国立天文台と北海学園大学の両者は3月10日、アルマ望遠鏡を用いて129億光年彼方の「クェーサー」を観測し、その中心に位置する超大質量ブラックホール近傍の熱いガスからの一酸化炭素分子の電波を、これまでになく高い解像度で捉えることに成功したと共同で発表した。

  • アルマ望遠鏡の観測結果に基づくSMBHのイメージ

    アルマ望遠鏡の観測結果に基づくSMBHのイメージ。中心にあるSMBH付近から放たれるX線によって、周囲のガスが熱されている様子が描写されている。このガスの円盤を横から観測すると、可視光線やX線では暗くなり、SMBHは隠されてしまう。(c) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. Tadaki et al.(出所:アルマ望遠鏡日本語Webサイト)

同成果は、北海学園大学の但木謙一教授、オーストラリア国立大学 天文学・天体物理学科の津久井崇史博士研究員、静岡大学学術院グローバル共創科学領域 グローバル共創科学部 グローバル共創科学科/大学院 総合科学技術研究科 理学専攻の斉藤俊貴准教授、国立天文台 TMTプロジェクト/総合研究大学院大学 先端学術院 天文学科コースの伊王野大介准教授、周南公立大学 人間コミュニケーション学科 福祉情報学部の道山知成助教らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。

銀河中心に位置する超大質量ブラックホールが活発に活動している天体は、「活動銀河核」と呼ばれる。その中でも、明るく輝く天体はクェーサーといい、中心の超大質量ブラックホールに大量のガスやダスト(塵)が落ち込むことで強烈なエネルギーを放射する。その結果、自身が属する母銀河のすべての恒星を足し合わせたよりも明るく輝く。しかし、遠方に位置していることなどもあり、その中心付近の様子を詳しく知ることは困難だった。

研究チームは今回そのような背景の下、高いエネルギー状態にある一酸化炭素分子からの電波放射に着目し、アルマ望遠鏡を用いて、赤方偏移z=6、約129億年前の初期宇宙に存在するクェーサーを観測。その中心に位置する太陽の10億倍を上回る巨大な超大質量ブラックホールの近傍を詳しく調べたという。

観測の結果、超大質量ブラックホールの近傍数百光年という領域におけるガスの加熱状態が初めて明らかにされた。高いエネルギー状態にある一酸化炭素分子の放射が強く検出されるということは、ガスが相当な高温状態にあることがわかる。星が誕生する領域では、紫外線によって星間ガスが照らし出されることがしばしば観測される。しかし、今回観測されたガスの状態は、若い星が放つ紫外線だけでは説明できないという。

そこで注目されたのが、超大質量ブラックホール近傍から放たれるX線だ。超大質量ブラックホールを取り巻く降着円盤や、その上層の領域であるコロナから放射される強烈なX線がガスを加熱し、通常の星形成領域では得られないほどの高いエネルギー状態に押し上げていることが考えられるとした。また、クェーサーが放出する激しい風や衝撃波もガスを加熱している可能性があり、これまでも推測はされていたものの、クェーサーの中心部は複数のメカニズムが入り混じる激しい環境であることが改めて浮き彫りになった。

今回のようにクェーサーが地球の視線方向に偶然ガスやダストの薄い側を向けている場合には、明るく観測することが可能だ。しかし、仮にダストが非常に濃い方角を地球に向けていたとすれば、可視光線やX線はダストに吸収されて地球には届かず、「隠された超大質量ブラックホール」になっている可能性もある。つまり、人類が観測できていないだけで、宇宙にはダストに埋もれた超大質量ブラックホールがいくつも潜んでいるかもしれないということだ。

アルマ望遠鏡で観測しているミリ波やサブミリ波といった電波は、可視光やX線に比べて波長が長く、宇宙空間に漂うダストによる吸収を受けにくいため、隠された超大質量ブラックホールの存在を探るための強力な手段となる。研究チームは今後、同様の高いエネルギー状態にある一酸化炭素分子の放射を用いた高解像度観測を広範に行うことで、宇宙初期における超大質量ブラックホールの普遍的な存在実態に迫れる可能性があるとしている。