企画本部長も歴任。グループの事業全体を管轄する立場に立った。自らを「周りの人の意見を聞きながら自分なりの最適解を見つけるやり方が多い」と分析するように、「敵を作らないキャラクターで調整タイプ」(関係者)という声も。一方で、海外での木材チップ調達業務を通じて「決断すべきは決断する」という姿勢に野沢氏も安心感を抱いた。
瀬邊氏にとって目下の課題は豪州事業のテコ入れだ。人員削減や印刷・情報用紙事業からの撤退、段ボールの生産性向上で収益の改善を図る必要がある。また、木質由来のSAF(持続可能な航空燃料)用バイオエタノールなどの開発や生活関連事業の更なる拡大などもある。
瀬邊氏は第1次産業である林業の復活にも力を入れる。「国内の林業関係者や木材チップ工場、製材工場との強いパートナーシップの重要性を実感した」という自らの経験があるからだ。
売上高、時価総額などの経営指標で王子ホールディングスの後塵を拝する中、「バランス型を生かしながらトップダウンでの決断も組み合わせたハイブリッド型を目指したい」という瀬邊氏の腕が試される。