【どうなる? M&A】牧野フライス買収へ、ニデックが自らの正当性を訴え

敵対的買収ではないことを強調

「”事前協議なきTOB(株式公開買い付け)”と報道されているが、そこに焦点があたることに非常に違和感を持っている。海外では珍しいことではなく、M&A(合併・買収)の手法としては極めてフェアなプロセスを担保するものだと考えている」

 こう語るのは、ニデック専務執行役員の荒木隆光氏。

スピードを求めるホンダ、面子を守る日産 世界3位のメーカーを目指した経営統合の破談劇

 昨年12月から、工作機械メーカー・牧野フライス製作所へ買収提案をしているニデック。成立すれば約2500億円を投じる巨額買収に対して、ニデック経営陣が改めて買収提案の正当性を主張。敵対的買収ではないことを強調した。

 1973年の創業以来、”世界一の総合モーターメーカー”へと成長してきたニデック。けん引役となったのは、創業者・永守重信氏(現グローバルグループ代表)の強いリーダーシップと、これまで培ってきた”軽薄短小”を武器にした技術力、そして、巧みなM&A戦略にある。

 これまで同社が行ったM&Aは実に74件。”回るもの”や”動くもの”など、モーター関連の買収がほとんどだが、近年は三菱重工工作機械(現ニデックマシンツール)やOKK(現ニデックオーケーケー)など、工作機械関連を相次ぎ買収。赤字続きだった両社を短期間で業績回復させたことから、ニデックは工作機械事業を、EV(電気自動車)向けの車載用モーターに次ぐ、新たな成長事業に育てようとしている。

 2024年3月期の牧野フライスの売上高は2253億円。ニデックの工作機械関連事業は1182億円で、今回のTOBが成立すれば合計3435億円となり、首位のDMG森精機(23年12月期は5394億円)に次ぐ2位となる。

 牧野フライスは1月22日に、「事前の交渉はもちろん、事前の打診もなく突如としてその開始の予告がなされた」と主張。ニデックがTOBの開始を予定している4月4日は「2025年3月期末を跨ぎ、一年で最も忙しい時期であって本提案の分析・検討のためのリソースが十分ではない」として、TOBの買い付け開始日を5月9日以降に延期してほしいとの要望書を公開していた。

 

「なぜ、前例がないことをやってはいけないのか?」

 2023年8月に経済産業省は『企業買収における行動指針』を策定。企業には「真摯な買収提案」に対して「真摯な検討」をすることを求めた。取締役会として買収提案に賛同しない場合には、株主に対して代案となる企業価値向上策を合理的に説明することが必要になった。

 ニデックの荒木氏は「買収提案があったことを公開することで、株主を中心としたステークホルダーに透明性を確保することができる。透明性の確保で株主の機会損失を防ぐことになるし、早い段階でステークホルダーの反応が見える。結論が決まった後に説明されるよりも、早く情報が共有されることで適切な判断ができる」と主張する。

 通常、TOBの開始時に初めて買収条件が公表される場合、株主に与えられる検討期間はおおむね30営業日のTOB期間のみ。それに対して、昨年末の買収提案時点から十分な期間を提供しているとして、荒木氏は「事前交渉なしの買収提案に対して、海外ではそういう質問を受けたことがない。なぜ、日本で前例がないことをやってはいけないのか?」と訴えた。

 交渉が成立するにせよ、破談になるにせよ、事前の根回しがあり、水面下で交渉を行いながら、徐々に双方の妥協点を見出していくのが、これまでの日本の慣例だった。それは企業と企業の関係だけでなく、個人と個人の関係でも同じことかもしれない。

 ニデックは、予定している1株1万1000円の取得価格を引き上げる考えはないとし、仮に他社からホワイトナイト(友好的買収者)などによる対抗案で同価格を上回る価格が提示された場合は撤退する考えだ。

 3月4日には、牧野フライスがニデック経営陣と合計9名による面談を行ったと発表。両社の直接対話を経て、今回の買収計画はどんな結論が出るのか。ニデックが計画する4月4日のTOB開始予定日へ向け、残された時間は少ない。

日鉄・USスチール買収問題の教訓、米政府を相手取り訴訟提起