東芝と東芝情報システムは2月26日、半導体製造の前工程における300mmウェハ上の微小な欠陥に対し、1枚の撮像画像から3D形状に瞬時に可視化する新たなワンショット光学検査技術を開発したことを発表した。

半導体は世界的なデジタル化の進展に伴い、その需要が増加、それに対応する生産能力の拡大と並行して「生産効率の向上」、「製品品質の向上」、「持続可能性の向上」という社会課題への対応が求められるようになっている。歩留まりの向上は、まさにそうした課題の解決に必要となってくるものだが、その実現のためには不良を判断する技術が必要となってくる。しかし、従来用いられてきた半導体ウェハ表面の欠陥を調べる光切断法では、ラインレーザーを被検物にあててスキャンするが、線幅が100μmほどで、ナノオーダーの欠陥は線幅よりも小さいため撮像ができず、さらにレーザーでスキャンするために時間も必要という課題があった。

また、カンチレバーを用いる原子間力顕微鏡(AFM)を活用すればナノオーダーで欠陥を図ることができるが、ウェハ全面検査をしようとすれば、あまりにも時間がかかるため現実的な解にはなりづらいという課題があった。 このほか、白色干渉計と呼ばれる重ねた光の干渉を活用して感度の高い検査を行う技術もあるが、スキャンの方向やウェハの環境設定として反射点が高いため、その光の反射がノイズとなってしまうほか、顕微鏡の拡大画像を活用するため、スキャンに時間がかかり、多数の画像を取得する必要もあったという。

今回、研究グループでは、こうしたそれぞれ現状の手法の課題を克服することを目的に、広範囲をワンショットの画像を撮影するだけで、被検物に光が当たったときの光の角度分布(BRDF:Bidirectional Reflectance Distribution Function)として取得する「ワンショットBRDF」をベースに、半導体ウェハのようなナノスケールの微小欠陥を高精度かつ高速に3Dで検出することに挑んだという。

  • ワンショットBRDFの概要ら

    ワンショットBRDFの概要 (資料提供:東芝/東芝情報システム、以下のすべてのスライド同様)

具体的には、これまでのワンショットBRDFでも、欠陥を鮮明化し、欠陥の有無の判別が可能であったが、3D形状として計測できていなかった点を踏まえ、3D形状の取得に向けて、イメージセンサのカラーフィルターを従来の同心円状からマルチカラーのストライプ状に変更し、対象物表面の3D形状を数十ミリ角の視野で1枚撮像し、その画像から高低差がナノスケールの極微小欠陥を検出する光学検査技術へと進化。マルチカラーのストライプ状カラーフィルターにより、検査対象からの反射光の方向分布を色の分布画像として取得。ストライプ状カラーフィルターによりBRDFで反射光の角度と色の種類が直接対応できる関係となり、反射光の角度分布をより高精度に得られるようになったという。

  • 従来のワンショットBRDF

    従来のワンショットBRDFでは欠陥の有無の判別は可能だったが、3D形状として計測はできていなかった

  • カラーフィルターをマルチカラーのストライブ状のものに変更

    カラーフィルターをマルチカラーのストライブ状のものに変更し、色味に応じた角度を割り出すことで深さを導き出すができるようになった

また、得られた反射光角度分布を入力し、対象物表面の高さ分布(3D形状)を出力とする独自の計算アルゴリズムを開発し、DNNを用いて新規に実装。これは訓練データを不要とする独自のアルゴリズムで、対象物表面の傾斜角度と高さ分布の関係を、物理式を利用して学習するもので、これにより検査対象の表面形状が複雑でも、欠陥検査には充分な誤差数ナノメートル以内で表面の3D形状を再構築することが出来るようになったとする。

  • 教師無しDNN

    教師無しDNNを用いて計算結果出力までの時間を短縮することに成功

研究グループの実験ではワンショットにて、300mmウェハの12mm×8mmの領域を計測して、30nmの欠陥を映し出すことに成功。実際に、白色干渉計で時間をかけて計測したものと比較したところ、誤差10%以内に精度が収まっており、検査精度としては十分な性能を数十mm角という広い視野ながら発揮できることを確認したという。

  • 白色干渉計の計測結果との比較

    白色干渉計の計測結果との比較

研究グループによると、欠陥の有無でウェハをラインから除外する/しないといった検査であれば、ミリ秒単位での撮像でできるとの見方を示しており、そうした使い方であればインラインでのトレースも可能とするほか、3D形状の把握でも、GPUによるDNNベースの計算アルゴリズムの処理が入るが100ms(0.1秒)ほどとのことで、3D化まで含めた一連の処理であっても1秒以内の高速検査が可能との見通しを示す。

  • 今回開発された光学検査技術の概要図

    今回開発された光学検査技術の概要図。(a)が試作機のCAD図、(b)が光学系概略、(c)が新搭載のカラーフィルター、(d)が反射光角度の説明図 (出所:東芝Webサイト)

そのため、今後については、実際の前工程のウェハ欠陥検査装置に搭載するべく、量産ラインで使う場合の実装に向けた部分の技術開発を進め、パートナーとなる欠陥検査装置メーカーを見つけて、ライセンスの販売を行うことを目指すとする。また、その適用領域も必ずしも先端プロセスを用いるロジックのみならず、アナログやパワー、メモリでも行けるとの見通しを示しており、幅広い半導体製造分野での活用が期待できるとする。

なお、今回の研究の詳細は光学とフォトニクスの学会であるOPTICAの論文誌「Optics Continuum」に掲載される予定だという。