東北大学などは、光を情報処理に活用することで高速・省電力な計算処理が期待される、フォトニックコンピューティング(光コンピューティング)に関する研究として、電子スピン制御による光情報の長期記憶(光メモリ)の性能を実証したと1月20日に発表。高度情報処理の大規模化などが期待されるとしている。
光コンピューティングにおいては、光メモリを実現できれば情報処理のさらなる大規模化を実現できる可能性があるとされる。そのため、偏光双安定性(ふたつの異なる直線偏光の向きを安定に保つ性質)を高速に制御できる、光メモリの一種である「面発光レーザ」(半導体レーザの一種。基板に対して垂直方向に光を出せる)の利用が期待されている。
しかし、電流や温度といった特定の駆動条件において、偏光双安定性が得られるかどうかはレーザの材料や構造に依存するため、最適化が難しいという課題があった。
今回の研究には、東北大学電気通信研究所の横田信英准教授と八坂洋教授、産業技術総合研究所プラットフォームフォトニクス研究センターフォトニクスシステム研究チームの池田和浩研究チーム長と新原理コンピューティング研究センタースピン機能材料チームの揖場聡主任研究員、大分大学理工学部の片山健夫准教授が参加。
面発光レーザ内部の電子のスピンを歳差運動(コマのように、自転する物体の回転軸が円を描くように変化する現象。電子スピンは磁場方向を軸として回転する)させ、出力光の偏光状態を調べた結果、偏光双安定性の出現条件を歳差運動の周波数によって制御できることを発見し、これを利用した新しい偏光スイッチング動作が可能であることを実証したという。
面発光レーザの内部では、スピンと光が選択則を介して相互作用し、その結果が出力光の偏光状態に影響を与える。今回の研究では、スピンノイズの歳差運動によって相互作用を制御することにより、出力光の偏光状態を制御することに成功したとのこと。
歳差運動の制御に限らず、電子スピンの電気的制御技術は近年発展しており、光メモリにスピンデバイスの技術を融合した新技術の発展が幅広く期待されるとしている。この成果は、米国物理学協会が発行する学術論文誌「APL Photonics」に、“Featured Article”(編集委員会により特に重要性が高いと評価された論文)としてオンライン掲載されている。