青山学院大学(青学)は2月13日、原子数層の薄さを持つ新奇原子層磁性体「Fe3GeTe2」(FGT)を接着テープによるバルク結晶の機械剥離で形成し、2個の破片を回転させながら直接積層したところ、回転角度に応じて破片間で電子のスピンが相互作用する「磁気トンネル接合抵抗」の特性が疑似的に現れることを発見したと発表した。

同成果は、青学大学院 理工学研究科 理工学専攻 機能物質創成コースの小幡玲二大学院生(研究当時)、同・春山純志教授らの研究チームによるもの。詳細は、機能性材料に関する化学と物理学を扱う学際的な学術誌「Advanced Materials」に掲載された。

FGTは近年盛んに研究されており、電子スピンに関する新現象が次々と発見されていて、例えば、「磁化を発現する温度が室温に近く高温」、「極めて高いトンネル磁気抵抗比が期待されること」、「スピンの渦状集団であるスキルミオンが高温で存在すること」などがわかっている。FGTのような原子1個から数個の薄さの破片(原子層破片)は、元の結晶から接着テープで剥離して作成される。金属から半導体、磁性体、超伝導体など、現在あらゆる原子層破片が同手法で創製され、基礎物性や素子への応用の両面から活発な研究が行われている。

さらに近年では、複数の原子層破片をスタンプを押すように積層させて、原子同士に自然と働く引力である「ファンデルワールス力」のみで結合させる手法が開発され、注目されている。中でも、2つの原子層破片を1度だけ回転させて積層すると、その物性が劇的に変化するという「魔法角」の発見が重要だったという。そこで研究チームは今回、FGTを2個作製し、大きく角度を変えて直接回転積層させたとする。

  • 原子数個の薄さの2つの磁性体破片をさまざまな角度で回転させながら直接積層した画像

    原子数個の薄さの2つの磁性体破片をさまざまな角度で回転させながら直接積層した画像。破片間には意図的にトンネル膜が形成されておらず、回転角45度で2つの破片間の結晶格子の不整合が大きくなる(出所:青学Webサイト)

磁気トンネル接合は、2つの磁性体を積層する際に、その間に電子が透過(トンネル)する程度の薄いトンネル膜を挟んだ構造のことをいう。その特徴として、同じ方向に自転する電子スピン同士はこの2つの破片間を透過しやすい一方で、逆向きに自転するスピンは反発して透過しにくい点が挙げられる。そのため、印加する磁場をプラスとマイナスの間で掃引し反転させると、その反転点であるゼロ磁場付近で2つの破片中の電子スピンの方向が逆向きになり、破片間の電子スピンの流れに高い磁気抵抗が生じる。この磁気抵抗の最大・最小の比が応用上極めて重要で、比が大きいほど磁気メモリ素子などへの応用が有利になる。今回の実験の結果、回転角に応じて、この磁気トンネル接合が自然と創製されることが発見された。

  • 回転角45度で積層させた試料によって発見された、疑似磁気トンネル接合抵抗特性

    回転角45度で積層させた試料によって発見された、疑似磁気トンネル接合抵抗特性。青線は、赤矢印で示されたゼロ磁場付近での長方形状のピーク。横軸が印加磁場で、縦軸が磁気抵抗の比。3つの挿図の矢印は、電子のスピンの向き。このピークが出る磁場領域では、2つの破片のスピンが反対向きになる(矢印方向が反対)ため、相互間にスピンが流れ難くなり、高い磁気抵抗比が出現する。破片間にトンネル膜が形成されてないにも関わらず、この特性が出現するのは驚異的であり、これが破片間格子不整合に起因することが突き止められた(出所:青学Webサイト)

一般にこの構造と特性は、2つの磁性体間にトンネル膜を挿入しないと起きない。しかし今回の実験では何も挿入せずに直接積層したことから、この不思議な結果が確認されたという。詳細な構造解析の結果、破片間のわずか数原子程度の隙間である「ファンデルワールスギャップ」がトンネル膜としての役割を果たしていることが示唆された。さらに、回転角度によって破片間に起きる結晶格子の不整合がこの隙間を変化させ、結果としてこの現象が発生することが解明されたとした。

研究チームは今回の成果により、将来的に次世代磁気メモリ素子などが、原子層磁性体の直接回転積層のみで創成できる道が大きく開かれたとしている。