マネックスグループ社長CEO・清明祐子「金融を切り口に世界中の人々のよりよい生活、 豊かな生活をサポートする存在でありたい」

「心配ばかりするのではなく、様々な動きがあることをチャンスと捉えてリスクを取ることを考えるのが重要」と話す清明氏。トランプ関税ショックで相場が不安定になる中だが、「短期的に動揺するのではなく、今は長期的視点が大切ではないか」と冷静。新NISA開始から1年以上が経ち、徐々に投資が浸透する中、提携するNTTドコモとどんな手を打ち出すのか。

米国の政治の動きをどう見ているか?

 ─ トランプ政権の高関税策の発動を受けて、世界の株式市場が乱高下するなど波乱の展開ですが、現状をどう見ますか。

 清明 確かに今は、世界中が寝ても覚めてもトランプ大統領が何を言っているのかを気にしている状況です。直近も関税を受けて混乱しました。

 ただ、「予測できない時代」と言われますが、それは以前から同じでした。そして私自身は、トランプ政権に対してそこまで否定的な見方をしていません。

 もちろん、打ち出し方や話し方に問題があり、敵もつくりますから、米国が大変な状況にあるのは間違いないことですが、第1期政権に比べて、第2期になってから政権としてはまとまっているように見えます。

 何か、物事が変わる時には、穏やかに変わるか、激しく変わるかのどちらかしかありません。時間を考えると、何か極端に振り切った方が、現在地点を客観的に見ることができるのかもしれないと思うんです。

 ─ ある程度、各方面に波乱が起きることは想定済みではないかと。

 清明 ええ。例えば戦争なども、誰もが起こしたくて起こしたものではないと思いますが、様々な歴史の経緯の中で起きてしまった戦争を終わらせることは、始めるよりも難しいことだと思います。

 その際、表面的にいいことだけを言って終わらせることができるわけはないと思います。ゴールを目指すために、短期的な痛みは仕方がないという覚悟で取り組んでいるのではないかと。

 第1期政権では、どんどんチームが崩れていきましたが、第2期では側近の方々が、全体的には今のところチームワークよく、目的のために歩いているように見えます。

 発言がショッキングだったり、二転三転することもありますが、ゴールがブレているのではなく、目的を果たすためには、短期的な揺らぎは仕方がないと思っているのではないかと感じます。

 その意味で、大きな目的に向けてスピード感もすごいですね。多くの経営者が、今は動きづらいとおっしゃっていますが、どこかで固まって、また米国は成長に向けて動くのではないかと見ています。

長期で見ると株価は上昇している

 ─ 基本的には、アメリカの経済は強いですね。

 清明 そう思います。そしてトランプ大統領は元々、ビジネスフレンドリーですし、規制緩和や減税も含め、「アメリカ・ファースト」で米国にビジネスを持ってこようという姿勢を明確にしています。

 その意味で短期的に動揺するのではなく、今は長期的視点が大切ではないかと思います。投資も同じで、短期的に振られてしまうと、大きな流れの中で自分の位置を見失ってしまいます。

 トランプ大統領の政策を見ていると、もしかすると私利の部分もあるのかもしれませんが、世界全体によい変化を起こすように動かしているのではないかと思います。

 ─ 株価の乱高下には、どんな姿勢で臨みますか。

 清明 日米の株価も本当に大変な動きがありました。ただ、これまでも一本調子で上がる相場はありませんでした。

 振れ幅が大きい、小さいはあるかもしれませんが、一時のショックがありながらも、何度も調整を繰り返しながら、長期で見た時にどういうチャートになっているかが大事だと思うんです。

 私がマネックスグループに入社したのは2009年2月と、リーマンショックの直後で、当時の日経平均は8000円台でした。その後、東日本大震災、コロナ禍などもあり上下動を繰り返しながらも、長期で見ると上昇しています。

 日本はようやく金利が出てきています。物価高を懸念する声もありますが、デフレよりはインフレの方がいいのではないかと。

 まさに今、変わることができるタイミングですから、心配ばかりしているよりも、様々な動きがあることをチャンスと捉えてリスクを取ることを考えるのが重要です。

1人ひとりの行動、生活に合ったサービスを

 ─ 24年にマネックス証券はNTTドコモと提携しましたが、改めて当初の狙いを聞かせて下さい。

 清明 新NISAが始まったのが24年1月ですが、それと同じタイミングで始まったのがNTTドコモとの提携です。新NISAの開始、金利が戻るなど、いろいろな環境が整って、ようやく個人の方々も預貯金だけでなく投資を必要とする世界になってきています。

 特に学生も含めて、若い世代が投資の話をし出しています。昔はお金の話をすることはタブー視されていましたが、今やワイドショーで新NISAが取り上げられており、隔世の感があります。

 そのくらい、資産運用、資産形成が一般の方々に浸透しているわけですが、そのタイミングで我々も流れに乗りたいと考えてきました。ただ、我々はプラットフォーマーではなく、いいものをつくっても届ける力が弱いという課題を感じていました。

 しかし、マネックス証券は創業時から「投資の民主化」を掲げ、誰もが資産形成で、より豊かな人生を過ごすことができるよう、様々な商品を出してきました。

 そこにNTTドコモのような人々の生活に根差したプラットフォーマーと組ませていただくことで、今後資産形成をしなければならない層に、よりわかりやすく、安心して投資ができるようなご案内ができるのではないかと考えて提携しました。

 ─ その後、提携ではどう取り組んできましたか。

 清明 提携後は、NTTドコモの商品とマネックス証券の商品を掛け合わせたコラボ商品を出してきました。

 例えば24年7月には「dカード積み立て」といって、クレジットカードで投資信託の積み立てができる商品を出し、9月にNTTドコモの「dアカウント」とマネックス証券のアカウントが連携できるサービスをつくり、「dポイント」で投資ができるようにしました。

 さらに11月、全ての「dカード」の券種で投信積み立てできるようにしました。

 このように、考えていた商品・サービスを予定通りに出した1年でした。サービスラインナップは全て出揃ったわけではありませんが、ある程度お客様に届けられるコラボ商品をつくりましたから、24年末からプロモーションを強化しています。

 認知度も上がってきており、25年は新たなコラボサービスの提供も予定しています。NTTドコモの力もお借りして、より幅広いお客様に届けていく1年にしたいと考えています。

 ─ 手応えを感じているわけですね。

 清明 ええ。新NISAの口座は約2500万口座ですから、まだまだ投資をしたことがないという人は大勢いらっしゃいます。

 ですから今、NTTドコモと「d払いアプリ」という決済アプリに、我々の商品を組み込むための開発を進めています。いわゆる「エンベデッド・ファイナンス」(組み込み型金融サービス)です。

 NTTドコモの「d払いアプリ」を見ながら、ストレスなく投資ができるサービスですが、これが開発できると、消費と投資、生活と投資がどんどん密接になっていきます。

 こうなると、これまでは証券が、わざわざ何かをしなければならないものだったのが、「生活の横」にあるものになり、世界観が少しずつ変わっていくのではないかと期待しています。

 ─ NTTドコモが持つ、1億にも上る顧客アカウントは大変な武器になると。

 清明 そう思っています。先程お話したdアカウントとの連携で、お客様に寄り添うカスタマイズマーケティングの提供も可能になると考えています。

 我々の証券口座では、お客様が入れている資金を、何に投資しているかはわかりますが、それ以上のことはわかりません。しかし、NTTドコモは通信、決済を手掛けているため、人々の嗜好や行動がある程度わかっておられます。

 ふんわりとですが、NTTドコモのお客様がどういう層で、ご家族、年齢、どういうものをお好みなのかということがわかるようになってきました。

 こうしたデジタルマーケティングがマネックス証券はできていませんでしたが、今後はお客様1人ひとりの行動、生活に合わせたサービスの提供ができるのではないかと考えています。

 ─ 新NISAの開始で長年の課題だった「貯蓄から投資へ」が進んだように感じます。

 清明 そうですね。23年と比較しても状況は代わりました。新NISAで投資を始めた方は長期で投資を考える方が多いのですが、24年8月5日の相場の急落で、株式を取引していた方は大慌てをしたケースもありました。

 でも、新NISAの、特に積み立てをしている方々はほとんど動きませんでしたね。その後、株価が戻りましたから、結果としてよかった。成功体験は本当に大きいと思います。

10年後、どういう会社を目指しているのか?

 ─ 清明さん1人がCEOという体制から1年半ですね。4月からは代表執行役も1人という体制になりましたが、心境の変化はありますか。

 清明 まずCEOについては、発表が23年1月で、その半年後に就任していますが、それ以前もCOO(最高執行責任者)でしたから、自分の周りが大きく変わったということはありません。

 元々、覚悟を決めて引き受けていますから、思っていたのと違ったということは1つもありませんでした。

 ビジネスは思うようにいきませんし、いろいろなところで問題は起きます。それを「想定していなかった」と言っていると経営はできません。

 そして経営にゴールはありませんし、一番いいCEOとは何ですかという問いに答えは出てきませんから、現在進行形で自分なりにアップデートしていくしかありません。

 ─ 確かに経営に終わりはありませんから、常に先を見据えて考える必要がありますね。

 清明 終わりはないですね。もし、「できることがなくなった」と思った時には、CEOをやっていては駄目でしょうね。最終的にはサクセッション(継承)をどうするかが大きいと思います。

 長期を見据えて、候補を選んでいくことも、CEOの重要な仕事です。ポジションを握らずに、次にちゃんと渡していくことが組織のためだと思います。

 ─ 10年後、マネックス証券、マネックスグループをどんな会社にしたいと考えますか。

 清明 マネックス証券で言えば、今証券業界はSBI証券、楽天証券の2強ですが、そこにマネックス証券が入って、でき得るならば、もう一度トップに立ちたいと思っています。

 マネックスグループは、証券ビジネスをグローバルに手掛けていると同時に、暗号資産、アセットマネジメントを強化していますから、グローバルにテクノロジーを活用しながら、金融を切り口に世界中の人々のよりよい生活、豊かな生活をサポートする唯一無二の存在になりたいと考えています。

 ─ 社内に対して、どういうメッセージを伝えていますか。

 清明 マネックスグループの大きな特徴の1つは「ユニークネス」です。

 松本(大・取締役会議長)というアイデア豊富なアントレプレナーが創業したこともあり、過去がどうだったかではなく、今、お客様に提供すべきことに挑戦して、様々なものを生み出してきた会社です。それを引き出すこと、そのために誰もが意見を言える環境をつくることが私の仕事だと思っています。

 松本からは今、彼が持つユニークネス、様々なアイデアで力を借りている状況です。松本は日々の業務や意思決定に関わっていませんが、それができる(権限をわたし切れる)創業者は少ないと思いますし、ありがたいと感じています。