東京大学大学院は、ミユキ技研、日本電気硝子、フォトンテックイノベーションズと共同で、バイオサイエンスや病理等で使われる透明化組織標本の3次元イメージングを、手のひらサイズの装置「HandySPIM」で実現したと1月30日に発表。従来装置と同等の解像度を追求しながら、導入コストも従来の数十分の一に抑えたとしている。
生体の3次元イメージングは、免疫染色や核染色を施した透明化組織標本を光励起し、その蛍光発光をイメージングする方法。その手法のひとつである光シート顕微鏡は、一般的には照明光学系と観察光学系、試料を走査するステージが一体となった装置として実現されるため、レーザーを用いた大がかりな光学系が必要で、光学系の調整などに専門知識を要し、導入維持コストが高額という点も課題だった。
今回の研究で開発したHandySPIM(超小型光シート顕微鏡光源ユニット)は、一般的な顕微鏡のステージに本ユニットを装着して組織標本へのシート照明が可能。レーザーではなくLEDを使うことで、SPIMの小型化や可搬性の向上、低コスト化を実現しており、複雑な光学系を使わないため専門的な光学知識や経験も必要なく、一般的な顕微鏡の知識を持ってさえいれば初心者でも使えるとする。
HandySPIMは、光シート(シート状のビーム形状に集めた光)の発生部と上下移動するサンプルホルダーで構成しており、従来の2次元顕微鏡のステージに置いて、光シートを励起光とした蛍光発光の2次元画像を顕微鏡で撮影。サンプルを上下に移動させることで3次元イメージングが可能になる。
HandySPIMの光シートの厚さは約20マイクロメートル。レンズで集光するのではなく、LED光を幅20mm、長さ10mm、厚さ10~20マイクロメートルの超薄板ガラスに結合させ、その対向端面からシート状の光を直接出射させる仕組みになっているという。電源はUSB-C。
研究グループによると、3次元イメージングの画像の解像度は使われる顕微鏡で決まり、高品位の3次元画像を取得するには標本の透明化も重要だという。一例として、LUCID(生体透明化試薬)を用いて透明化された組織標本を、HandySPIMと一般の顕微鏡の組み合わせで撮影した画像を比較し、「高価な3次元イメージング装置で取得された画像と比べても全く遜色がない」としている。
LUCIDを用いることで高い透明化が達成され、LUCIDで透明化した標本は、10年以上保存可能としており、他の透明化試薬では実現されていない特徴とのこと。今後、LUCIDとHandySPIMを用いることで、遠隔3次元病理診断への発展も期待できるとしている。また、高等学校での授業や部活動など、これまで想定されていなかった場面でも3次元イメージングができるようになり、今後3次元イメージングの飛躍的な普及が期待されるとしている。